尾崎光弘のコラム 本ときどき小さな旅

本を読むとそこに書いてある場所に旅したくなります。また旅をするとその場所についての本を読んでみたくなります。

米騒動 全国へ波及する

2016-01-07 06:00:00 | 

 毎週木曜日は、私にとっての「米騒動入門」を綴っていますが、その目的の一つは人間の集団的行動が波及してゆくカラクリを知りたいのと、二つは(始めるときは考慮の外でしたが)素人は未知の分野をどのように知りうるのか。それを行なっている自分をひとつ観察的立場で眺めてみたら、もう少しマシな学び方ができるのではないかと思ったことです。まあ、後者は自分をサボらせない仕掛けのようなものです。今回は私の比較枠組でいえば、②の「波及」現象について三つの百科事典の記述を比較します。そのまえに用語の問題です。富山県内の魚津・滑川・東水橋・西水橋の互いに隣り合う小都市間の場合は単に「波及」と呼び、全国に広がるという次元を「全国的波及」と呼び区別しておきたいと思います。現象的に両者はどうも異なる気がするからです。

 さて例のごとく【岩波】は一般的に記述しているに過ぎないのですが、後述するように要点の一つは落としていません。騒動主体が「漁民妻女」だった段階と「労働者・農民」だったそれを区別しているからです。【小学館】は、富山県内で波及した場所を基準にして二つの時期に分けたように、全国的波及においても都市中心か農村中心かで波及の時期を二つに分け騒動の事実を記述します。これに比べ【平凡社】は事実は【小学館】ほどではないのですが、分析的記述に多くを費やしています。もう一つ簡単に分かることは、富山県内で発生した騒動の主力が「漁民妻女」であったのに比べ、「全国的波及」においては「労働者・農民」であったことです。記述の表面的相違はこのくらいにして、三者の解説を引用しておきます。具体的に比較するのは次回に。

【岩波】富山県魚津に起こって全国に波及し、労働者・農民を主力とする未曾有の大民衆暴動に発展、軍隊が鎮圧に出動した。

【小学館】同様の動きは県下各所に広がったが、5日ないし6日付けの全国各紙に3日の西水橋町の事件が「越中(えっちゅう)女房一揆(いっき)」として報じられ、8日岡山県真庭(まにわ)郡落合町での事件を最初として、騒動は富山県外に波及し、岡山県各地のほか、和歌山県、香川県、愛媛県などで騒動が続発した。■第三期■8月10日夜、名古屋、京都の両都市で大騒動が発生し、事態は新しい局面に入った。名古屋市では鶴舞(つるま)公園に1万5000~3万の群衆が集まり、演説が行われたのち、米屋町目ざして群衆が押し出し、警官隊と衝突した。騒動は11日、12日にいっそう激化し、ついに軍隊が出動して鎮圧した。/京都市では10日夜、被差別民数百人が米屋に次々と押しかけ、米の安売りを認めさせたのを皮切りとして、11日夜には全市で安売り強要、打ちこわしが行われ、軍隊が出動、鎮圧にあたった。11日以降大阪市、神戸市でいっそう大規模な暴動が発生し、焼き打ち、略奪、乱闘が繰り広げられた。騒動は近畿、東海、中国、四国の各地に拡大し、13日には東京市で大騒動が起こり、関東各地、九州にも波及、13~14日ごろに絶頂に達した。■第四期■騒動は8月中旬以降、都市部から農村部におもな舞台を移し、17日以降は山口県宇部炭鉱をはじめ、同県下および北九州の諸炭鉱に激烈な炭鉱暴動が相次いだ。そのほとんどに軍隊が出動して鎮圧にあたり、宇部では13人が射殺された。騒動は9月12日熊本県万田(まんだ)炭鉱の暴動を最後としていちおう終結した。/騒動は約50日間に及び、青森、岩手、秋田、栃木、沖縄の五県を除く一道三府38県の38市153町177村、計368か所に大小の暴動、示威が発生した。参加人員は数百万人に達するものとみられる。

【平凡社】これが8月に入って,新聞により全国に報道されるに及んで,民心は大いに動揺した。8月10日夜京都市で被差別民が中心となって米屋を襲い,名古屋市でも数万の市民が米穀取引所におしかけたのを皮切りに,一挙に騒動は全国化し,8月13日には首都東京を含む18市40町30村に発生した。この日を頂点に11日から16日までが最盛期であり,8月3日より9月10日にかけての群衆行動発生回数623の65%にあたる406がこの6日間に集中しており,その大半は静岡,愛知,三重,和歌山,大阪,兵庫,岡山,広島,山口といった太平洋・瀬戸内沿岸の9府県が占める。8月17日以降は地方小都市・農村に波及し,とくに山口県や北九州の炭鉱地帯では暴動が続発した。9月11日の三池炭鉱暴動の終結で一連の米騒動は終わりを告げたが,7月23日から9月11日まで,示威・暴動の発生地点は38市153町177村に達し,青森,岩手,秋田,沖縄の4県だけは騒動が発生しなかった。10月中旬まで富山や京都では騒動が散発している。/都市の騒動参加者の主力は土方,仲仕ら自由労働者,職人,町工場の労働者である。被差別民が参加した地点は関西方面を中心に,22府県116市町村に達する。民衆は米屋に対し米の約半値の安売りを,富豪に対しては救済寄付金を要求し,相手が要求を入れぬとき,あるいはふだんから民衆に憎まれている場合には,家を打ちこわしたり焼いたりした。工場労働者は舞鶴や呉の海軍工宜の場合のように,局地的には暴動の主力となっているが,一般的には,分散的に騒動に加わるか,あるいは労働争議を起こして街頭の騒動に呼応した。8月中のストライキ件数はそれまでの月間最高記録の108件である。農村では地主と小作人の対立の激しい所や,飯米に困っている貧農の多い都市周辺地帯で,地主や米商が襲われた。


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