阿部ブログ

日々思うこと

カーネギー国際平和財団の 「2030年の中国の軍事力と日米同盟」

2013年05月27日 | 雑感
カーネギー国際平和財団が「2030年の中国の軍事力と日米同盟:戦略的ネットアセスメント」(CHINA’S MILITARY & THE U.S.-JAPAN ALLIANCE IN 2030 CHINA’S MILITARY & THE U.S.-JAPAN ALLIANCE IN 2030~a strategic net assessment~)という報告書を発表した。この報告書は、2030年を睨んで、中国の軍事力の進展と意図が、日本と日米同盟に与える影響を、対する日米同盟の能力や意図を軍事だけでなく、包括的な分析・評価、即ちネットアセスメントで分析し、日米同盟のあり方について報告しており、400ページを超える大部の報告となっている。

ネットアセスメントという分析手法は、前述の通り軍事力/準軍事力だけの比較だけでなく、政治・経済・社会・文化など国内の非軍事分野や日米中以外の周辺領域からの外的影響も考慮にいれて多面的に分析するもの。
今回のカーネギー国際平和財団の報告書の分析過程において、東京財団の安全保障関係者がヒアリングに応じている。反面、中国側へのヒアリングは無かった。このようなカーネギー財団との関係もあり「2030年の中国の軍事力と日米同盟:戦略的ネットアセスメント」の調査を担当した2名の専門家を東京財団に招聘し、中国の軍事的台頭を睨んだ今後の日米同盟のあり方について公開討論を5月23日に開催している。

【テ ー マ】「2030年の中国の軍事力と日米同盟 ― 米シンクタンクの戦略的分析と評価」
【日  時】2013年5月23日(木)10:00~12:00
【会  場】日本財団ビル2階 会議室(港区赤坂1-2-2)
【報 告 者】マイケル・スウェイン (カーネギー国際平和財団上席研究員)
   マイク・モチヅキ (ジョージ・ワシントン大学教授)
【パネリスト】山口昇 (東京財団上席研究員、防衛大学校教授)
   渡部恒雄 (東京財団上席研究員兼政策研究ディレクター)
   小原凡司 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)
【モデレータ】浅野貴昭 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)

東京財団での報告会と公開討論の概要は、以下の通り。

○スウェイン氏:
・先週、中国で米中リスク会議に参加した。この会議の尖閣問題がテーマだったことから日本からも3名参加しており、その一人が東京財団の秋山理事長でした。

・当該ネットアセスメントは、資料に戦略的とあるよに軍事力だけを評価分析したものではない。報告書の分析プロセスにおいて東京財団も研究員と意見交換した。

・この報告書は、向こう15年の将来を予測した分析報告ではない。地域安全保障の観点からの蓋然性を示したもので、異なるシナリオで日米同盟はどうなるか?を6つのパ地域シナリオを提示している。

・今回の調査は、9名。調査分析を担当したのは、5名、サポート4名体制で実施した。インタビューしたのは、東京財団を含む日米関係者で、中国への現地調査は行ったもののヒアリングはしていない。

・我々の分析としては、中国と戦争状態に突入する可能性は低いとだろう。しかし紛争の頻度は高まるだろう。中国が、6つの軍事分野、即ち海洋、空軍、陸軍、核、指揮統制、サイバー戦、及び準軍事分野も含めて必要な能力を獲得すると西太平洋地域のバランスが当然の事ながら変わる。

・今後、相対的に西太平洋地域野における米軍の能力は衰退する可能性が高いが、日本はその軍事的な空隙の穴埋めを出来ないし、やらないだろう。

・但し、中国の軍事能力が拡大するが、西大平洋での米国の軍事優位性を崩す勢力となならないだろうし、別の勢力が現れる事もない。但し、中国の海洋伸張に対して、日本は巧妙な外交で対応する必要がある。

・中国と日本との本格的軍事衝突を抑止しているのは経済力学である。両国の貿易投資関係が極めて密だから、軍事シナリオの発動を抑止するだろう。しかし、最低減の軍事力での抑止、緊張回避が難しくなる可能性がある。

・中国は、今後も経済成長を続けるだろうし、軍事的能力を向上させ続ける。しかし、日本の軍事政策は現状から大きく変更される事はないだろう。もし財政的、かつオフショアバランシング政策への移行による、西太平洋域における米軍の空洞化が進むと日米同盟がどう変質するか等々、6つのシナリオを我々は考えた。

・6つのシナリオは、①日米同盟が相対的に低下、②軍事的危機の発生、③軽減された持続する脅威、④中国の経済力の成長限界により日本への影響が小さくなる、⑤アジア冷戦、⑥中国覇権、米軍撤退。

但し、⑤のアジア冷戦の蓋然性は低い。何故なら東アジアは世界的にも稀に見る経済的な関係が緊密だから。また⑥の中国覇権の蓋然性は低い。今後も死活的に重要で国益に直結する西太平洋から米軍が撤退することはない。但しこの地域での米軍の戦力低減は、カオス状態を生起させるだろう。

・最終的に、中国の軍事的台頭に対応する方策は3つ。
①迅速な戦力投下を可能とする米軍の覇権を維持。特にエアシーバトル構想が重要だが、中国によるディープストライクが可能であるとの前提で戦略を考える必要がある。
②オフショアコントロールにより中国封じ込めつつ、西太平洋域における中国の海空軍力を第1列島線、第2列島線で阻止する想定。
③中国を封鎖する。海洋進出だけでなく、ロシア、中央アジア、インド、東南アジア域の全域における中国包囲網を構築する。しかし、封鎖といえあくまでも抑止であり、外交努力は継続する。米軍は、ハワイ、グアム、オーストラリアなど後方からの長距離投射能力を保持する。先に言及したエアシーバトルだと、軍事的にエスカレーションする可能性が高い。
③米軍の優位性を保持する。つまり中国の海上戦域を抑止阻止する。現状の韓国、台湾、南シナ海で、ある一定の軍事的優勢を確保する。しかしより防衛的であり、中国が持てる軍事力の発動を自制するようにする事が目的。特に中台問題へ介入し、中国が特定の行動を行えないように米国が積極的に抑止行動を行う。

スウェイン氏のプレゼンテーション資料は、以下URL。
China's Military and the U.S.-Japan Alliance in 2030: A Strategic Net Assessment

○マイク・モチヅキ:
・日本の国別分析は一番揉めた。意見の分裂の要因は、今後どういう日本になりそうか? 重要なのは日本にどうなってほしいかは別である点。それとこの報告書の発表タイミングと自民党の政権復帰が同じ時期であった事が状況を複雑にした。

・戦略的には対中ジレンマにより、日本は米国へ自国の安全保障を求める。しかし日本は、経済的に中国の成長を利用し続けるだろう。しかし日本の軍事化、憲法改正など極端なシナリオにならない可能性が高いと分析している。

・日本は、中国の軍事力伸張により防衛システムを改革するだろう。しかし防衛予算は増やさないし、増やせない。この資源制約を超えて効果的な軍事能力を獲得する事が必要である。

・中国は、低強度侵出を行うが、日本にとっては防衛費と資源制約があるので、巧妙な外交が重要。また経済的にはアベノミクスが注目されているものの、長期予想では日本の高度経済成長はない。成長率は、年率1%程度だろう。

・蓋然性は低いものの、米国の対外政策が劇的に変化する。例えば国内回帰政策に舵を切ると、必然的に中国が軍事的攻勢を強める事が予想され劇的なシナリオが現実のもとなる。

・しかし米国の政策変更はあり得ず、日米の真の同盟化が重要。前述の通り、日本は軍事的資源制約により、防衛改革が避けられない。私見だが日本の憲法改正は軍拡とならない。集団安全保障に突き進まずとも、個別自衛権で出来る事はある。このような中、どこまで日米同盟を展開するのか? 日本はインド洋まで展開するとの意見もあった。

・2030年以降、中国の経済的成長が継続すると、既存の日米同盟では中国の覇権阻止は難しい環境、厳しい状況となる事は明らかである。

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