扇子と手拭い

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血も涙もねえ、のっぺらぼうな野郎だ!

2017-02-10 09:12:31 | 落語
 「何をぬかしやがる。この丸太ん棒め。血も涙もねえ、のっぺらぼうな野郎だから丸太ん棒ってえんだ。ほうすけ、ちんけいとう、かぶっかじり、いもっぽりめ」。落語の「大工調べ」で大工の棟梁(とうりょう)が大家に向かって悪態をつく場面。

 人をおとしめるための悪口とはいえ、陰湿さを感じぬのはなにも威勢の良さのせいばかりではなかろう

 「首提灯(くびぢょうちん)」には武士をからかう、こんな悪口。「二本差しが怖くって田楽(でんがく)が食えるかよ。気の利いた鰻(うなぎ)を見ろ、四本も五本も刺してらあ。そんな鰻、食ったことあるめえ。おれもない」。

 意表を突く表現に笑いが隠れ、罵倒するにも柔らかさもある

 この手の悪口が血の通ったゲンコだとすれば、こちらは鋭利なナイフである。「○○人は殺せ」「○○人は海に投げ入れろ」「この町から出て行け」

 法務省がヘイトスピーチ防止で例示した不当な差別的言動の具体例である。言葉の裏にあるのは人を傷つけたいというむきだしの憎悪である

 それにしてもである。具体例は自治体の要請で作成したと聞くが、こんなことを国が例示しなければならないこと自体、寂しい

 教えられるまでもなく、言われる立場となって、言われたくない差別的な言葉を想像すれば、何を言ってはならないかの見当はつくだろう。それが分からぬほど、血も涙もない丸太ん棒が増えたとは思いたくもないのだが。

 以上は2月8日の東京新聞のコラム「筆洗」である。このように落語は新聞や雑誌によく引用される。落語は教養の一部として欠かせない。全国の小学校で4年になると、授業で落語を習う。演目は「ぞろぞろ」だ。