メトロポリタン美術館の東アジア部門は今年で100周年とのことで、日本ギャラリーでも「Discovering Japanese Art: American Collectors and the Met」と題して、METの日本美術コレクションの成立を振り返りつつ、名品を展覧している。前期には尾形光琳「八橋図屏風」をはじめとする琳派の名品を展示していたようだが、後期の展示も充実している。
まず楽しみにしていたのは狩野山雪の「老梅図襖」。この襖絵は、妙心寺の塔頭・天祥院にあったもので、4枚の襖に、総金地を背景に、上へ下へまた上へと幹をくねらせる梅の古木を描く。幹の洞や、細い枝先にしかついていない花が、木の古さを表わしている。威厳と存在感がすごい。梅の花の甘酸っぱい香りが漂ってくるようだ。日本ギャラリーには10畳の和室があり、この襖絵はその一番奥に設置されているので、和室に座って、座った目の高さで目の当たりにしたい衝動に駆られる。入れないのがもどかしい。
次にチェックしていたのは狩野派による「列子図襖」。これは、龍安寺方丈の中央の部屋の西壁を飾っていたもので、風を操ることができたという列子という仙人を描いたもの。向かって右から2枚目の襖に、飛んでいる「小さいおじさん」がいるのが、ふざけた絵ではないけれどなんだか面白い。これも総金地で、全てのモチーフがとてもしっかり描かれている。それぞれの襖はほぼ正方形の立派なものだが、展示スペースの幅が足りなくて、一番右の襖の左端と一番左の襖の右端が、だいぶ隠れてしまっているのがちょっと残念。
ノーマーク(?)であって、嬉しい驚きだったのは「保元平治合戦図屏風」。江戸初期の六曲一双の屏風で、一瞬何が描かれているのかわからなかったくらい、夥しい数の人間が描かれている。今回は単眼鏡を忘れなかったのが正解だったが、単眼鏡を使ってさえも、展示ケースが暗いこともあり、とても全てを見ることはできない。「遮那王」や「後白河院」などの人物名や、「鞍馬」や「六波羅」などの場所名が文字で書き込まれており、また、白河殿夜討や六波羅合戦などの保元・平治の乱の合戦の場面が連続的に描かれている。人の多さと、活き活きとした人物表現、そして時に残忍な場面も含まれるという特徴を考えると、岩佐又兵衛系統の絵師によるものか、と思ったりする。舟木本・洛中洛外図屏風に描かれた人数が2500人ということを考えると、この屏風にもその規模の数の人が描かれていそうだ。状態がよく、色も線もきれいに残っているので、もう少し明るいところで時間をかけてよくよく観察することができたら、かなり面白いだろうと思う。この屏風について、どのくらい研究が進んでいるのか、興味が湧いた。
その他、「北野天神縁起絵巻」は清涼殿に雷神が落ちてきた場面を展示。英一蝶の「唐獅子図屏風」は、ころころした獅子がかわいらしく、リズムがある。土佐光吉の「源氏物語図屏風(「御幸」・「浮船」・「関谷」)」もきれい。「蔵王権現立像」は、スタイルとバランスがよく、控えめな装飾は細かく端正で、とても美しい。蒔絵や色鍋島も充実している。浮世絵では、北斎の「神奈川沖浪裏」はボストン美術館のものより色がよく残っている。そして、ここで窪俊満に出会えるとは思っていなかった。紅嫌いを得意とした窪だが、「三ひらの内」はこってりした鳥たち(鶴、孔雀、烏)である。
日本にあったなら、とは言うまい。たまには「里帰り」展示もされているようだし、私はこの機会に、在外日本美術品もできるだけ勉強できればと思う。
Discovering Japanese Art: American Collectors and the Met
(8/1/2015, The Metropolitan Museum of Art)
まず楽しみにしていたのは狩野山雪の「老梅図襖」。この襖絵は、妙心寺の塔頭・天祥院にあったもので、4枚の襖に、総金地を背景に、上へ下へまた上へと幹をくねらせる梅の古木を描く。幹の洞や、細い枝先にしかついていない花が、木の古さを表わしている。威厳と存在感がすごい。梅の花の甘酸っぱい香りが漂ってくるようだ。日本ギャラリーには10畳の和室があり、この襖絵はその一番奥に設置されているので、和室に座って、座った目の高さで目の当たりにしたい衝動に駆られる。入れないのがもどかしい。
次にチェックしていたのは狩野派による「列子図襖」。これは、龍安寺方丈の中央の部屋の西壁を飾っていたもので、風を操ることができたという列子という仙人を描いたもの。向かって右から2枚目の襖に、飛んでいる「小さいおじさん」がいるのが、ふざけた絵ではないけれどなんだか面白い。これも総金地で、全てのモチーフがとてもしっかり描かれている。それぞれの襖はほぼ正方形の立派なものだが、展示スペースの幅が足りなくて、一番右の襖の左端と一番左の襖の右端が、だいぶ隠れてしまっているのがちょっと残念。
ノーマーク(?)であって、嬉しい驚きだったのは「保元平治合戦図屏風」。江戸初期の六曲一双の屏風で、一瞬何が描かれているのかわからなかったくらい、夥しい数の人間が描かれている。今回は単眼鏡を忘れなかったのが正解だったが、単眼鏡を使ってさえも、展示ケースが暗いこともあり、とても全てを見ることはできない。「遮那王」や「後白河院」などの人物名や、「鞍馬」や「六波羅」などの場所名が文字で書き込まれており、また、白河殿夜討や六波羅合戦などの保元・平治の乱の合戦の場面が連続的に描かれている。人の多さと、活き活きとした人物表現、そして時に残忍な場面も含まれるという特徴を考えると、岩佐又兵衛系統の絵師によるものか、と思ったりする。舟木本・洛中洛外図屏風に描かれた人数が2500人ということを考えると、この屏風にもその規模の数の人が描かれていそうだ。状態がよく、色も線もきれいに残っているので、もう少し明るいところで時間をかけてよくよく観察することができたら、かなり面白いだろうと思う。この屏風について、どのくらい研究が進んでいるのか、興味が湧いた。
その他、「北野天神縁起絵巻」は清涼殿に雷神が落ちてきた場面を展示。英一蝶の「唐獅子図屏風」は、ころころした獅子がかわいらしく、リズムがある。土佐光吉の「源氏物語図屏風(「御幸」・「浮船」・「関谷」)」もきれい。「蔵王権現立像」は、スタイルとバランスがよく、控えめな装飾は細かく端正で、とても美しい。蒔絵や色鍋島も充実している。浮世絵では、北斎の「神奈川沖浪裏」はボストン美術館のものより色がよく残っている。そして、ここで窪俊満に出会えるとは思っていなかった。紅嫌いを得意とした窪だが、「三ひらの内」はこってりした鳥たち(鶴、孔雀、烏)である。
日本にあったなら、とは言うまい。たまには「里帰り」展示もされているようだし、私はこの機会に、在外日本美術品もできるだけ勉強できればと思う。
Discovering Japanese Art: American Collectors and the Met
(8/1/2015, The Metropolitan Museum of Art)