阿部ブログ

日々思うこと

イギリス 財政難から核保有を放棄するか

2011年12月05日 | 日記
国家財政が厳しいのは何もギリシャやスペイン、イタリアなどだけではない。イギリスの国家財政の状況も極めて厳しいものがある。
そのような財政環境の中、米国と対テロ戦争を共に戦い、今もイギリスはアフガニスタンに派兵しているが、これらの出費が莫大であり、現状の維持が難しい状況。これが為、金くい虫の軍隊と戦略核兵器の更新問題が浮上しており、様々な議論が巻き起こっている。
特にイギリスが今後も核保有国でありつづけるのか?と言う根本的な問いかけが、危殆に瀕した国家財政問題のあおりを受けて表面化する事態となっている。

①イギリスの核戦力
イギリスの核戦力は、原子力潜水艦ヴァンガード級に搭載されている潜水艦発射弾道ミサイル・トライデントⅡのみ。
ヴァンガード級原潜は、現在4隻就航中でトライデントⅡミサイル16基を搭載。多弾頭MIRVであるので、8発の核弾頭を装填可能。従って射程7400kmに達するミサイル16基全部では128発の核弾頭を搭載する事になる。原子力潜水艦と言う存在秘匿性が非常に高いハードウェアに極めて強力な破壊力を持つミサイルを装備して遊弋する事は仮想敵国に対する有力な抑止力となっている。

しかし現実には、1隻当たりの核弾頭搭載数は最大で48発とされており、これまでの老巧核兵器の解体処理からのプルトニウム、及び実戦配備を解かれた核兵器の保管措置とその後の解体によるプルトニウムの管理&処理が課題となる。

冷戦以後、イギリスが保有する核弾頭の総数は、備蓄・廃棄予定のものを含めて225発以下となっており、爆発威力総量で比較すると、実に75%の削減であり、2020年代の半ばまでに核弾頭は180発以下に削減される予定。

イギリスは、トライデント型ミサイル搭載の核兵器と、過去には攻撃機搭載型の核爆弾WE-177を保持していたが、冷戦終結後の「戦略防衛見直し」(Strategic Defense Review: SDR)の一環で全て撤去された。


②核戦力の縮小(トライデント更新問題)
トライデント核戦力の基盤であるヴァンガード級原子力潜水艦は、2020年代初頭から順次耐用年数を迎える。
2006年12月、トライデント更新計画の詳細と核抑止力保持の理由などを説明した「英国の核抑止の将来」を発表。当該白書では、更新計画にかかるコストは、4隻体制を維持した場合、2006~2007年の価格を基準として150~160億ポンドと推計され、また、作戦配備可能な核弾頭数は160発以下とすることが明記され「効果的な抑止の提供のために必要な最小限の核抑止力を保持する」としている。

今後のイギリス政府の政策動向如何では、核兵器の更なる削減、若しくは核兵器全面廃棄の可能性も否定出来ない。

 
トライデント更新問題に関するポイント以下。

・経費節減策を実施しながら原子力潜水艦によるの核抑止力は今後も継続保持。
・ヴァンガード級原子力潜水艦は、保守整備を行う事で2020年代~2030年代初頭まで運用可能であり、原子力潜水艦は延命利用する(2028年に後継潜水艦の1隻目を納入することが目標)。
・各潜水艦に搭載する核弾頭数は、48発から40発に減らす。
・作戦配備可能な弾頭数は、これまでの160発以下から120発以下にする。
・2020年代半ばまでに、核弾頭の総数を225発から180発にする。
・ヴァンガード級原子力潜水艦に搭載する作戦用のミサイルの数は8基以下とする。
・ヴァンガード級後継潜水艦のミサイル発射管数は、16本から8本に減らす。

③その他
イギリスの国防費は、8%相当程度削減されるがアフガニスタンへの部隊派遣等を通じて出費が膨らみ、過去から累積する装備調達関連の負債は380億ポンドに及ぶ。もしトライデントを更新する場合には、イギリスのGDPの0.1%に相当する経費が生じる。

上記の核戦力の保持云々以外でもイギリスの国防力見直しは進んでいる。

イギリス陸軍は、2020年までにドイツ駐屯軍の全て撤退させる予定で、しかも2015年までに約7000名の定員削減を行うとしており、全陸軍の総兵力は8万4000万人規模にまで縮小する。イギリスの近現代において最低の現有兵力である。実兵戦力の削減に伴い戦車の40%、重砲など重火器類の35%を削減する。またドイツ駐屯の戦闘1個旅団は解隊となる。

空軍は、現在のハリアー等の老巧戦闘機・攻撃機を廃棄し、最新型のF35とユーロファイター・タイフーンに換装する。またマルチロールタイプのトーネード開発計画は中止とし、国内外の空軍基地を閉鎖、更に今後5年間で5000名の人員を削減する。

イギリス海軍においてはは、空母アーク・ロイヤルの2014年退役を予定を繰り上げ、可及的速やかに退役させるとともに、現在建造中の新型空母2隻の内1号艦のみをアーク・ロイヤルの後継として実戦配備し、もう1隻は予備役として勾留される。空軍同様、海軍においても約5000名の人員を削減する。

人員削減は、陸海空3軍のみならず、国防省及び関連機関を含め今後5年をかけ定年退職など含め約3万2000人もの削減を行うとしており、このようなドラスティックな人員削減と核兵器を含む戦力装備の改廃などにより、今後の国土防衛力の低下は致し方ないとの論調が支配的ではあるが、軍事など先端衛産業の弱体化やイギリスの威信低下にに拍車をかけるのでは?との見方もあり、各方面から厳しい批判が寄せられている。


まあ、イギリスでは老巧核兵器と実戦配備を解かれた核爆弾・核弾頭の廃棄処理によるプルトニウムの処理が頭の痛い課題となり続ける。

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