阿部ブログ

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DARPAが第6世代の移動体通信技術を開発〜米軍はロシア軍の電子戦に対抗できない

2018年12月20日 | 雑感
全世界で精確な位置測位を可能としたGPSや、インターネットの前身となるArpanetなど数々のイノベーションを生み出してきた、米国防高等研究計画局DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)は、Northrop Grumman Corpと共に「100Gbps(100G)RF Backbone Program」を進めている。このプログラムは、5Gの10倍となる100Gbps超えの通信速度を実現する次世代の通信技術の確立を目指している。既に2018年1月19日、Los Angelesで、100Gbpsの超高速通信の実証試験を実施した。DARPAは、第6世代となる移動体通信システム、所謂6Gに向けて着々と技術開発を進めている。
6Gとは、総務省の「電波有効利用成長戦略懇談会」の下部組織である「成長戦略WG」によれば、伝送速度は5Gの10倍の100Gbps以上、遅延は1msec未満でゼロ遅延、接続密度が1000万台/㎢。また、5Gに於いてはマイクロ波・ミリ波が使われるが、6Gでは更に高い高周波数帯(テラヘルツ:TeraHertz)が利用されるとしている。

(※注:テラヘルツは、周波数1T(Tera)Hz(波長300µm)前後の電磁波で、光波と電波の中間領域に当たる。この為、従来の無線系と同時に光学測定系の構築が可能。)

DARPAは、6Gの通信容量や通信速度、遅延など目指すべき技術の詳細を示していないが、2017年5月22~25日に開催された「NIWeek2017」において、6Gは、通信帯域を共有し、通信の用途に応じて適した帯域を自動で割り当てる「autonomous spectrum sharing」と言う考えを示している。また、新たな超高速移動体通信技術を実現するアルゴリズム開発を行う「Spectrum Collaboration Challenge(SC2)」を2016年3月にスタートさせ、2017年12月21日、DARAPは、予選を通過した10チームに75万ドルを与えた。前述のNorthrop Grumman Corpも資金供与を受けたチームの一つである。
① MarmotE from Vanderbilt University

② SHARE THE PIE from BAE Systems with Eigen LLC

③ Zylinium from a Maryland-based startup

④ Erebus, consisting of three independent engineers and software developers

⑤ SCATTER from IDLab, an imec research group at Ghent University and University of Antwerp, and Rutgers University

⑥ GatorWings from University of Florida

⑦ Sprite from Northeastern University

⑧ Strawberry Jammer from Northrup Grumman

⑨ Optical Spectrum, consisting of two independent LIDAR engineers

⑩ BAM! Wireless from Purdue University and Texas A&M University


2018年5月9日、ニューヨーク大学(NYU)は、NYU Tandon School of Engineeringに於いて、DARPAと共に6Gに向けた研究を進めていることを発表した。ニューヨーク大学は、DARPAが設置している無線とセンサ技術の研究開発拠点ComSenTer(Center for Converged TeraHertz Communications and Sensing)で他大学と研究を行う。ComSenTerは、Semiconductor Research Corporation(SRC)が管理する研究開発コンソーシアムで、DARPAのJUMP(Joint University Microelectronics Program:予算2億ドル)の一部。参加する大学は、ニューヨーク大学の他、カルフォルニア大学サンタバーバラ校、カーネギーメロン大学、パデュー大学、バージニア大学、ミシガン大学、ノートルダム大学。また、企業は、ARM、EMDパフォーマンス・マテリアルズ、IBM、インテル、ロッキード・マーティン、マイクロン・テクノロジー、ノースロップ・グラマン、レイセオン、TSMC、サムスンなどが参画し費用の60%を負担している。

ComSenTerの目的は、6G以降を想定し100GHz~1Thzの超高周波帯域に於いて、次世代の無線通信技術の基礎を確立することにある。この近未来の無線技術は、通信システムの極端な高密度化が実現し、5Gの10〜1,000倍の通信容量で、数百〜数千の同時超高速無線接続が行なえる。ComSenTerは、テラヘルツ帯を利用して、低レイテンシのバーチャルリアリティ(VR)、拡張リアリティ(AR)、及びシームレスなテレプレゼンスが実現できる。また、次世代モビリティ革命を推進し、自律型車両とインテリジェント化された道路システムをサポート。特にワイドバンド車間リンクは大容量の拘束データ通信を行い、車両の位置をcm以下の精度で測定可能だとしている。これらを複合的な技術を融合利用して、エリア内の半自動車両、自律車両やバイク、自転車、歩行者などの相互作用を予測して管理し、衝突を回避し無事故交通を実現すると言う。また、テラヘルツ帯技術では、新たな化学センサや、医療用イメージング・モダリティなど応用範囲は広い。

米国防総省に属するDARPAが、6Gなど次世代の無線技術を開発するのか?それは、前述の「autonomous spectrum sharing」や「Spectrum Collaboration Challenge(SC2)」による通信アルゴリズム開発にヒントがある。

米軍は9.11以降、対テロ作戦やドローン攻撃による偵察・暗殺・破壊に専心し、電子戦分野での新規開発や作戦運用が行なわれてこなかった。この間、ロシアは電子戦部隊を強化・育成し、その能力は米軍を遥かに凌いでいる。これが判明したのが、ロシアによるクリミア半島占領である。米国は直ちに対ロシア制裁を決め、米軍はウクライナ軍の支援を行った。しかし、ロシアの電子戦部隊による通信妨害、無人機ドローンによる航空管制妨害、GPSジャミングなど、ロシアの高度な電子戦能力に米軍は全く対処できなかった。反面、旧ソビエト軍の流れを汲むウクライナ軍は、対電子戦闘の基本動作が徹底されており、米軍は、逆にウクライナ軍から、対ロシア電子戦闘のイロハを学ぶ始末。 また、シリア内戦でも、現地に展開するロシア電子戦部隊により、米軍の部隊通信は途絶し、攻撃機や偵察機の運用に支障をきたしている。

米軍は、あらゆる電磁スペクトラムに於いて敵の電子戦を拒絶し、どの電磁スペクトラムが狙われてもデータ通信を確保することの重要性に今更ながらに気が付き、慌てて対応策を講じつつある。当然、DARPAによるロシアなどの電子戦の影響を無効化する、全く新たな通信技術を開発することになる。
DARPAは、今将に他国に先駆けて6G、7Gなど次世代の無線通信技術を開発し、その技術優位性をもって通信ビジネスなどICT分野での技術覇権を確固たるものにしつつ、軍事分野では既存の電子戦の影響を受けない、発想を新たにした斬新な通信技術の実装を目指している。DARPAから眼が離せない。

○主要参考文献(含むURL):
DARPA 100 Gb/s RF Backbone (100G)
https://www.darpa.mil/program/100-gb-s-rf-backbone 

Northrop Grumman, DARPA Set New Standard for Wireless Transmission Speed
https://news.northropgrumman.com/news/releases/northrop-grumman-darpa-set-new-standard-for-wireless-transmission-speed

総務省・「電波有効利用成長戦略懇談会」
「2030年代に向けたワイヤレス技術トレンドとイノベーション促進」
2018年1月29日 (株)三菱総合研究所/社会ICTイノベーション本部
http://www.soumu.go.jp/main_content/000531234.pdf 

Spectrum Collaboration Challenge
https://spectrumcollaborationchallenge.com/ 

Joint University Microelectronics Program
https://www.darpa.mil/news-events/2018-01-17