飛行中年

空を飛ぶことに薪ストーブ、そして、旅をこよなく愛する一人の中年のブログです。

鎧とM2 その4

2009-07-27 17:17:15 | ハーネス(HG harness)

日本に帰ってきた私は、その後、何度かArminと連絡をとりながら、新しいハーネスの開発へとのりだした。

そして、彼は彼でM2ハーネスをより進化させていき、今回見たACERからScissorと進化させたハーネスを作ることとなったのである。

私はArminに出会う前に、既に、レッグストラップを今までより前からとる、新しいハーネスを独自に開発していた。

これは初期の鎧ハーネスであり、現在はArminが発見したVGF方式に変更されているが、今でも、シンプルで優れた方式のため、弊社のX‐SPORTに採用されている。

レッグストラップを前から取るという簡単なことで、以前は使い物にならないと思われていた三分割フレームハーネスが、まるで初級ハーネスの様に取扱いが簡単になった優れたモデルである。

そして、Arminと同じ様にVGF方式を使ったコンペハーネスも、私はどんどん進化させていったモデルを開発していくことになった。

開発当初、理論的なところは直ぐに見えていたので、コンピュータを使ったかんたんな数学モデルで解析が出来ると安直に考えていたが、さにあらず…。

ピッチトリマーの摩擦力が、そのときにかかる荷重で、摩擦係数が劇的に変わっていることが分かり、結局、メイク&トライで最適なロープとピッチトリマー、そして、フレーム寸法を割り出していくしかないとに気がついた。

更に、機械的な部品もいくつか開発する必要が分かったので、結局いつの間にか、旋盤も扱いこなせるようになっていた。

苦労に苦労を重ねて、ようやく、性能的にはどのメーカーのハーネスにも勝るハーネスが作れるようになった。

ここで問題になるのがコスト…。

本来、二分割フレームハーネスはバックプレートが二枚あるため、当然バックプレートのコストも二倍になってしまう。

しかし、私としては消費者に安価で性能の良いハーネスを提供したかったため、新しいアイデアを実用化に取り組んだ。

そのアイデアとは、バックプレートに安価なGFRP、つまりグラスファイバーを使用することだ。

通常ならばGFRPは剛性が不足しがちなため、荷重がかかるとバックプレートが変形してしまう。

これを嫌って、他メーカーはCFRP、つまりカーボンをバックプレートに使うが、しかし、GFRPに比べ、バックプレートだけで4~5万円コストが上がってしまう。

そこで私が考えたのは、アルミ材との組み合わせであった。

主な形はGFRPで作るが、荷重がかかる場所には、7N01の角アルミ材を使用し、カーボンに匹敵する剛性を出すことに成功したのである。

重量的にはほとんど変わらず…。 価格だけを4万円以上下げることに成功したのである。

こうして私の鎧ハーネスシリーズは現在のRXC-RFへと進化していった。

その後Arminとは、M2がハングハーネスから撤退してから連絡は途絶えてしまったが、出来れば彼と再び会い、そして、今の私の鎧を見て欲しい。

次回からは、こうして作り出されたハーネスが、実際に工場の中でどのように出来上がって行くか、その工程を皆さんにご紹介したい。

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鎧とM2 その3 

2009-07-13 19:53:05 | ハーネス(HG harness)

私は、そのとき目の前にあったハーネスACERをみながら、Arminと話を続けた。

Arminは新しいハーネスに取り組んでいるうちに、偶然、二分割フレームハーネスが従来にはない理論でスライド量を押さえながらも起き上がりの良いハーネスを作ることができた。

この効果はもっと研究してみる価値があると、わたしはArminに強く薦めた。

そして、私自身も、これと同じ理論で新しいハーネスを作ってみたいと強く思った。

新しいハーネスを作り出してみたいと思い続けながらも、何度も失敗していた私にとっては、まさに一光の光が見えた気がした。

さらに、Arminが作り出したACERには、他にも優れた長所があることに、私は気がついた。

まず、フレームが二分割になっていることにより、従来よりも大きなフレームが使える可能性があることだ。

ハングのフレームハーネスに使われているフレームは、大きければ大きいほど居住性が良い、つまり、疲れにくいハーネスになる。しかし、フレームが大きすぎた場合、テイクオフ時に足がフレームにぶつかってしまい走れなくなるのである。

また、体の自由度も奪われるため、起き上がりも悪くなり、さらに、おき上がったとき、ハーネス内の体のずり下がりにより、頭の後ろにフレームがぶつかってしまうこともあるのである。

しかし、ACERのような二分割ハーネスの場合、走り始めるとハーネスがグライダーに吊り上げられるため、後ろのフレーム部が上に引き上げられ足にぶつからないのである。

これならば、今までの常識を破る大きさのフレームを入れることが出来、今までのハーネスよりも居住性が優れたハーネスを作ることが出来る。

さらに、フレームを二分割にしたため、パイロットのピッチアングルを飛びながら自由に変えられる機構も、極端にシンプル化することが出来ることにも、私は気がついていた。

それまでは、シングルフレームのハーネスは、尻、もしくは背中でフレームの中にあるロックを解除して、ピッチラインの長さを変更し、ピッチ角を変更する機構があった。

しかし、正直この機構は機械的に動くもののため、トラブルの可能性がどうしても残ってしまい、正直、私は好きではなかった。

そして、Arminが新しく作り出したACERは、前後に張られたピッチラインを、メインラインに取り付けられたピッチトリマーの摩擦力により、ピッチアングルを固定するシンプルな方法が取られていた。

この方法は、尻でロックを解除する方法よりも、はるかにシンプルであり、故障も少ない優れた機構である。

しかし、Arminが作ったこのハーネスのピッチトリマーには欠点もあった。

それは、ACERのピッチトリマーは、鋳造と言われる方法で作られていることである。

この方法の場合、コストはかからないが、しかし、単一の形状のものしか作れず、摩擦力が一つの力のものしか作り出されない。

しかし、このとき、私はすでにこのピッチトリマーも、試作品を50種ほど製作しており、ネジによる摩擦力の変更機構を完成させ、そして、旋盤による1/100ミリの精度で製作可能な、削り出しという工作方法を取っていた。

それにより、本来パイロットの体重に対して微妙に摩擦力を変えなければいけないピッチトリマーを、ACERのものよりも、より完成されたものを作り出していたのである。

上の効果を総合すれば、シンプルで故障も少なく、居住性も高いものを持ち、テイクオフ、ランディング時の体のずり下がりも押さえられる、画期的なハーネスが作れる!!!

私はそのとき、心に火がついたのである…。

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鎧とM2

2009-07-06 17:40:25 | ハーネス(HG harness)

私はArminと話しているうちに、ハングハーネスについて、全く同じ問題点に取り組んでいることが分かった。

それは、フレームハーネスが持つ、ランディング及びテイクオフ時の体のずり下がり問題についてである。

フレームのないハーネスでは、体が自由に動くため、ランディング時は背筋の力によって体を起こすことが出来る。

しかし、フレームハーネスの場合、体が自由に動かないため背筋の力では体は起こせない。

そのため、メインラインを重心位置よりも前に移動して体が起きるようにしている。

しかし、この動きは同時にコントロールバーに対して体の位置が下に下がってしまうことを意味している。

この結果、テイクオフ時は体がグライダーに吊り上げられるタイミングが遅れてしまい、アップライトを持つ腕が上に引き上げられてしまい、グライダーのホールドが出来なくなってしまう。

また、ランディング時はコントロールバーに対して体の位置が下に下がってしまうため、アップライトを持つ手の位置も下がってしまい、フレアーが効かなくなってしまうのである。

このことについては、EXEホームページ中、RXCとRXC‐RFの頁の中にあるVGF説明にて詳しく記載しているので、是非見ていただきたい。

上記の問題はフレームハーネスの宿命的なものであったが、常々私は未来型のハーネスを作るには解決しなければいけない問題と思っていた。

そして、Arminと出会う前に、既に10着ほどの試作ハーネスを作り新しいアイデアを検証していたが、一部を除き、これという結果を出せないままでいた。

しかし、Arminは、私と全く同じ問題にオーストリアの地で取り組んでいたのである。

そして、彼はその答としてM2ハーネスを製作したが、しかし、これもまだまだ完成されてはいなかった。

しかし、今目の前にあるハーネス、ACERはちょっと違う。

その機構をよくよく見ると、ただ単純にメインラインのスライドによって体が起きるというだけでなく、明らかに、ハーネスのフレームとピッチラインが一種の「リンク」を形成して、メインラインのスライドの力の一部を、体が強制的に起きる力に変換している、今までのハーネスと全く違うものだったのである。

Arminは私に言ってくれた。

従来のM2は確かに体が起き辛いものだった。その欠点を克服するために、フレームを2分割にしてメインラインを少し動くものを作ってみた。そうしたら、従来のハーネスよりも少ないスライド量で体が起きてしまうハーネスが、偶然出来上がってしまったんだ。

ACERハーネスをよくよく見ると、本来パイロットのピッチアングルを変えるピッチトリマーの持つピッチラインの摩擦力が、体を起こすとき効をなし、フレームにリンク効果をもたらしていることが分かった。

これはすごい効果だ!私はそのとき思った。

そして、このハーネスの持つ機構に、未来のハーネスを感じたのである。

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