華氏451度

我々は自らの感性と思想の砦である言葉を権力に奪われ続けている。言葉を奪い返そう!! コメント・TB大歓迎。

ご一緒に「いくじなし宣言」しませんか

2006-09-19 23:33:14 | 雑感(貧しけれども思索の道程)

〈マッチズモを嫌悪する〉

 私はマッチズモが嫌い――というか感覚的に受け入れられない人間である。私が石原都知事と自分を「永遠の平行線」だと思う理由は幾つもあるが、そのひとつとして彼がマッチズモ剥き出しの人間だという点が挙げられる。

 私は正真正銘の腰抜け、いくじなしだ。かなり前に、恥も外聞もなく「いくじなし」という記事まで書き、その中で次のような呟きをした。(読むのが面倒な方は、次の小見出しまで飛ばしてください)

【私はいくじなしだから、勇ましい言葉が恐ろしい。私はいくじなしだから、できれば面倒なことになど関わらず、ひっそりと息づきながら街の裏通りで生きていたい。食べていけるだけの稼ぎをして、本を読みながらぼんやりとつまらない空想の中に漂っていたいのだ。それなのに共謀罪反対だの、憲法改定反対だのと怖ず怖ずとではあれ声を出したりするのは、これまた私がいくじなしだからだろう。 いくじなしにとっては、「不寛容な社会」は何より怖い。精神総動員がかかったら(むろん既にかかり始めているのだが、それが法制度に支えられてさらに露骨になったら)「イチ、抜~けた」と言ってすたこら逃げ出したくなるに違いない。でも本当に逃げられるのだろうか。とっつかまって、連行されるのがオチではないだろうか。机叩かれながら怒鳴られ、死ぬほど殴られたりしたら、いくじなしの私は「すみません、すみません」とヘイコラ頭を下げてしまうだろう。それどころか、とことん卑劣な人間に堕ちて、友人も親も売ってしまうに違いない。前にも言ったような気がするが、私は脅し上げられれば白目を剥いて小便を漏らし、意気地なく踏み絵を踏んでしまう人間なのである。自分でもなさけないけれども、客観的に見てそうとしか思えない。だから……そんな社会になる前に必死で食い止めなければ、ご先祖様に申し訳ない……じゃなかった、自分に唾吐きかけたくなるだろう。藤原定家は「紅旗征戎わがことにあらず」とのたもうたが、いくじなしの私はこんなカッコイイことはとても言えないのだ……。】

〈森毅のいくじなし宣言〉

 こんな開き直りめいたことを言う私はやっぱりダメな奴なのかも知れないな、と内心忸怩たる思いもあったのだが、ふとしたことで数学者・森毅氏の『いくじなし宣言』という一文を読んで膝を打った。彼も自分をいくじなしだと堂々と言っている。マッチョなヒロイズムは大嫌いだとも。頭のレベルは天と地ほど違っても、感覚が共通することは大いにあるのだ。(初出は青土社『現代思想』第32巻第3号だが、既に彼の短い文を集めた著書におさめられているかも知れない。その辺はまだ確かめていない)

 全文紹介すると膨大になるので、ポイントになる部分をいくつか紹介しておく。

【そうなったら(注・人が人を殺すことのできる世界になったら)たぶん、ぼくは殺される側にまわるだろう。なにしろ、生まれてからただの一度も、喧嘩というものに勝ったことがないのだからなあ。負けると決まっていることをやるのは、自殺のようなもので、ぼくはそれほど自虐的でない。】

【靖国問題のややこしさは、殺された人の魂が美化されていることにあろう。そのうえに、東条さんが昭和さんの身代わりで死刑になったようなイメージまであったりしては、ややこしすぎる。隆盛さんを祀らなくてよかった。】

【いくじなしは女の子にもてない、というアメリカ文化の伝統があるが、女はみんなヒーローに憧れるなんて、一種の女性差別。それに、いくじなしが多いほうが、平和でいいじゃありませんか。死はすべて犬死にと思って、いくじなしのままで死にましょう。今でも「身命を賭して」なんて言いたがる人もいるが、それはチャンバラ映画とヤクザ映画だけにしてほしい。】

【ぼくはいくじなしと、ここに宣言する。サムライなどにはなりたくない。ヒーローや、プライドとは無縁。そして、一人のいくじなしとして、戦争や死刑はないほうがよいと思います。少なくともそこに、国家や宗教を持ち出さないでください。】

〈今こそ、いくじなし宣言を〉

 いくじなしが多いほうが平和でいいとか、サムライなどになりたくないとか。さすが巧いことを言うなあ。そう……「人を殺すなんてヤだ。怖い」「勇ましいことなんか言いたくない」「強くなんかならなくていい」「ヒロイズムなんぞとは無縁で暮らしたい」等々、いくじなしの生き方を肯定することで、人間は初めてオカミの管理・統制から自由になれるのかも知れない。皆さん、ご一緒に「いくじなし宣言」をしませんか。

コメント (85)
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