Art & Life in Toronto

カナダ・トロントに住んで出会ったアートを紹介します

ペギー・グッゲンハイムの生涯

2015年12月16日 14時43分16秒 | 美術
ペギー・グッゲンハイムについてのドキュメンタリー映画「Peggy Guggenheim: Art Addict」を見た。グッゲンハイムと言えば、ニューヨークやビルバオに美術館を持つソロモン・R・グッゲンハイム財団がすぐに思い浮かぶが、ソロモンはペギーの伯父にあたる。グッゲンハイム家はスイス出身のユダヤ人一族で、ソロモンの父、ペギーの祖父の時代にアメリカに移住し、鉱業で成功して財を成した。

作りはオーソドックスなドキュメンタリーだ。1898年にニューヨークの裕福な家庭に生まれてから、1979年にヴェニスで亡くなるまでの生涯を、このたび見つかったペギーのインタビュー音声と、関係者の話で、時系列に紡いでいく。彼女が住んだニューヨーク、パリ、ロンドン、ヴェニスの映像に、ペギーの大量のポートレート、ペギーが蒐集した作品とその作家のポートレートが散りばめられる。

ペギーの父親ベンジャミンは、ペギーが13歳のときに、タイタニック号の事故で海に沈んだ。また、妹も若くして亡くなり、最初の結婚でもうけた娘ペギーンは自殺。家族を襲った不幸が美術蒐集にのめり込んだ一因として示唆される。それをArt Addict(美術中毒)と言うなら、それと表裏一体をなすもうひとつのAddict、Sex中毒と言えるような男性関係があったことも。サミュエル・ベケットとの情事など、刺激的な挿話もある。

彼女の交遊関係は、20世紀前衛美術の教科書のように華麗だ。20代前半、遺産を相続し、ニューヨークから渡ったパリでは、マン・レイやマルセル・デュシャンと出会っている。30歳ごろ、ロンドンでオープンしたギャラリー「Guggenheim Jeune」では、ジャン・コクトー、ワシリー・カンディンスキー、イヴ・タンギーらの個展を開いている。その後、美術館設立を構想し、第二次世界大戦の前夜、ピカソ、マックス・エルンスト(彼女の2番目の夫)、ジョアン・ミロ、サルバドール・ダリ、パウル・クレー、フランシス・ピカビア、ジョルジュ・ブラック、ピエト・モンドリアンなど、ダダやシュルレアリスムを中心とした重要なコレクションを、1941年にヨーロッパを離れるまでに構築する。ナチス・ドイツが前衛芸術を退廃芸術と呼んだのと、まさに同時期のことであった。

このペギー・グッゲンハイム・コレクションは、その後ソロモン・グッゲンハイム財団に寄贈され、ペギーが後半生を過ごしたヴェニスの邸宅で展示されている。そういえば、15年ほど前に、この美術館を訪れたことがあったのを思い出した。全身解放的なマリノ・マリーニの<The Angel of the City>や、背景の青緑色が鮮やかなカンディンスキーの<Upward>が印象に残っているが、それ以外はあまりよく覚えていない。全体としては、こじんまりした廊下や展示室に、人が混みあっていたような記憶がある。あの頃は、ペギー・グッゲンハイムのことなど、ほとんど何も知らなかった。今となっては、ヴェニスに暮らすなどということは、ニューヨークに暮らすことよりも夢のように感じられる。

英語力が不十分な私には、英語のドキュメンタリー映画を見ることはいつも難しい。今回も聞き取れなかったことは多いが、ペギー自身の思いについてはよくわからなかったと思うのは、英語力不足だけでもなさそうだ。

Peggy Guggenheim: Art Addict
(12/13/2015, TIFF Bell Lightbox


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