Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

イナギ02-セラピー?

2012-10-01 21:04:08 | 伝承軌道上の恋の歌

 そこはとある公民館の一室。普段はダンスホールにでも使われてそうな窓以外の三方がガラス張りで手すりがついていた。その中心にこぢんまりとパイプ椅子を並べて輪になっている。僕達を含めて全部で四人と六つの椅子。
「ははは、新しい人達が二人また入ってくれるって話なんだけど、今日は来なくって…」
 僕の顔色を察してか、背の高い女の人が屈託ない笑顔ではにかんだ。入る時にされたさっきの自己紹介によれば、名前をアキラ、というらしい。女だけどアキラ。珍しいけどなくはないか。そしてその隣の陰気そうな青年がシルシ。こいつの顔はよく知っている。
「じゃあ、まずは自己紹介から。お二人はどういうご関係で?」
「そう、ひとつ違いの兄妹です。だよな?」
 僕はそう答えて、ヨミと目を合わす。
「…お兄様、私に聞かれましても…」
 ヨミも笑いかけてくれた。
「…へえ。イナギさんが羨ましいな。こんな可愛い妹さんがいて…それに僕も妹がいたので余計に……歌が好きでアイドルに憧れてて…ヨミさんほどは美人じゃなかったんでなれなかったかもしれないな、はは…」
「へえ、それは奇遇だな…」
 僕はわざとらしくふるまって見せた。
「ええ、本当に…」
 シルシはそう言ったきり黙ってしまう。
「でもビラ配りなんて大変でしょう?」
「いえ、やっぱり知ってもらいたいっていうか…そういう気持ちもあるんです…」
「知ってもらいたい?」
「ええ、そうして一人でも多くの人に知ってもらったら、今とは別の形でヤエコが生きてるんだと感じるんで…変ですよね」
「いいえ…そうともいえない…ヨミを亡くしたら僕も同じように考だろう…」
「シルシ君、ほら当ワークショップの説明からっ」
 アキラがシルシを横から肘でつつく。
「そ、そうだな。では簡単な説明からします。当ワークショップは交通事故などで身近な遺族を亡くされた方、その他今も癒されない心の傷を抱える人達のケアを目的に私シルシとこっちの女性アキラが中心となって運営しています。そしてその過去の傷を乗り越えるやり方というのが少し変わっていて、演劇を使ったセラピーを…………これは海外では犯罪者の矯正などにも用いられているメソッドで……」
 それを僕とヨミは黙って聞いていた。思えば僕と彼との出会いはそんな風に始まった。

…つづき

 

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