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幾何級数的に増大する関係性

 日本列島では気候が温暖・湿潤化した1万5000年前から豊かな生態系が築かれてきました。この生態系が豊かであるということはそこで暮らす人々にどのような影響を与えてきたのでしょうか。
 
太陽の熱と光を受けて地球の大気が様々な変動をおこす中で多岐にわたる生き物たちが生息し、私たちを取り巻く環境を構成しています。自然環境とそこに生きる生き物たちは、それぞれを構成要素として複雑な相互関係を展開しているわけですが、この関係性については、ある要素の行為に応じて別の要素に行為が生じた場合、その両者の間にコミュニケーションが成立しているということもできます。このコミュニケーションの量は構成要素が増えるにつれどのように変わっていくのでしょうか。
 
コミュニケーションを構成する要素が1対1の場合、それらを繋ぐ経路(チャンネル)は一つで済みますが、3番目の要素が追加された場合は、そのチャンネルは3つ必要となります。4番目の要素を追加すると6つのチャンネル。5つの要素なら10、6つの要素なら15というように要素が追加するにつれ、チャンネルの数は急激に増加していきます。それはn個の要素の2乗のオーダーで急激に大きくなっていきますが、さらに実際にはそれぞれの構成要素は様々な特性を内包しており、状況に応じて複数の経路を持つため、コミュニケーションの関係性はまさに幾何級数的に増大していくのです。


構成要素の増大によりそれらのコミュニケーションの関係性の数=経路(チャンネル)数は幾何級数的に増大していきます。

 
脳の神経回路の計算機モデルであるニューラル・ネットワーク・モデル*01によれば、脳内の複雑なニューロン結合による計算とは、一つの層の上に実現された興奮(活性化)パターンを次の層の興奮(活性化)パターンに変形する操作であり、この時、層から層への興奮パターンをどう変形するかを実質的に決めているのは、各層の重みづけ-すなわちシナプスの結合の強さの全体が構成する〈重みづけ配置〉02なのです。いかに適切な〈重みづけ配置〉を得ることができるか。それに、いかに適切な〈事態に対応できる脳の働き〉=〈理解としてのイメージ〉を得ることができるか、がかかっているのです。生き物たちにとっては、それは経験値の積み上げによってつくりあげられてきたものでした。環境の中での数多くのコミュニケーションの中から、経験値の積み上げによる〈重みづけ〉によって、〈理解としてのイメージ〉が抽出されてきたのです。多層構造のニューラル・ネットワークを用いた機械学習であるディープ・ラーニング(深層学習)の成果が示しているように、この経験値の積み上げは、扱うコミュニケーションの関係性の量-すなわち計算資源、データ量が多ければ多いほど、適切なイメージを抽出する可能性が増大していきます。
 
豊かな生態系を持つということは、その環境が膨大な構成要素を持つということを意味しています。それはそこで暮らす人々にとって、構成要素同士の相互関係によるコミュニケーション量(経路数)-すなわち計算資源、データ量の幾何級数的な増大を意味しています。そしてそれは彼らの脳がより適切で、詳細な〈理解としてのイメージ〉を抽出できる可能性をも意味しているのです。
*01:ニューラル・ネットワーク /静岡理工科大学 菅沼研究室
*02:ロボットの心―7つの哲学物語/柴田正良/講談社 2001.12.20

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