Art & Life in Toronto

カナダ・トロントに住んで出会ったアートを紹介します

アラブの現代美術(その1)

2015年11月13日 14時28分36秒 | 美術
アガ・カーン美術館は、昨年9月にオープンしたばかりの、イスラム美術専門美術館である。アガ・カーンとはイスラム教イスマーイール派のイマーム(最高指導者)の名で、当代は49代イマーム、カリム・アガ・カーン4世。槇文彦設計の白いマッスは清々しく、建物内部には中庭がある。





約1000点のイスラム関係資料を所蔵し、所蔵品展示室と企画展示室、そして研究施設も持つこのような美術館が、なぜトロントに建設されたのかわかるようでわからないが、ディアスポラ映画祭に触発されて、1年ぶりに出かけた。

現在開催されている展覧会は「Home Ground: Contemporary Art from the Barjeel Art Foundation」という。Barjeel Art Foundationとは、設立者Sultan Al Qassemiのアラブ近現代美術の個人コレクションを管理・紹介する、アラブ首長国連邦の芸術団体である。この展覧会にはアラブにルーツをもつ12の現代美術家の24の作品が出品されているが、やはりいずれも移動や移住、地政学的境界、そしてアイデンティティをテーマとする。

会場に入ってまず目に入るのは二羽の鳩。<Suspended Together>という、サウジアラビア出身の女性作家Manal al-Dowayanによる、鳩をかたどった陶芸作品である。鳩の羽には査証のようなものが描かれている。サウジアラビアでは、女性が一人で旅をするには、父親や夫など、予め定められた男性の保護者の許可を得なければならないのだそうで、描かれているのはその許可書である。この許可書があって初めて、鳩は自由に羽ばたくことができる。

入口近くの壁には、同じサイズで同じような絵柄の、油絵が3点掛っている。タイトルは<Heap>。物が積み重なって塊となっている様を表わすタイトルどおり、一見抽象画にも見える画面に描かれているのは、山のように積み重ねられたスーツケースや旅行鞄、様々な個人の持ち物である。この作品を描いたのは、レバノン出身のMohamad Said Baalbaki。幼い頃、レバノン内戦とイスラエルとの紛争のため、家族と共に避難生活を送った記憶に基づく。戦争を経験した人はスーツケースを見ると逃亡や亡命を想起し、いざという時のために、常に荷物をまとめたスーツケースを手元に置くようになる、という作家の言葉が壁に記されている。

(その2に続く。)

Home Ground: Contemporary Art from the Barjeel Art Foundation
(11/8/2015, Aga Khan Museum


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