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「美麗島紀行」を読んで

2021-12-12 | 気になる本

乃南アサ(2015)『美麗島紀行』集英社

 台湾、香港、韓国は近くて安く気軽に行ける旅行先であり、私はどこも10回程度行っている。どこも過去も現在も親しくすべき所でありながら、「政治的思惑」に翻弄されている。本著は紀行文であるが、複雑な台湾の歴史を易しく織り交ぜながら書かれている。多くは行った場所であり、行きたい場所もあり、コロナが収まったら行く参考にしたい。以下、気になった箇所のメモである。(  )内は私のコメント。

 時空を超えて息づく島。日本人によって築かれた、好感情を抱く台湾人は多く。だからといって植民地支配を容認するつもりは毛頭ない。

 日本の植民地支配から解放されたが、国民党軍が入りインフレに襲われ、治安も乱れて大混乱した。

 台南は「台湾の京都」である。(あまり古都の歴史は感じられなかった。むしろ高雄の都市の方が心地良かった)。オランダを駆逐したのは鄭成功である。(伊藤清『台湾』)化学工場の跡に社宅が朽ちて残っている。(修復されれば見学して見たい)。夕食は台南の「渡小月」でとった。台湾では商店は「騎楼」、「亭仔脚」などのピロティがある。「屋根付き歩道」である。(これはヨーロッパの流れか気になっている)

 (新竹は新幹線も停まり開発ラッシュの街で、綺麗であるが興味を誘わなかった。)街は新築の在来線のある場所にある。日本統治時代に鉄道計画が確定した。台湾から産出される砂糖、米、石炭、木材、肥料の貨物輸送のためである。その歴史を知る人の中には、台湾の近代化には日本の存在はかかせなかったとして、今も深く恩義を感じる人が少なくない。新築駅は日本統治時代の駅舎である。近くに迎ギ門という清時代の城楼が聳え立つ。台湾人がどれだけ日本統治時代のものを保存し、残そうと思っても、宮大工の技術がなく、庭を手入れする感覚もない。(保存運動は台北でも淡水でも感じた。)

 日本が総督府を廃止したのは1945年10月、台湾の人は「光復」を喜んで中国国民党軍を歓迎した。だが外省人と本省人の摩擦は大きく、治安は乱れ、1947年「2・28事件」という抗争事件がおきる。当時のことを、台湾人は「狗去猪来」という表現をする。

 台南から北東40キロ、日本人技師・八田が設計したダムがある。(土木出身の私としては知っていたが、植民地としての開発であり行こうとは思わなかった。今は行ってみようかという気がしてきた)。完成後八田は台北に転居し、その後1942年フィリッピンへ向かう途中アメリカ軍に撃沈され死亡した。(私の父は中国からフィリッピンへ転戦させられ、九死に一生を得て帰国し、翌年私が生まれて。その出兵の寄せ書きが見つかり、80年ぶりに返されると連絡があった、と長男から聞いた。)敗戦の直後、妻は夫が築き上げたダムの放水路に身を投げた。(その心境は?)

 「文創」が生み出すもの。台湾で使われているのは漢字で、だれも知っているが、日本で使われている漢字と大陸で使われている漢字とは、違うことは意外と知られていない。

 台湾の最先端の街は、信義新都心界隈だろう。対照的に「老街」がある。台湾の強烈な日差しと突如として降る雨に、「亭仔脚」は健在だが、老街にあるものは趣がある。台北市内の剥皮寮は、古い街である万華に近く、かっての町並みを修復・再現した美しい所である。桃園の老街も素晴らしい。(ここはその内行きたいリストの上位にある)松山の文創地区、華山1914文創地区は、台湾が背負ってきた歴史を残し、工場を上手く生かした場所である。(松山はコロナの前に行った。日本の地方都市、東京でも良いが、こういった再開発をして欲しい。豊田の駅前再開発はすべて壊し、綺麗になったが賑わいがない。四郷駅の区画整理は農地を潰し、店舗を集め賑わっている。こちらは住宅価格が高く庶民には住めない。どちらも利益を得たのはディベロッパーである。近くのJAの産直市場は閉店した)。

 台湾のお薦めの場所を聞かれると、台南の郊外の国立台湾歴史博物館という。2011年オープンであるが、展示方法が素晴らしい。(豊田市も88億円をかけて東校の跡地に博物館を作るという、是非その前に歴史公園と「八田ダム」を見学しよう)。

 台湾の老翁にとっての日本統治時代。勝者により饒舌かつ熱心な教育と、敗者の沈黙。この二つが合わさった結果、私たちの世代には、親の世代が敗戦によって味わった絶望も後悔も悲しみも、混乱も新鮮さも、何よりも忘れ去るべきでない反省さえも、実は思った以上に受け継がれていないのではないか。他の国については分からない。だが、「臭いものにはふた」をして、さらに「水に流す」ことの好きな日本においては、その傾向が強いように感じる。「僕は数えで23歳になるまでは、日本人だったんです」

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