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Artificial  Alien

 人間の心的または肉体的能力の延長として人間はテクノロジーを生み出した、とマーシャル・マクルーハンさんはいいます。
 彼は、車輪は足の延長であり、本は目の延長であり、衣服は皮膚の延長であり、電気回路は中枢神経系の延長である01と述べていますが、ケヴィン・ケリーさん02はさらに自動調整機能をもつ「指南車」や「クテシビオスの水時計」を人間の「自己」を肩代わりする機械-すなわちヒトから「自己」さえも拡張した機械の最初の例だ、と指摘しています。
 マクルーハンさんは、私たちの感覚のどのひとつが拡張されても、それは、私たちの考え方、行為の仕方-世界を認知する仕方、を変える、といいます。いかなるメディア(すなわち、われわれ自身の拡張したもののこと)の場合でも、それが個人および社会に及ぼす結果というものは、われわれ自身の個々の拡張(つまり、新しい技術のこと)によってわれわれの世界に導入される新しい尺度に起因する、とし、人間の労働と人間の結合の再構造化が細分化の技術によって形づけられたのであり、それが機械技術の本質というものだ03というのです。
 ここでマクルーハンさんやケヴィン・ケリーさんは、テクノロジーはあくまで、つくりだしたヒトそのものであり、ヒトから外化(拡張)しながらも、再びそのヒトに戻ってくる(同化する)、という立場で述べている、といっていいでしょう。すなわち主役は人間であり、テクノロジーやつくりだされたものたちは人間に従属するもの、という立場です。あるいは人間はテクノロジーをそう扱うことによって自らのアイデンティティを維持してきた、といっていいのかもしれません。
 では、ケヴィン・ケリーさんも指摘した「人間の「自己」を肩代わりした機械」のその後の発展した姿でもある人工知能( Artificial Intelligence AI)研究の成果とコンピュータの進化、1996年を境に爆発的な勢いで世界中に広がったインターネットと移動体通信(携帯電話)の普及というあらたなテクノロジーの成果がもたらした状況は、どう捉えればいいのでしょうか。
 ケヴィン・ケリーさんは、現在のAIの普及と進化について、AIという言葉は「異質の知性(Alien Intelligence)」の略号とするか、あるいは実際は、AA(Artificial Alien:人工異星人)と呼ぶべきではないか04と主張しています。人類はおおいなるアイデンティティの危機に直面している、というのです。


ArtificialFictionBrain

01メディアはマッサージである/マーシャル・マクルーハン他/河出書房新書 1995.11.20(原著1967)

02複雑系を超えて―システムを永久進化させる9つの法則/ケヴィン・ケリー/アスキー出版 1999.02.10 服部桂監修 福岡洋一・横山亮訳

03メディア論-人間の拡張の諸相/マーシャル・マクルーハン/みすず書房 1987.06.22(原著1964)

・ここでマクルーハンさんが述べている「技術」「機械技術」とは自動化(オートメーション化)される以前のマニュファクチュア(manufacture工場制手工業)の段階の機械技術のことを指しています。

04〈インターネット〉の次に来るもの-未来を決める12の法則/ケヴィン・ケリー/服部桂訳 NHK出版 2016-07-25

 

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