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イエスは預言のメシアか

2012-03-18 09:17:21 | 焚書/解体


マタイ福音書の特徴と言えば、旧約聖書の言葉を盛んに引用して“旧約預言の成就”としてのイエスを描く事に腐心している点にある。

しかし敬虔な不正行為が発覚した「14世代作戦」同様、熟読すると頓珍漢な聖句引用の繰り返しが目立っている。自慢気に披露された偽りを並べてみよう。

1章22-23節
全ての出来事は、主が預言者を通して言われた事が成就するためであった。「見よ、処女が身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる」
引用元 イザヤ7:14
この詩はイザヤがアハズ王の子(ヒゼキヤ王)に期待して残した預言であり旧約の時代だけで完結した文を引用している。

「処女」という語は不適当な訳語 [イザヤの原文(ヘブライ語:アルマ)は処女の意までを含まない] とされ、処女降誕の預言として用いられたとすれば、マタイはギリシャ語訳(パルテノス=英語のバージン)の聖書を読んでミスを犯した事になりそうだ。
(マタイの訳文…「処女」:新改訳・現代訳・回復訳・新世界訳 「乙女」:共同訳・新共同訳・口語訳・フランシスコ会訳・岩波訳)
詳細: http://ja.wikipedia.org/wiki/処女懐胎

2章6節
「ユダの地、ベツレヘムよ。お前はユダの指導者たちの中で、決して一番小さい者ではない」
引用元 ミカ5:2
文意を変更しながら引用している。ミカ書5章
「エフラタのベツレヘムよ。お前はユダの氏族の中で最も小さい者だが....」  イエスの出身地は『ルカ』ではナザレ、『マタイ』ではベツレヘムなのだ。

2章15節
「わたしは、エジプトからわが子を呼び出した」
 引用元 ホセア11:1
 唯一、難癖の付けられない預言。

21章5節
「見よ、お前の王がお前のところにおいでになる、柔和な方で、ろばに乗り、荷を負うろばの子、子ろばに乗って。」
引用元 ゼカリヤ9:9
字面(詩的な反復法)に囚われるあまり、哀れにもろばの数が増えてしまった。 
ろばと子ろばを引いて来て、その上に服をかけると、イエスはそれにお乗りになった」(マタイ21:7)
他の福音書は1頭。
「子ろばを連れてイエスのところに戻って来て、その上に自分の服をかけると、イエスはそれにお乗りになった」(マルコ11:7)

27章9節 (ユダの裏切り)
「こうして、預言者エレミヤを通して言われていた事が実現した。「彼らは銀貨三十枚を取った。それは、値踏みされた者、すなわち、イスラエルの子らが値踏みした者の価である」」
引用元 ?
エレミヤ書、旧約続編エレミヤの手紙にもこの預言はない。ゼカリヤ書11章の引用と思われるがユダの裏切りや処遇についての記述は特にない。また『使徒行伝』ではダビデの預言(詩篇)が成就した事になっている。

12章40節 (イエスの予言)
「つまり、ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三晩、大地の中にいることになる」
イエスは金曜日の午後に埋葬され日曜日の朝には復活。よってイエス自身の予言までも外れてしまった。(『マタイ』のみの発言)

マタイの加筆: 墓を見に行った女達
マルコ16:4 石は既にわきへ転がしてあった。 ルカ24:2 見ると、石が墓のわきに転がしてあり
ヨハネ20:1 墓から石が取りのけてあるのを見た。 マタイ28:2-3
すると、大きな地震が起こった。主の天使が天から降って近寄り、石をわきへ転がし、その上に座ったのである。その姿は稲妻のように輝き、衣は雪のように白かった。

十字架の場面
マルコ15:37-38  イエスは大声を出して息を引き取られた。
すると、神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂けた。
マタイ27:50-52 イエスは再び大声で叫び、息を引き取られた。
そのとき、神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂け、
地震が起こり、岩が裂け、墓が開いて、眠りについていた多くの聖なる者たちの体が生き返った。


『マタイ』は『マルコ』を下敷きにして書かれた事が通説であるため上記はマタイの加筆になる。最もユダヤ的な良書とされる『マタイ』でも、ギリシャのロマンチックなフィクションと競合した跡を残しているのだ。

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バビロン捕囚を解放したペルシャ王
キュロス、神殿を再建したゼルバベルが聖書内でメシア(油の子)視されているのはユダヤ教のメシア観を良く表している。 (イザヤ書、ゼカリヤ書)
「主は油注がれた者キュロスに、こう仰せられた」 (イザヤ45:1)

政治的に無名で、ローマ帝国からの解放と王政復古の率先者でもない男に関するメシア預言がある筈もなく、恐らくマタイの目的の為には、使えそうな記事を適当にイエスに切り貼りするよりなかった。その中に聖書の盗難を訴えるユダヤ教徒を納得させるような物は残念ながら1つもないだろう。

1世紀に実在の物証が皆無である急造救世主の悲劇の構成の露出は、キリスト教の諸設定が自らの宗教を広めたいヘレニスト達による神聖なでっち上げに過ぎなかったという結論をいよいよ不可避にしているように思われる。


画像出典: CoolChaser 

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4 コメント

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メシアとは (クッキングホイル)
2012-03-21 21:14:11
メシアとはイスラエルに益をもたらすもの。最低条件ですよね。神がイスラエルに与えた約束を反故にしてしまう人物が「油注がれたもの」となるはずが無い。その通りですよね。
Re: メシアとは (秀和)
2012-03-22 06:05:08
ユダヤ教がイエスを認めていないのは当然でしたね。愛の偏狭なユダヤ人の辞書に人類の救済の文字はなかったらしく
メシア(クリストス) = 救世者
は「世」を「ユダヤ」に換えない限りほぼ誤訳。その観点から見ればキリスト教の歴史は反メシア/キリストで確定でしょう。
負け犬の死 (Alexander Magnus)
2012-03-26 21:44:18
そもそも、自分さえ救えなかった負け犬が何故、救世主なんですか?理解不能です。新約聖書での
イエスの説教も、アル中の説教みたいだし・・・
Re: 負け犬の死 (秀和)
2012-03-28 02:04:18
無抵抗で死ぬ事で世を救ったという設定のようですね。(信者の罪は明らかに悪化しているのでこちらも理解不能)
戦後発見されたトマスによる福音書は教祖のアル中ぶりが顕著になっていて面白いです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%B9%E7%A6%8F%E9%9F%B3%E6%9B%B8
イエスが言った、「私の口から飲む者は私のようになるであろう。そして、私もまたその者になるであろう。そして、隠されていたものがその者に現われるであろう」

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