阿部ブログ

日々思うこと

シリアの化学兵器に関する米露の枠組み合意

2013年09月17日 | 雑感
シリアの化学兵器処理について交渉を続けて来たロシアのラブロフ外相、米国のケリー国務長官が、今後のシリア化学兵器問題に対する枠組みを共同発表した。
因みにケリー国務長官は、ヨム・キプール明けの15日、イスラエル・ネタニヤフ首相を訪問し、シリアの化学兵器の枠組み合意と今後の対応について意見交換を行った。焦点は、分散して秘匿管理されている化学兵器の所在についてイスラエル情報局と国防軍に非公式な協力(情報提供)を求めたと思われる。

■枠組み合意内容
Framework for Elimination of Syrian Chemical Weapons
U.S. Department of State, September 14, 2013


■米ロのシリアの化学兵器に関するジュネーブでの会談後、共同会見。
Remarks With Russian Foreign Minister Sergey Lavrov After Their Meeting
U.S. Department of State, September 14, 2013


シリアにおける化学兵器処理に関する今後の概要対応は以下の通り。
(1)シリアのアサド政権は、1週間以内に化学兵器一式の種類、量、場所などのリストを提出させる。
(2)そのリストに基づき国連の査察団が調査を行う。国連査察団の調査は11月中に終了。
(3)2014年中旬までに、シリア国内に存在する全ての化学兵器を国内外の厳重に管理された施設で破棄する。

しかし、推定1000トン以上あると言われる化学兵器を全面廃棄するには、2014年中旬までとは、極めて期間が短く現実性に疑問符がつく。それに反政府勢力は、今回の枠組み合意に反対を表明しており、戦闘がさらに激しくなっているとBBCも放送している。また回収した化学兵器をどのように管理するのか?
オバマ大統領は、地上軍は派遣しないと明言しているが、化学兵器を管理・警護するためには、化学防護部隊を中心とする約75000人規模の人員が必要になるという。それとイスラエルが最も恐れる、反イスラエル勢力に化学兵器を奪取され、攻撃される脅威である。特にロケット攻撃が怖い。イスラエルの近接防空システム「アイアン・ドーム」は完璧にロケットを破壊するだろうが、弾頭に化学兵器が仕込まれていると、空中で拡散する事になる。またアイアン・ドームは、人命や施設に直接影響が無いと判断するとこのシステムは、自動判断にてロケットを破壊せずに着弾させるのだ。このロケットにもし化学兵器が装填されているとすると、気象条件にもよるだろうが、直接的な被害を及ぼし兼ねない。
イスラエルが化学兵器の攻撃を受けた場合には、確実にエスカレーションしてレバノン、シリアを巻き込んで戦闘状態に陥る可能性が高い。これだけは避けねばならない。イスラエルにとってサリン、ホスゲンなどの第二世代の化学兵器は、ナチス第3帝国が開発した兵器で、アウシュビッツのチクロンBを容易に想起させる。これは確実に民族の記憶を呼び覚ます。
この辺りはケリー長官がネタニアフ首相と話をしただろう。ケリー長官は「アサド政権は、化学兵器を反政府勢力が届かない場所に確保している考えている」との意見を表明はしている。しかし、イラク戦の時と同じようにイスラエル参戦を押し留める事が果たして出来るだろうか?

それとシリアの化学兵器に関しては、完全に政府軍が掌握しているとは言い切れない傍証があるようだ。ロシア側はこの辺の情報を入手していると思われ、仮に政府軍の化学兵器を完全に掌握・無力化することに成功しても、反政府軍が化学兵器を奪取している可能性は否定できず、今までの化学兵器による攻撃の全てが政府軍はとは言い切れないのが実情と聞く。

それとおまけ。
キプロスのIoanis Kasoulides外相は、地中海東部でミサイルの試射を実施した国は、対シリア軍事行動に加わる事はないと発言。ミサイルとは、当然の事ながらイスラエルの弾道弾迎撃システム用の標的ミサイル・Silver Sparrowのこと。Kasoulides外相は、キプロスのイギリス空軍基地「RAF Akrotiri」にも言及し、対シリア軍事行動には使用しない、との保証を得ているとも。
それとシリア政府は国連にCWC (Chemical Weapons Convention) への加盟申請を提出し9月15日に承認されている。
だが、東地中海に展開する米イージス艦隊には撤収命令は出ておらず、今だシリア近海を遊弋中。

以下は参考です。米議会調査局のシリア関連報告書URLです。
Syria's Chemical Weapons: Issues for Congress
CRS Report for Congress, September 12, 2013. R42848


Armed Conflict in Syria: Background and U.S. Response
CRS Report for Congress, September 6, 2013. RL33487


Syria: Overview of the Humanitarian Response
CRS Report for Congress, September 4, 2013. R43119

最新の画像もっと見る