阿部ブログ

日々思うこと

イランの対外戦略とトルコ戦略、それとPKK幹部暗殺

2013年01月16日 | 日記
米国のThe Federation of American Scientists(FAS)が、連邦議会図書館が公開情報を基に作成したイランの諜報組織である情報保安省(Ministry of Intelligence and Security)についてのレポートを掲載している。
Iran's Ministry of Intelligence and security:A Profile』と言う文書だが、この32ページにシリア国内に2カ所に通信傍聴サイト(signal intelligence:SIGINT)を運用していると書いている。

場所は、ゴラン高原とトルコとの国境近くのシリア北部。ゴラン高原のSIGINTサイトは、勿論イスラエルの情報収集が目的だが、シリア北部のSIGINTサイトは、主要ターゲットはトルコと同国内のNATO軍だ。
イランはトルコへの攻勢を今後強化すると分析するが、イランが共闘するのはクルド労働者党(PKK)とシリア、それとヒズボッラである。イランはPKKの戦闘要員の訓練基地を提供しており、PKKの戦闘員は、イラン国境を越えてトルコへ侵入して各種作戦を実施している。

イランは、多面的に対トルコ戦略を着々と展開している。特にトルコとは歴史的に微妙な関係にあるアルメニアに接近して近親憎悪を煽っているし、シリア北部からトルコに存在するイスラム教の亜流であるアラウィー教徒、トルコではアレビィー教徒を扇動している。

イランはトルコ国内での諜報活動を活発化させており、トルコの防諜組織もシリアと共にイランへの警戒監視を強化している。またシリア内戦を理由に、米軍とNATO(ドイツ、オランダ)が地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)を配備しており、これは勿論、イランからの攻撃にも対処するものだ。

このイランのトルコ戦略の本質は?
イランという国家の外交政策の基本は、同じイスラム教であるもののスンニー派のサウジアラビアやエジプトなど国家群への対抗である。イランはシーア派盟主であり、この延長上にトルコが存在する。それとイスラエルや国際的なユダヤ勢力へのグローバル・テロ。イランがロシアと共にシリアを支援するのはイスラエルと敵対するシリアへの支援であり、ヒズボッラやハマスと連帯共闘するのは当然の帰結であり、イスラエル政府や諜報組織は過去判断を誤っている。 

さて過去ブログの『シリア情勢:トルコにパトリオットを配備』でも書いたが、対イラン監視向けのミサイル防衛レーダーもトルコのマラトゥヤ県チャルシャク高地に設置されており、イランの軍事的な包囲網は万全の状況だが、トルコはイランやPKK、ヒズボッラなどの間接的攻撃から防御しつつ、適切な反撃を行いつつ敵性勢力の抑止活動を行う事が必要。

イランが設置しているシリア北部のSIGINTサイトも、内戦のどさくさに紛れて破壊する事も可能だろうし、ニセ情報を流して混乱させつつ、サイバー攻撃をかけるなど積極攻勢をかけるべきと考える。しかしイランとシリアのバックには軍事的に復活しつつあるロシアの存在があり、地政的にトルコの立場は微妙であると感ずる。東と西の接点であるトルコは、パワー・バランスを勘案しつつ内政・外交を展開する事が必須だ。

最後にパリでPKK幹部が暗殺されたが、これはトルコではなくイランの関与を私見であるが否定できない。暗殺された時期には終身刑のPKK指導者アブドゥッラー・オジャランとトルコ政府との間で講和に向けた話し合いがイムラル島で行われていた事を忘れてはならない。

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