豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

一般向け、トムラウシ遭難の教訓

2010年06月13日 | 遭難と救助について考える
トムラウシの事故からまもなく1年ですね。





あの事故はガイドがアレで、ガイドを雇っていた会社もかなりアレだったわけですけど、だからと言って「これはツアー登山の問題だ、オラには関係ねぇ~」というのでは危険ですね。「あの時、ヒサゴ沼避難小屋にいたら、オレも特攻しちゃったかもしれない」と考えておくのが、人の道だと思うです。








というわけで、この遭難事故から一般ピープル向けに教訓を引っ張ってみましょう。




○降雨中でなおかつ体を傾けないと行動できないような強風下では、気軽に行動するな

雨が降っている状況で風に向かって正対した時、身体を傾けて、風に向かって体重を掛けないと動けないような強風が吹いている時には、気軽に行動してはいけません。

このような天候の下、数時間程度行動したところで、99%は安全でしょう。しかし、トラブルが発生した時に、それに対応するための余地が無いことを理解しておくべきです。また、このぐらいの強い風が常に吹いていると、一時的に5割り増しの強風が吹きます。真っ平らな登山道ならともかく、細い稜線では強風に飛ばされて危険なことになります。

さらに、鞍部を通過する際には風が収斂するので、予想以上の強風が局所的に吹いている場合があるのです。

山小屋がある場所は地形的に強風から守られていることがあります。そんなわけで、本当の風の強さは稜線に登ってみないとわかりませんし、鞍部の通過ではもっと強風になっていることがあります。山小屋を出た時点で風が強いと感じる場合、この先ではどうなるのかをじっくり検討すべきですね。



○「数年~十数年に1度の悪天候」に、人はヤラれる

さて、前述の「体を傾けないと行動できないような強風」とは、およそ風速15m前後になります。風速10~12mぐらいなら夏山でもごく普通に遭遇するでしょうけど、15mともなると毎年夏に1度北アルプスを訪れる程度の人では経験せずに終わってしまうかもしれません。これがトムラウシ遭難で吹いていたという風速20mともなれば、夏山では滅多に遭遇しないでしょうね。

トムラウシに関する例の報告書では、気象観測機器のデータを基にして「数十年に一度と言うような極端な気象条件下ではなかった」としています。

しかし、我々日本人の多くが、年末年始やGW、夏休み、お盆休みといった、特定の期間に集中して山を登るわけです。ですから、毎年発生している事象であっても、GWや夏休みに発生しなければ一般の人はなかなか体験できないのです。毎年起きる現象であっても一般登山者からすれば「数年~十数年に1度の悪天候」なのですよ。

トムラウシ遭難のような悪天候が夏山シーズン中に何度も発生するなら、逆に気象遭難は起きなくなると思います。なぜなら、あのような悪天候が夏山でのスタンダードになるからです。あの天候が当たり前のように発生するなら、誰だって注意を払うようになるでしょう。

幸いなことに、現在は気象情報が発達しています。で、テレビやラジオで大騒ぎしているような時、山はそれこそ大荒れになるケースが多いわけです。そういう大騒ぎを事前に掴み、無理な行為を慎めば、そう簡単に夏山で気象遭難にハマることは無いと思いますよ。


続く、予定