舞い上がる。

日々を笑い、日々を愛す。
ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

梨木香歩さんの「家守綺譚」読み返すごとに大切な発見や気持ちが伝わる部分が増える一冊。

2022-01-13 23:15:20 | Weblog


新しい面白さを求める読書ではなく、何度も読んだ本に癒されるための読書をすることが僕はあるのですが、梨木香歩さんの「家守綺譚」がまさにそれです。
毎日色々やりたい作業はあるのですが、この前、1/12(水)にこの文庫本だけ持って喫茶店に行って、一人で何も考えずにずっと読んでいたらあらためて面白くて、帰っても夜中までずっと読んでいて、2日くらいで読み終わってしまいました。

あらすじは、大学を卒業した売れない作家が、亡くなった友人の父親から、誰も住まなくなった家に住んで管理をしてくれと頼まれます。
お金もないのでその話を受けた主人公がその家に暮らしていると、亡くなった友人の幽霊が現れたり、庭の植物や周囲の自然と触れ合う中で、動植物やその精霊、妖怪、神様などとの不思議な出会いを体験するという一年間の出来事を、日本の季節の移り変わりの美しい描写とともに描いた、日本ならではのファンタジーです。

ファンタジーとしても十分面白くて読みごたえがあり、文章も美しくて読んでいるだけで癒されるのですが、それと同じくらい、この物語の大きなテーマとして、主人公の作家としての成長が描かれていると思うのです。
自分が何を書くべきか悩んでいた売れない作家の主人公は、一年間の季節の移り変わりを通して自然と触れ合い、様々な不思議な体験する中で、多くのことを学んでいきます。

そして、そんな体験を通して、少しずつ亡くなった友人と向き合うことで自分の正直な気持ちとも向き合い、自分がやるべきこと、そして自分が書くべきことに少しずつ気付いていきます。
正直、僕自身がまったく売れていなくて仕事のない、しかし運よく時間だけは持て余している作家なので(実際はまだ作家を目指している立場だと思っているけど)、主人公と立場が似ていると感じてしまうんですよね。

だからこそ、何を書くべきか迷う主人公の気持ちもすごく理解できるし、最初はただ闇雲に「傑作を書きたい」と思っていた主人公が、やがて様々な体験を通して自分の中にある「書くべきこと」に気付いていく心境の変化も、自分にも身に覚えがあるのですごく感情移入してしまいました。
実際、自分が表現すべきものに気付くってそういうことだと思うし、そのためには日常の生活や出会いや体験の一つ一つを大切にしないと気付けないことがたくさんあると思うのです。

そう考えると、まさに今の自分の生き方そのものみたいな本だなあと思うわけですが、読み返すごとに自分にとって大切な発見や気持ちが分かる部分が増え、寧ろ自分がこの本に近付いているのを感じます。
それと、自然の動植物との交流というファンタジーな世界との出会いを通して、主人公が表現者として成長していくという意味で、本作は宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」に通じるものがある気がします。

僕は「セロ弾きのゴーシュ」も「家守綺譚」もすごく好きなので、やっぱり好きな作品に支えられることって人間あると思います。
というわけで、今年も色々な本を読んでいきたいですね!
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 月刊ウインドの「シネ・ウイ... | トップ | 自分の表現を大切にして、人... »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事