色彩のメルヘン

 
 
 それを考えるのは難しいが、感じるのは易しい。パウル・クレー(Paul Klee)の絵は、私にとってそういう類の絵。

 生まれは、聳え立つ山々に囲まれたスイスの古都ベルン近郊。父は音楽教師、母は声楽家で、後に妻となった女性はピアニスト、自身もバイオリンを弾きこなす。
 詩を書き、絵を描き、音楽を奏でるのは、生涯にわたる。けれども、進んだ道は絵画だった。
 だからクレーの絵は詩的で音楽的。描線と色彩には心地好いリズムとハーモニーがあり、芸術家らをふと抱きすくめる、あの霊的な世界の声なき言葉に満ち満ちている。切ないような悲しみを感じ、けれども最後にはふっと微笑んでしまう、そういう絵。

 クレーの作風と技法はあまりに多彩で、これと言ったラベルを貼ることができない。「青騎士」の運動にも与しているが、チュニジア旅行を機に色彩が爆発し、以降、その色彩が褪せることはなかった。

 ナチスが政権を握ると、クレーの絵は「頽廃芸術」として迫害されるようになる。故郷ベルンへと亡命した後には、皮膚硬化症という難病を発症。闘病のなか、思うように動かない手で描かれた絵は、天使を知っている人が描いた絵。
 まだ生まれていない者やもう死んだ者たちのいる世界の存在を知っていて、そこから霊感を得ることができた人の絵。

 画像は、クレー「高いC音の勲章」。
  パウル・クレー(Paul Klee, 1879-1940, Swiss)
 他、左から、
  「黄金の魚」
  「聖なる猫の山」
  「水のピラミッド」
  「バラの庭園」
  「ナイルの伝説」

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