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他者の理解

 ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)は、現生人類が意識というものを生み出すきっかけとなった淘汰圧と、そのプロセスを明らかにした最初の人物の一人といっていいでしょう。いまから130年ほど前の1880年代のことです。
 
ニーチェは、人間は、その繊細で脆弱な本性のために、あらゆる被造物中のもっとも臆病なものだった*01といいます。その臆病(恐怖心)が、他人(または動物)の感情への共感、迅速な理解の師であった、というのです。長い数千年間にわたって、人間はすべての未知の生きものに危険を見てきました。人間はそのようなものを見ると、たちまち顔つきや動作の表現を模倣し、これらの顔つきや動作の背後に隠れている悪しき意図の性質を推定したのです。
 
ニーチェは、「他者を理解すること」とは、他者の感情を自分の内で「模倣すること」である、と看破します。人間は、他者の目つき、声の調子、歩き方、挙動を、自らの体で模倣することによって、その感情を自分の中に生み出すことができる、というのです。行動と感覚の間にある太古からの連合作用によって、似た感情が人間の内に生まれました。人間はこのような他者の感情を理解する技術を、完成度の高い次元まで発達させており、他者の前ではつねに、ほとんど無意識にこの技術を使っている、とニーチェは指摘します。
 
ニーチェが130年前に示したこの達見は、いまSTSやEBAミラーニューロンなどの発見によりまさに実証されようとしています。そして他者を理解した人間はさらに、最も危険に曝された動物として、救助や保護を必要とした、とニーチェは続けます。人間は同類を必要とした、人間は自分の危急を言い表わし自分を分からせるすべを知らねばならなかった、-こうしたすべてのことのために人間は、何はおいてまず「意識」を必要とした*02というのです。つまり意識とは、本来、人と人との間のコミュニケーションの網にすぎなかった、とニーチェは断言するのです。


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*01:曙光-道徳的偏見についての考察/フリードリッヒ・ニーチェ/ニーチェ全集9 氷上英廣訳 白水社 1980.01.10(原著1881
*02:ニーチェ全集-悦ばしき知識/フリードリッヒ・ニーチェ/ニーチェ全集8 信太正三訳 筑摩書房 1993.07.07

 

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