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包摂するシステム

 1980年代にロボット工学者のロドニー・A・ブルックスさんは「サブサンプション・アーキテクチャー(subsumption architecture)」というロボットの分散コントロール手法*01を考案しました。それはジョンソン=レアードさんの「こころのオペレーティング・システム*02を、実際にモノをつくりあげる工学的立場から再構築したもの、といっていいでしょう。
 
サブサンプションとは「包摂」という意味ですが、ここでブルックスさんは、ロボットの行動のより高いレベルの振る舞いが、低いレベルの振る舞いをつつみ込んでいる、つまり各層の目的は下位層の目的を包含している、といった振る舞いの階層構造をつくることを意図したのです。
 
すなわちロボットのコントロールにおいて「単純な作業をする小さな回路を作り、それをたくさん働かせる。次に、数多くの反射の集合から発現する複雑な振る舞いを第二のレベルとしてそこに重ねる。この第二の階層が機能するかどうかにかかわりなく、最初の階層は働き続けている。しかし、第二の階層がより複雑な振る舞いを生み出す場合には、下の階層の活動が上の階層に組み入れられる」*01といった「包摂」関係を構築したのです。
 
ブルックスさんのつくった六本足の昆虫型ロボット、ゲンギスは、それぞれの脚に二個ずつ付いたモーターと、個々の脚の動きを感知するセンサーと、簡単なプログラムを走らせることのできるマイクロ・プロセッサが付けられているだけで、それまで主流であった中央の巨大な頭脳によってコントロールされたロボットではありませんでした。それにもかかわらずこのロボットは、本物の昆虫のように“生きている”ように歩き回ることができたのです。
 
それぞれの脚に付けられた二つのモーターは、ひとつは脚を前後に動かし、もうひとつは脚を上下に動かすものでした。一本の脚を持ち上げ、前に振り出し、下ろすを繰り返す単純な動作を各脚ごとに〈順序立てる〉*03ことによって、十二個のモーターの集合的な振る舞いはロボットの「歩行」を「創発」したのです。


ロドニー・ブルックスさんのつくった“ゲンギス”
NASA画像コンテンツより/1406main_MM_Image_Feature_04_mm3

*01:表象なしの知能/ロッドニイ・A・ブルックス/柴田正良訳 現代思想 1990.03 青土社
*02:心のシミュレーション-ジョンソン=レアードの認知科学入門/フィリップ・ジョンソン=レアード/海保博之・中溝幸夫・横山詔一・守一雄訳 新曜社 1989.11.10
*03:ブルックスの知能ロボット論―なぜMITのロボットは前進し続けるのか/ロドニー・A・ブルックス/オーム社 2006.01.30 五味隆志訳

 

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