Art & Life in Toronto

カナダ・トロントに住んで出会ったアートを紹介します

ディアスポラの映画

2015年11月12日 01時56分04秒 | 美術
トロントの映画祭と言えばTIFF(トロント国際映画祭)、そしてHot Docs(トロント国際ドキュメンタリー映画祭)が知られているが、実はトロントにおいては、中小規模の映画祭が年間通じて多数開催されている。今週末だけでも、国際ディアスポラ映画祭(11月6日~8日)、トロント・南アフリカ映画祭(11月7日~8日)が開催され、リール・アジアン映画祭(11月5日~15日)、ランデヴー・ウィズ・マッドネス映画祭(11月6日~14日)が始まった。映画祭が盛んなのも、それを主催するエスニック・コミュニティが存在すること、つまり多文化社会であることと深く関係があるだろう。国際ディアスポラ映画祭に興味をひかれ、今年は「イラン・ディアスポラ再考」がテーマということで、イランに関係する映画を2本見た。

ひとつは「My Stolen Revolution」。Revolutionは1979年のイラン革命のことである。このドキュメンタリー映画の監督は、イラン革命時、学生活動家であったが、イスラム教勢力が権力を握り、左翼に対する弾圧を始めたとき、スウェーデンに亡命した。彼女には2つの負い目というか後悔があって、ひとつは多くの仲間が捕まって投獄されたにも関わらず自分は逃げのびたこと、もうひとつは弟を見捨てたことである。弟も投獄され、そして処刑された。2009年にイランで起きた反政府デモを契機に、これらの後悔と向き合うべく、当時の仲間を探し出し、話を聞く旅をする。さらには再会した仲間4人を自宅に招き、共に数日間を過ごして当時のことを語り合う。再会したのは全て女性でありイラン国外に住む亡命者で、監督以外は皆、イランで何年かを獄中で過ごした経験を持つ。1979年頃に20歳前後ということで、今は50代か。皆、近所にいそうなごく普通の印象を与える女性たちだが、彼女たちが語るレイプを含む様々な拷問の話は尋常ではない。自分自身が耐えて乗り越えた拷問の話は淡々と語る強靭さを持つが、家族が受けたむごい仕打ちに対しては声を詰まらせる。

これも名も無き個人の人生である。祖国を離れて住む人の中でも、よりよい生活を求めて移住する人はまだいいのかもしれなくて、身の危険があるために祖国で暮らせない人が、―実は移民の国カナダゆえに恐らく身近にも―数多くいるのだということを改めて想像した。外国で暮らしていると言っても、私のように駐在員として、守られた状況で、限られた年数をここで暮らし、また戻るべき祖国があるということは、ずいぶん幸せなことだった。

もうひとつの映画は「Fifi Howls from Happiness」。こちらもイラン人女性監督によるドキュメンタリー映画で、描かれるのは、イランで最も重要なモダニズム美術家とされるBahman Mohassessである。Mohassessは、イラン革命の頃、イランを離れてローマに移住。行方がわからなくなっていたが、この監督がローマでホテル住まいを続けているMohassessを見つけ、その最晩年を記録した。「ペルシャのピカソ」と呼ばれる彼は、イランで数多くの絵画や彫刻作品を制作し、ヴェニス・ビエンナーレやサンパウロ・ビエンナーレに出品したり、皇帝一家の像の注文を受けたりするほど認められた美術家であった。しかしイラン革命後、彼の多くの作品はイスラム教政権により破壊され、同時に彼自身もイランにあった自分の作品を破壊した。映画の中で、図録のページをめくりながら、「これも死んだ(dead)、これも、これも」と、破壊した(された)作品のことを語る。ホテルの部屋にかけられている、顔のない、赤い人物像については<Fifi>と呼び、これだけは持ってきた、なぜなら自分自身だから、と語る。ヘビースモーカーで、肺を患っており、カッカッカッと苦しげな笑い声をあげ、監督からの問いかけはのらりくらりとかわし、さらに言えば、ゲイで昔出会ったかわいい男性について語る、作家の真の思いはなかなか見えない。しかし投げやりに見える中で、時折感じられる芸術への情熱や、イランに戻ったとき、政権はともかく、イラン市民が無関心であったことが悲しかった、というようなことを語るシーンにははっとする。作家が自分で作品を破壊したのは、他人に破壊されるくらいなら自分で破壊したかったのではないかと思う。

注文を受けた最後の絵画制作にとりかかろうとしたまさにその時、作家は斃れた。この映画にはどんなバックミュージックを考えているのかと作家に問われた監督は、モーツァルトの「レクイエム」と答える。監督は最初から、孤独な作家の死までを見届けるつもりだったのかもしれない。

My Stolen Revolution (Directed by Nahid Persson)
(11/7/2015, International Diaspora Film FestivalCarlton Cinema

Fifi Howls from Happiness (Directed by Mitra Farahani)
(11/8/2015, International Diaspora Film FestivalCarlton Cinema


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