環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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スウェーデンの「脱原発政策の歩み」⑥  判で押したような日本からの「2つの質問」

2007-11-04 05:23:45 | 原発/エネルギー/資源


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皆さんへのお願い:10月30日から始めたこの連続講座「スウェーデンの脱原発政策の歩み」(私の理解では「エネルギー体系修正のための政策」という表現のほうが適切だと思う)がカバーする範囲は、1960年代から1990年頃までです。その頃を振り返りながら読んでください。その後のスウェーデンのエネルギー政策は「緑の福祉国家22~30:エネルギー体系の転換」を参照してください。 
 

スウェーデンのエネルギー政策で注目すべき重要な点は「原発に依存する現在のエネルギー体系」を、可能ならば「原発に依存しない、環境にやさしい、持続可能なエネルギー体系」に変えて行くというエネルギー体系の修正です。スウェーデン政府はエネルギー政策が環境問題と密接なかかわりがあることを十分認識してきました。

その上で、原発を段階的に廃棄して行こうとするわけですから、スウェーデンのエネルギー政策の当面の大きな柱は「電気の合理的利用、省電力および省エネルギー」です。めざすところはこれまでの「集中型エネルギー供給システム」からローカル・エネルギー主体の「分散型エネルギー・システム」への転換です。

この政策を実行に移す社会的な前提としては、産業構造、交通体系および家庭など社会全体の電気の利用方法を見直す必要があります。そして、必要ならば、法の改正等の社会システムの変更を伴うので、政府機関を挙げての協力と産業界および国民各層の協力が必要となります。これらの十分な協力があって初めて「スウェーデンの意図する脱原発」が可能となるのです。
 
私はこれまでに、日本のエネルギー関係者やジャーナリストをはじめ、エネルギーに関心を持つ一般の方々まで様々な人々からスウェーデンのエネルギー政策について質問を受けました。私がおもしろいと思ったのはそれらの質問の大部分が

(1)スウェーデンは本当に脱原発ができるのか?
(2)その場合の代替エネルギーは何か?

の2点にみごとなまでに集中していることでした。これらの問いに対する私の答えは前述したとおりです。 日本のジャーナリズムやエネルギーの専門家は日本の狭い視点のみで、スウェーデンのエネルギー政策を分析し、論じているため、「スウェーデンのエネルギー政策が福祉政策と連動している」という最も重要な視点が完全に欠落していますし、「エネルギー政策が環境政策をはじめとする国の他の重要な諸政策とも連動している」という視点もほとんどありません。

このことは日本の縦割り行政のために、日本のエネルギー政策が福祉政策とは連動しているとは考えず、国の他の政策とも連動してるとは考え難い状態にあることを意味しています。
 
スウェーデンのエネルギー政策について、私がここで、もう一度強調しておきたいことは「スウェーデンが長年かかって築き上げてきた福祉社会を維持し、発展させるために、エネルギーが必要であり、その福祉社会に適したエネルギー体系が必要である」ということです。

ここで、皆さんにぜひ思い出していただきたいのは、8月29日のブログ(下記の関連記事)で紹介しましたように、スウェーデンの福祉は、他の工業先進国の福祉と「質」が異なるということです。スウェーデンの福祉は、簡単にいえば、「すべての国民の通常の生活水準を高めるサービスだ」ということです。それは「スウェーデンの政治目標が福祉である」からです。

関連記事

進化してきた福祉国家⑦ 他の先進工業国の「福祉(政策)」との質の相違(8/29) 


1985年のエネルギー政策ガイドラインには「スウェーデンのエネルギー政策は福祉社会に貢献しなければならない」とはっきり書いてありますし、さらに

    (1)経済、産業の持続的な発展に貢献しなければならない、
    (2)失業を増やしてはならない、
    (3)社会的、経済的な機会を均等に与えなければならない

と明記されています。当然のことながら、「環境への配慮」も明記されています。



 



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4 コメント

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Unknown (しゅとう)
2007-11-05 13:16:09
小澤先生、こんにちは!
いま「21世紀も人間は動物である」を読んでいます。
途中まで読んだ感想は、これからの日本にはやはり「民主主義の成熟」ということがキーポイントになるだろうと思いました。
さまざまな大規模な建築物を作りながら、一方では「こまめに電気を切りましょう」と呼びかける。環境問題の本質を少し勉強すればだれでも矛盾していることに気づくはずです。そういう意味で市民一人一人が「現状をよく知る」「環境問題の本質を知る」ということから始めていくことが今の日本に一番必要なことなのだと思いました。
最後の挨拶では「オブザーバーの職を辞し、私たちが安心して暮らせる『持続可能な社会』に変えていこうではありませんか」という言葉に、腹を決めた覚悟を感じました!
これからも陰ながら、日本を持続可能な社会にしていくために、積極的な応援をしていきたいと思います!
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あれから15年が経ってしまった (小澤)
2007-11-07 07:24:02
しゅとうさん、コメントありがとうございます。

15年前に、あのメッセージを書いたときには、日本はもっと早く行動できるだろう、行動するだろうと思っていました。70年代に入って、国際機関からは環境・エネルギー分野でたくさんの警告メッセージが届くようになってきたからです。

私がそう考えたのは、日本の官僚や政治家、経済界の人など社会のリーダーが大好きな「日本は世界に冠たる省エネ国家や環境技術を有する国」ではなくて、それこそ、識字率が高く、移民の数が少なく日本語で意思疎通が十分できる、情報の発信も受信もしやすいハードな面は整っている、そして、「大学への進学率の高い国」、つまり、国際社会が発するメッセージを十分理解し、行動する能力があると考えたからです。

残念ながら、私の期待は裏切られました。上のような好ましい条件が一見整っているかのように見える日本ですが、実際は現状の山積する経済的・社会的問題もなかなか解決する方向に向いているようには思えません。また、国際社会の動向の分析も十分ではなく、国際社会に振り回される傾向があります。

今、掲載中の「スウェーデンの脱原発政策の歩み」は、私が15年以上前に書き貯めておいたものです。
15年前には理解していただけなかった「スウェーデンのエネルギー体系修正のための政策」をあえて掲載しようと思ったのは、いま読んでも日本の現状に参考になるのではないか、今なら理解していただけるかもしれないという淡い期待によるものです。

しゅとうさん、そして、ブログを読んでくださっているみなさん、どうして日本の状況はなかなか改善する方向が見えないのでしょうか? 政治も、経済も、社会も、環境問題も・・・・・皆さんの分析に期待をしています。
返信する
あえて考えると。 (しゅとう)
2007-11-16 11:43:22
>どうして日本の状況はなかなか改善する方向が見えないのでしょうか? 
>政治も、経済も、社会も、環境問題も
どうしてなのでしょう??分かりません。。。

あえて今考えれば、僕が「環境問題が21世紀最大の問題である」という意識が芽生えたのは、
今年の猛暑と台風の猛威、11月になっても台風が発生しているなど、
肌で感じられる異常気象、、、
そして小澤先生の考え方に触れて、環境問題の本質が分かり始めてからのような気がします。
そのような考えが日本人全体がまだ認識ができていないからではないでしょうか。

教育の質もあると思います。
くるべさんの本ではスウェーデンでの大学教育では、
科学的思考、論文の書き方がが叩き込まれる
みたいなことが書かれていました。

僕が科学的思考とは何か?を学んだのは、ウィルバーの本を読んでからです。
科学とは、
①ある仮説を立てて、
②その仮説におけるデータを、実験を通して収集、直接経験し、
③その仮説が本当に現実的に正しいか?事実か?を検証し、
④その仮説が正しければ、法則として導かれる。
という方法論です。
自然科学、社会科学、人文科学のあらゆる学問の基礎になる方法論です。
この方法論を今の日本の高校、大学はちゃんと教えているでしょうか?
僕は、教えていないと思います。
返信する
私が思うに・・・・・ (小澤)
2007-11-17 10:25:55
しゅとうさん、お考えをお聞かせいただきありがとうございます。

私の考えは既に以前のブログで描いたかもしれませんが、次の4点です。

①ものごとの本質を見ないで、表面的な現象面に着目すること。
②論理的な思考が欠落していること。
③②と関連するが、ものごとを一つ一つ独立して考え
(バラバラに考え)、システム思考が薄いこと。
④ほとんどすべての分野で倫理観が喪失していること。

10年以上前のことで恐縮ですが、今日(11月17日)のブログ「学校での原子力教育はこれだと思った!」をご覧ください。

http://blog.goo.ne.jp/backcast2007/e/73b32da9c58e7d9d72763638ad9b388e
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