明鏡   

鏡のごとく

「トリエステの坂道」

2020-09-13 02:51:36 | 詩小説
「トリエステの坂道」を読み返している。

竹屋さんの奥さんとお話ししているうちに、エッセイがお好きとお聞きし、なんとはなく、須賀敦子の面影をお話しの節々に感じていた私は、もしかして須賀敦子がお好きですかとお聞きしたら、最後まで手元に取っておいたのが彼女の読みものだと言いながら、単行本を貸してくださった。

久しぶりに読み返す須賀敦子の、孤独な、どこか読み物の中を漂うためだけに辿った坂道のような、自分の悲しみではないが、少し距離を置いた失ったものへの悲しみのようなものを、初めて読んだ時に、私は感じていたのだろうか。

あまり覚えていなかった。失われた旅の記憶のような。その場に立つとやっと思い出すような、思い出のような。

今の方がより、彼女の想いに近くなったような、異国の坂道を、サバの詩を思いながら、そこはかとなく、たださまよった年に、近くなっているような。

書かれたものの中にある、彼女の淡々とした眼差しに、正直、戸惑っている。

距離感。

親族でありながら、親族ではないような。
親しいようで、とてつもなく遠いような。

ただ言葉と歩く坂道。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする