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〈かたち〉に抽象性を与える

 いまから8000年以上前にアナトリアのチャタルホユックで人工の洞窟となる集合住居をつくりあげた人々は、その内部の壁面に“再び”壁画を描き始めます。31000年前にショーヴェ洞窟で初めて動物壁画を描いた人類は、仲間たちが受け取る〈理解〉を操作するために、心の中の動物たちのイメージを“見”て“考え” て〈かたち〉にしました。その洞窟の空間はそれを可能にするキャンバスだったのですが、それは人類が〈考える“自己”意識〉をもつきっかけをつくった出来事のひとつでした。しかし洞窟を出たあとの彼らは、キャンバスとなりうる空間を容易に獲得することができませんでした。一方で大集団を形成するようになった彼らは、その複雑化する社会関係の中で、口から発する“言葉”を使って〈考える“自己”意識〉を発達させていきました。しかし“言葉”は口から発せられた瞬間に消えていきます。その言葉が〈理解〉を操作することができたのは、彼らの眼の前にある具体的な事象を、同じ場所で同じ時刻に共有できる人々に対して、でしかありませんでした。より多くの人々を対象に、また時・空間離れて機能させるためには、その“言葉”を抽象化させる必要があったのです

 

Mural_from_Çatalhöyük_excavated_by_James_Mellaart

 チャタルホユックの人工の壁に描かれた壁画は、“見”て“考え”ることのできる〈かたち〉を人々に与えるものでしたが、ショーヴェ洞窟の時と異なるのは、そのキャンバスとなる空間が自然に与えられたものではなく、人々が意図してつくりあげた人工のものだった、ということです。そこで扱われたものは、口から発せられる“言葉”が基本的に拠り所とする具体性、現前性に止まらず、抽象的で、普遍性のあるものとしての〈かたち〉も合わせて求められました。それは〈かたち〉に抽象性を与えるきっかけをつくった出来事のひとつだった、といってもいいのかもしれません。

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