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秋風

アキバ系評論・創作

月下の舞姫vol.20

2012-09-04 22:43:12 | Weblog
「先生、早速本題に入りましょう」
「何仕切ってんのよ!」
 あゆが口火を切り崇の母が反応する。
 あゆは腹式呼吸の効いた大き目の声で一気に先を続ける。
「一昨日、崇谷崇君は理由はどうあれ先に手を出し私は身を守るためにカウンターしました。そして昨日会議室の面談中に再び崇谷君は激昂したので私は体をかわし崇谷君は父が取り落とした書類を踏みつけ転倒しました。こちらに一切の非はありません」
「何言ってんのよ! 一昨日はあんた(あゆ)の過剰防衛で昨日はあんた(あゆの父)がわざと転ばせたんでしょ! かわいそうにあの子は頭を打って集中治療室で苦しんでいるのよ! 訴えてやるわ! 退学よ! ね、先生そうでしょ?」
 崇の母が大声で捲くし立て周囲の注目を浴びる。近くの席に座っていた客が次々と席を立つ。周りの目があればおとなしく交渉の席に着くだろうとの正担任の目論見は早々に脆くも崩れた。
「おばさん、そちらの暴力行為はスルーなの? 私じゃない普通の女の子だったら怪我をさせていたのよ、おばさんの息子は!」
 あゆも負けてはいない。
「お静かに」
 サヨリが崇の母の背後でたしなめる。
「うるさい、小娘が!」
 勢い良く後ろを振り向き歯をむく崇の母。
「わざとじゃありませんよ、凄い勢いで迫ってきたので動揺してしまい書類を落としてしまいました」
 あゆの父は弁護士との打ち合わせどうりの答える。やや情けないと思いつつも。
「うるさい!」
 再び凄い勢いで前を向く崇の母。
「そもそも、」
「おじいさんは関係ない!」
 崇の祖父がまた不動産の件を言い出そうとしたところをあゆがビシャリと封殺する。
「まぁまぁ」
 正担任が取り合えず的に双方の制止にかかる。
「まぁまぁ」
 弁護士が同じ台詞を力強く言う。ゼスチャも大きい。
「私の弁護士の大先輩がさっき崇君のお見舞いに行ったのですが元気そうだったそうですよ。面会時間外だったのですが弁護士ですと言ったら看護師さんが特別に通してくれて会えたそうです。自販機コーナーまでご自分で歩いて来てメモが追いつかないくらいの勢いで秋月親子への文句を言うくらい元気だったそうです。ああ、今は集中治療室でなく大部屋だそうで良かったですね」
 崇谷側が言葉を失う。崇や看護師は弁護士を母の差し向けた味方だと勘違いしたのである。勿論そうミスリードさせたのは弁護士の大先輩としての職人芸である。
「証拠はあるのかね?」
 崇の祖父が年の功で真っ先に立ち直り見苦しくも足掻く。
「録画を転送してくれました」
 弁護士はスマートフォンの動画を再生する。冒頭のところで弁護士の大先輩が日時、時間、場所、自分と相手の名を宣言し、
「崇君、記録してもいいかね?」と聞く。
 先輩の手帳とペンが画面端に写る。先輩弁護士は自分のスマートフォンのカメラを相手に向けた状態で胸ポケットに入れている。静止画と違い動画録画中は別にランプなどは点かないので相手に悟られる事は無い。
「いいですよ」
 崇は録画されているとは認識せず筆記による記録と思い込んでいる。
(おおっと、これはかなりギリギリの荒業だな。ミスリード戦法は拗れると大変なんだが)
 あゆの父が内心ほくそ笑みながらも心配する。
(ガンカメラか……)
 あゆとサヨリも感心する。
 あゆはフライトシミュレーションゲーム『月下の咆哮』でサヨリは超小型戦闘飛行艇の実機でガンカメラによる戦果確認に馴染みがあるので即座に理解した。
 あゆの母と正副担任はミスリード戦法がいまひとつ解っていないがとにかく崇が元気なのは認識できた。 
 まだ何か言おうとする崇の母の肩をサヨリが軽くポンと叩く。
 振り返った崇の母の頬にサヨリの伸ばされた人差し指が当たる。子供じみた指鉄砲であるがサヨリがやると妙な迫力がある。
「この試合はあゆの勝ち、タカシの負け。これ以上グズると大使館の大使が本格的に警察に働きかける。あなた達が大変なことになる」
「脅迫する気?」
 サヨリの警告にも崇の母は強気である。
「いいかげんにしろ、一度は警察に行ったが電話一本であっさり帰されたのは昨日見ただろう?」
 サヨリの物言いが本格的に恐くなりやっと沈黙する崇の母。祖父はとっくに戦意を喪失している。
「先生、よろしいか?」
 サヨリは正担任に身分証を見せながら迫る。
「ああ? 何これ? 何だ君は? 島嶼首相国連邦の軍人……?」
「あゆの家族だ、日本の学校を案内しろ」
 サヨリの語気の荒さがおさまらない。
「案内して下さいでしょ、サヨリちゃん。うちの子なら礼儀正しくしなさい」
 母は強しだとあゆの父は感心する。
「イエス・マムもとい、はい、おかあさん」
(娘が増えたな……)
 ひとり感慨に耽るあゆの父であった。

今後

2012-09-03 22:41:15 | Weblog
なんだかさっぱりハードSFどころか航空アクションが出てきませんね。
パソコンさえ出てこないラノベ状態です。

冬のコミケを申し込みました。
今度はちゃんとしたオフセ本にしたいのですが
冬コミが年末だから遅くても12月上旬には原稿をあげるとしてあと正味三カ月。
それまでに沢山テキスト書くのは勿論、コミPo!やグーグルスケッチアップを使いこなせるようにしたいのですが忙しくなりそうですね。

ハードSF航空アクションライトノベルのつもりですがまだ日常+αくらいですね。
これからもよろしくです。

月下の舞姫vol.19

2012-09-02 23:54:10 | Weblog
「結局サヨリは大使さんに崇谷家の陰謀の相談しそびれちゃったね」
「拳銃も返しそびれた」
「出さないで! 街中で!」

サヨリはあゆの中学時代のセーラー服を借りて着ている。本来海軍服なのでよく似合っている。
スカートのポケットに手を入れるとあゆの母がダッシュで近寄り拳銃を抜かないよう肘を握り動きを封じる。
おっ、やるなという表情を見せるサヨリ。
「ホルスター買うなら昭和通りにミリタリーショップがあったな。昔はヨドバシとかカメラ量販店にもエアガンコーナーがあったが所詮、悪い子のおもちゃか」
あゆの父が遠い目をする。
「カメラ量販店ってもう死語よ、今は家電量販店。」
あゆが突っ込む。

単位制三部制の都立秋葉原高校前。
時刻は午前11時。
「みなさん、あゆちゃんの担任の先生と連絡がつきましたそこのコーヒーショップのテラス席に居るそうです」
少し離れていた弁護士の先生が携帯電話を手に寄ってくる。
「おいおい、高校の中じゃないのか?」
あゆの父が高校が入っている高層ビルを仰ぎながら嘆く。
「お店の中ですらないわね」
あゆもプンスカ怒りだす。
「嵩谷家の人達もいらっしゃるんでしょ? 人目があった方がいいじゃない」
あゆの母が現状を追認する。
「いいことサヨリちゃん、あなたにとってそれは日用品でも日本では特別な物なの。何があっても使わないでね。出すのもだめよ。あと素手でも荒っぽい事はだめよ」
「イエス・マム」
男性の上官に対してはイエス・サーであるが女性にならマムである。
「サヨリが戦闘モードだ、目が怖いよ」
あゆはそっと父に告げる。
「大丈夫だよ、乱暴な子じゃないのはあゆが一番よくわかっているんだろう」
「さっき大使館で生敬礼初めて近くで見たけどちょっと怖かった」
「何だよ“生”敬礼ってw格好良かったじゃないか」
「秋月さん行きますよ」
弁護士の声で気が付けば秋月父娘以外は皆コーヒーショップに向かって行った。
(やれやれ昼からの開店に間に合うかな?)

コーヒーショップのテラス席にはあゆの正担任の男の先生と服担任の女の先生、それに崇谷崇の母と祖父の四人が着いていて空いている席は無かった。
秋月一同の姿を認めると副担任と祖父が隣の荷物が置いてあったテーブルに移った。
秋月側はあゆの父と弁護士が着席するがそばにはもう空いているテーブルは無かった。
「あっちが空いていますよ」
崇の祖父が嫌味ったらしく遠くの席を指差し自分達の荷物を空いている椅子二つに置く。副担任はおろおろしているだけである。
「若者は立っています」
あゆは父の後ろに見下ろすように立つ。小柄なので威圧感はない。
サヨリはあゆの母に手を引かれ遠くの席に行き掛けたが思い直し崇の母の後ろに立つ。小柄だが妙な存在感がある。
「何あなた? 失礼ね」
「おかまいなく」
「何の用? あなた関係ないでしょ」
「見学」
「ちょっと先生! なんですかこれ?」
取り合わないサヨリに早くもヒートアップする崇の母。
「君は秋月あゆ君の妹? その制服は地元の中学のだよね?」
「親戚」
正担任の質問にもそっけなく答えるサヨリ。語尾が若干上がって疑問形風味である。
(やれやれ盛り上がってきたな)
困惑するあゆの父、泣きそうな顔でコーヒーを買ってきて秋月側に配るあゆの母。







超軽量動力機

2012-09-01 19:58:04 | Weblog

ウルトラライトプレーン(ULP)、マイクロライトプレーン(MLP)とか呼び名は色々ありますが
要は最低限度のエンジンや機材で飛行する機械、飛行機ですね。

台風が心配ですが日本の沖縄のような台風の通り道ではない
台風の生まれるところではそう心配する必要はありません。
普通に嵐は起きますから油断大敵ですが。

島嶼首相国連邦ではサヨリのように適性の有る女児は10歳くらいから親元を離れ寮に入り、
小学校の授業が終わる放課後になりとまるでクラブ活動のようにウルトラライトプレーンの教習を受け各地に配属されます。

日本の神道や現地の精霊信仰のシャーマニー(巫女)でもあるし離れ小島の生命線でもあるので彼女達は大事にされます。

月下の舞姫Vol.18

2012-09-01 19:34:05 | Weblog
「昨夜飲み過ぎたか……」
 駐日島嶼首相国連邦大使館の在日島嶼首相国連邦大使はサヨリとあゆを見比べて思わず呻くように独りごちた。
 大使館とはいってもJR金町駅の映画フーテンの寅さんの舞台の近くにある安アパートの一室である。
 それは彼にとっての真の母国語である日本語だったのでその場に居合わせた全員に丸聞こえ丸解りだった。

 職員は老大使ひとりに外交官(見習い)の若い日系男性ひとり。彼の奥さんも来日しているが日本語が話せないので毎日日本語学校に通っているそうでそこは居なかった。
 他に現地職員というかパートのおばさん達が数人居るがどう見ても外交の仕事というよりは老人介護状態である。
 来訪者はあゆ、あゆの両親、弁護士そしてサヨリである。
 大使の独り言は失礼なものであったがさもありなんというか、あゆとサヨリは良く似た姉妹のようなので皆苦笑するばかりである。
 ひとりサヨリだけが無表情で直立不動の気を付けの姿勢を保っていた。

「この度は大使の格別なる、」
「ああ、ああ、いい、いい。堅苦しいのはいい」
 挨拶途中のあゆの父親の口上を遮り好々爺然とした老大使は大使の執務室で大儀そうにネクタイを緩めた。
「先代大使が若いくせに急病で倒れてしまい(公務員を)引退したワシが引っ張り出された。(日本の)先祖の墓に生きているうちにまたお参りが出来たのは良かったが気を抜いているとこっちがお墓に吸い込まれそうだ」
「おじい、あ、いえ大使さん本当にありがとうございました」
 あゆがぺこりとお辞儀をする。
「おじいさんでいいよ、もう91歳だ。皆、死んじまった。親も兄弟も親戚も友達も皆……近い肉親は内地の空襲で死んだ。友達の半分は外地で戦死した。実家はこの辺の下町で空襲が酷かった……だから怪我が治っても島(島嶼首相国連邦)から日本に帰る気にならなくてな。その上、士官は戦犯として全員処刑されるという噂もあって現地の娘が一族で匿うから帰るなと引き止めてくれた。その娘がその後の家内でな。それももうの墓の中だだからこっちでは死ねない、早く島に帰ってやらないと」
 老大使はお土産のマドレーヌをお茶うけに日本茶(紅茶ではない)をゆっくりと口にする。パートのおばさんの一人が横にぴったり張り付いて雑巾を握ったままスタンバイしている。見ようによっては介護の振りした護衛にも見えなくもない。撃たれても刺されても簡単には倒れそうに無い下町の女丈夫だ。
 大使は年齢の割りに一応健康だが手が震えて手元が覚束ない様子で見ていてハラハラする。
(イイハナシダナーとは思うが大使としてはそれはどうなんだ? 最近は地下資源貿易で忙しいだろうに)
 あゆの父はにこやかに頷きながら内心ちょっと呆れながらお茶を啜る。さすがに旨い。やはり大使館、最高級茶葉を使っているなと感心する。

「大使、よろしいですか?」
「ああ、おかわりならいくらでも遠慮するな」
 大使自ら大きな急須を持つが重たそうなので横のおばさんが「こぼすこぼす」言ってもぎ取りサヨリの湯飲みにとても高い位置から片手で無造作にじょぼじょぼ注ぐ。ちょっとした職人芸だ。
「アリガトウゴザイマス」
 サヨリが無表情に応える。憮然としないよう気を使っているのが伝わってくる。
(動揺している。しっかりしているようでまだまだ子供だな)
 秋月夫婦が何故かホッとする。特に母が。
「サヨリ アキヅキ准尉はいい子なんだがこうお固いんだよ、憲兵を思い出す」
「憲兵か、私のお爺さんもよく怒鳴られビンタされたとか」
 弁護士が祖父を偲び自分の頬をさする。
「海軍特別陸戦隊特殊航空班に配属される前は憲兵軍の航空軍族でありました」
「ああ、ああ、そうだったな空飛ぶ郵便屋さんだったな本当にご苦労さんだよ」
 あゆが興味津々で何か尋ねるかと思いきやにこにこしているだけなので後でゆっくり聞くかと父は考え、大使も身体が大変そうなので一行は大使館を後にした。

 食材の材料の買出しがてらパートのおばさんが駅まで送ってくれる。話好きな陽気なおばさんというか若く見えるお婆さんだ。
 昭和20年春、当時5歳だったそのおばさんは出征兵士を駅で大勢で見送る場面を覚えているという。あゆが笑顔で当時の事を色々聞く。
 JR金町駅の手前の京成金町駅直前の踏み切りを一行が渡った時おばさんが思い出したように語る。
「この線路の両側に空襲後に焼死体がズラーッと並べられてね、私も近所の可愛がってくれたおじさんを見つけちまって」
「ええ?」
 あゆがショックを受け踏み切りで立ち止まる。あゆの母が睨む。それを見られない様に父が摺り足でブロックする。警報がカンカンと鳴り始めあゆは再び歩み始める。
「おじさんの周りの人は手足が縮こまった遺体だったけどおじさんは何故か手足が伸びていてまるで眠っていたようだったよ、丸焼けだったけど」
「生きながら焼かれると熱く痛く苦しいので縮こまるというか丸まる傾向がある、おそらくその方は煙を吸って意識がなくなってから焼かれたと思われる」
 不意にサヨリが恐ろしい事を淡々と言う。妻の顔を想像すると見られないあゆの父である。
「そうかい、まだマシかねぇ……」
「サヨリは戦場で見てきたの?」
「わが国は何処とも交戦状態には無い、ただ警察軍に居たので色々見てはいる」
「あなたがいくつの、何歳の時の話?」
 あゆの母が案外落ち着いて尋ねる。むしろ父の方が動揺している。
「私は10歳からウルトラライトプレーンで小さな島を回って緊急物資を運び病人怪我人を運びパトロールをしてきた軍属」
「そんな小さい頃から? 学校は?」
 あゆの母がサヨリの肩を抱く。
「空を飛ぶのは女の仕事、小さければその分、荷物を載せられる。仕事は放課後の話」
 サヨリは微かに香るあゆと同じ柑橘系コロンをあゆの母に認めた。






月下の舞姫Vol.17

2012-08-31 22:50:11 | Weblog
「今日の予定会議!」
 あゆがマーガリンとママレードをたっぷり塗ったトーストを頬張る前に朝食会議の議題を宣言する。
 秋月家の朝食の席は大抵軽い家族打ち合わせ会議となる。
「午前中はサヨリちゃんと一緒に、世話になった島嶼首相国連邦大使館にご挨拶だな。お土産どうしようか?」
 あゆの父がバターだけ塗ったトーストを齧りながら応える。
 「外国のお年の方なんでしょう? 柔らかい高級クッキーなら買い置きが有りますわ」
 あゆの母が追加のベーコンとスクランブルエッグを食卓中央大皿に盛ってから台所のストッカーを見ながら言う。
「大使は元日本人少尉」
 早飯早支度が身上の軍人らしくサヨリはとても食べるのが早い。
 ハニートースト二枚と紅茶一杯をとっくに胃袋に収め、今頃になって重要な事を言う。
「「「ええ? なんで?」」」
 驚く秋月家一同を不思議そうに見回しながら紅茶のお替りをあゆに注いでもらいながらサヨリは説明を続ける。
「終戦間際、英軍との戦闘で山間部で負傷して復員船に乗れずそうこうしているうちに子供が出来た」
「はしょり過ぎな説明だが要はお世話になった家の娘さんとデキたのかw」
「あなた、子供の前で」
 常識人の妻が幼気がいつまでも残る亭主をたしなめる。
「そう。工兵隊だったのでそのまま国のインフラ作りに協力していて国籍や勲章を戴き名誉市長にまでなった。先代の日本駐在大使が急病で抜けた穴を埋めるため派遣された」
「いくつ?」
 あゆが思わず訊ねる。
「砂糖は入れない」
 サヨリは紅茶のカップに手で蓋をするようなゼスチャをする。
「そっちじゃなくて大使の年齢!」
「90歳くらい」
「大使って定年無いのかい?」
「ない、です」
「マドレーヌにしよう」
 あゆが食べ終わった食器を片付け始めながら提案する。
「いいけどなぜ?」
 あゆの母が食器洗浄乾燥機の蓋を開ける。
「自分が貰ってうれしいから。贈り物の基本じゃない?」
「そうするか、サヨリちゃん、大使は別に糖尿とかじゃないよな?」
 あゆの父が席を立ちながら聞く。
「はい、とてもお元気です」
「よし、弁護士の先生誘って行くか。午後はまた学校だな」
「はー……」
 あゆが珍しく溜息をつく。
「私も学校に同行する」
 サヨリがやや厳しい眼で宣言する。
「ええ?いいけど……」
「相手を肉眼で確認して大使に報告、善後策を練る」
「物騒な事はダメよ」
 あゆの母がまた心配する。今朝も拳銃を分解清掃していた場面に出くわしびっくりしたところだ。
「了解、実力行使は最後の手段」
「だめですよ! あゆと同じ顔で騒ぎを起こさないで!」
「了解」
「ねぇ、サヨリ、私の中学の時の制服を着て行かない? 学校見学に来た親戚って事にすればいいよ」
「ありがとう、どんな制服?」
「このブレザーとは違うセーラー服よ」
「海軍服?」
 笑い出すあゆの父親、複雑な表情の母親。


S&W M36

2012-08-30 23:57:45 | Weblog

大使館の老大使がサヨリに貸与したハンドガンはS&W M36です。
外交官特権の税関ノーチェックな外交官行李に入れて日本に持ち込まれたものです。
お守り的な備品でロクに油も差されていなかったのでサヨリは秋月家のリビングで分解して手入れをしているとあゆの母が心配そうに見たりするんですよね。

フライングフィッシュ 斜めから

2012-08-28 14:56:45 | Weblog


本当に単純にFlyNanoのエンジンユニットを後ろに持っていってプロペラガードを付けただけです。
だいたい剥き出しのプロペラがパイロットの目前にあったら恐いと思うのですが?
ちょっと着水に失敗したらパイロットがプロペラに突っ込みますよ。
オリジナルのFlyNanoにはどうもシートベルトが無いみたいなので。
民生品ならもっと安全に気をつけないと売れませんよ。

推進式でプロペラが後ろにあると牽引式で前に有る場合と比べエンジンの冷却効率が悪くなりますが超小型機なので大丈夫でしょう。
むしろその弱いプロペラ後流が垂直水平尾翼に当たらないのでフライングフィッシュはFlyNanoより旋回性が劣るかもしれません。

エンジンユニットが後ろにあると当然重心も後ろに下がるので機首部には錘を入れないとダメかも知れません。
貴重なエンジンパワーのリソースを錘に使うのはもったいないのですね。
機首部に機銃をセットしようかと思いましたが固定武装だと近隣諸国に脅威を与えるので
機首は延長して装甲板を入れたりレーダーを内蔵しています。

航法装置は載せませんw
iPadに背面全体を覆うような大型バッテリーを装着した上で丈夫な防水ケースに入れたもので代用します。
それをマルチディスプレイとして使うのでレーダーの画面やエンジンの様子もそれで見ます。
無線機もSkype通信で済ませます。

バックアップ用に最低限の小型計器くらいは操縦席に付いていますし
ポケットに入るような小型無線機も当然持って行くでしょう。

主翼と後部の水平尾翼が一体化しているのを円環翼といいます。
魔法少女まどか☆マギカの円環の理みたいですね。

小型機においては円環翼は空力学的に効率が良くまたプロペラも剥き出しより短いながらも筒状の中に収めた方がロスが少ないそうです。

フライングフィッシュの翼端にあるフロートは増槽も兼ねています。
無くてもちゃんと浮きますが有った方が着水が楽でしょう。
空戦の時は空中で切り離して空気抵抗を減らします。

機首部の装甲板やレーダーを降ろせばサヨリとあゆなら二人乗り出来るでしょう。
操縦はサヨリであゆは機首部に跨って……ちょっと恐そうですね。

思うに

2012-08-27 00:15:44 | Weblog
なんだかあゆの母が小うるさい事を言う人に思える様な描写でしたが
自分の娘とよく似た娘が国際的な問題の海賊取り締まりに関わっていると知ったら
自然の反応かと。

サヨリは母国や行く先々で憧れをもって
「パイロットになりたいけどどうしたらいいですか?」
と聞かれるとその場でバック転をして見せるのですよ。
それで大抵は沈黙するでしょう。

小柄な少女が小型機にのっているので何か誰にでもできそうな気がしてしまいますが
実際は命がけのシビアな戦闘ですからね。

ではまた。

月下の舞姫vol.16

2012-08-26 23:47:37 | Weblog
「これがフライングフィッシュか。パイロットがむき出しで昔の戦闘機みたいね」
お風呂上がりあゆは店舗の備品のウォーターサーバの冷水を飲みながらやはり店舗のパソコンでサヨリの乗機を検索していた。
「あくまでも飛翔可能なパーソナルウォータークラフト(水上バイク)、あるいは表面効果翼艇(WIG)という事になっている」
サヨリも勧められた冷水を飲みながら答える。あゆと話していて普段使っていなかった日本語の勘も戻りいつの間にか普通の話し方になっていた。
「なぜ飛行機扱いではないの?」
「我が国のような海洋国家が戦闘飛行艇を大量に保有していると周辺諸国との軋轢が生じる」
「海賊取り締まりという良いことをしているのに?」
あゆの父が難しい顔で答えを探しているサヨリにお代わりの冷水を差し出す。
「桃太郎みたいな善玉悪玉の簡単な話じゃないんだよ、あゆも高校生だそろそろ視野を広げないとな」
「ふーん……サヨリはもう高校出てるも同じだし働いてるし凄いよね、私も世の中の役に立つ仕事に就けるかな? 日本を出てパイロットもいいなバおバカなクラスメイトもいないし、あー明日は結局学校どうするの? 根本的な解決にはなってないよね?」
「だめよ、危ないわ、特に戦闘機パイロットなんて」
あゆの母が母親らしい事を言う。普段は娘の話に意見はしない方だが新型iPadを差し出しながら続ける。
「サヨリちゃんはさっきの脱衣所のピストルといい訓練された軍人さんなんだからあゆは単純に真似しようとしても怪我するだけよ」
「う、うん」
「どうしたんだ? おまえ?」
あゆの父が割って入る。
「うちの子が、あゆが遠くに行ってしまいそうで」
「嵩谷家の事もあったし今日はそんな気分にもなるさ、学校の件は明日また一緒に行こう。なにも心配せず今日はもう休みなさい」
「はい、お休みなさい、サヨリ一緒に寝よう」
パタパタと先に自室に向かうあゆ。
「おやすみなさい」
サヨリがペコリと頭を下げる。
「「おやすみなさい」」
秋月夫婦が応える。
「おばさま」
サヨリが頭を上げあゆの母を真っ直ぐ見る。
「な、何?」
思わずたじろいでしまう母。
「戦闘パイロットには簡単になれませんよ」
「ああすまんね、パイロットの矜持に触れてしまったか」
あゆの父がまた割って入る。
「これくらいできないと」
不意にサヨリがその場で後方宙返り、いわゆるバック転を決める。
「おー凄いな、さすがだな」
ぱちぱちと拍手する父、絶句する母。
「何やってんの? シーツとタオルケット取り替えたよ、サヨリ早く」
軽く会釈して音もなく無言で走り去るサヨリ。
「すっかり仲良しになったなあのふたりは」
「……あゆはできますよ……」
噛み合わない夫婦の会話。
「何が?」
「危ないからさせませんがさせないようにしていますが新体操の真似事でバック転できますよ、あゆは」
「一時、新体操教室に通っていたよな、何で止めたんだっけ?」
「教室が潰れたんですよ、経営不振で」
「ああ苦悶式学習塾に合気道に弓道と重なってお店を手伝ってくれなかったな」
笑う父、青ざめた母、楽しそうな笑い声をあげるあゆ、表情が乏しいながらも微笑むサヨリ。満月の夜。