ヨウ素剤で刑事7人に踏み込まれる

ヨウ化カリウム、ヨウ素剤、安定ヨウ素剤、放射線防護剤、KI、Potassium Iodide

書類送検とその報道

2012-10-28 13:34:00 | 事実経過

書類送検とその報道

知らされていなかった書類送検

 2012年11月13日 

書類送検される。

わたしには何の連絡もなかったので、わたしは知らずにいた。以下の記事をわたしはちょうど1ヶ月後の12月13日に、気になってネット上で検索して初めて目にした。

  

マスコミによる報道

 

 サンケイネットニュースより

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「放射線予防剤」とネットに広告 実質経営者を書類送検「被ばく防ぎたかった」

2012.11.13 13:33

 「放射線から身を守る予防剤」などとうたい、厚生労働省の認可を得ていない医薬品の広告をインターネットに出したとして、兵庫県警サイバー犯罪対策課と須磨署は13日までに、薬事法違反の疑いで、神奈川県の健康補助食品輸入代行会社と、同社の実質的な経営者を書類送検した。

 送検容疑は2011年4月上旬~今年5月、ヨウ化カリウムを含むと表示した厚労省の認可を得ていない医薬品について、効果や効能をネット上のショッピングサイトに掲載した疑い。

 須磨署によると、経営者は「50~60人に計50万円ほど売った。被ばくを防ぎたかった」と供述し、容疑を認めている。

 広告には「被ばく対策にはヨウ化カリウムが定番」などと記載され、東日本大震災の被災地となった宮城県を含む10都府県から購入があった。

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 この記事を見て二重に驚いた。

ひとつには当事者のこのわたしの知らないうちにこのわたしにとって非常に重要なことが “決定” され、“公表” されていた点である。

もうひとつは内容についてである。書類送検は時間の問題と覚悟していたにしても、この報道記事による取り扱いはわたしが予想していたものとまったく違っていた。わたしが予想していた報道記事は、「ヨウ素剤販売で悪徳業者、書類送検」というようなものであった。このわたしに対する警察の態度、扱いからしてそういった烙印や社会的弾劾が待っていると予想していたのである。それが、なんと見出しと本文中に 「被ばく防ぎたかった」と2回出てくる。記事本文の最後には「東日本大震災の被災地となった宮城県を含む10都府県から購入があった」とある。わたしが予想していたような「放射能不安に便乗し・・・」 とか「売りつけた」とか「荒稼ぎ」といった弾劾的なフレーズは皆無である。

こういった批判的、弾劾的表現が使われていなくても、もちろん読む人が読めば「こいつ、ひとの不安につけこんでひと儲けしようとしやがったな」と思う人は思うだろう。あらためてよく読んでも読者の憤慨を誘うような表現はほとんどないのだが、だからと言って、この記事はニュートラルな事実だけを価値判断を交えずに淡々と報じているというものではない。断じてそうではない。我田引水とも自惚れとも思われるかもしれないが、あえて誤解を恐れずに言えば、この記事は書類送検された「実質的な経営者」に対してむしろ “同情的” である。批判的でも中立的でもなく、むしろこの種の報道としては例外的に“是認的”である。

 わたしは何度もこの記事を読み返した。わたしのように警察にさんざんとっちめられ、弁護士にも見捨てられ、友人たちにも説教され、家族にも疎んぜられてきた人間には、ひとが自分を批判しているのか、支持してくれているのかがおそろしいほど敏感にわかる。迫害されてきた野良猫のように、出会った人間が敵なのか味方なのかを本能的に瞬時に察知するのである。そしてほとんどの場合、相手は前者なのである。

そういうわたしが、この記事を目にしたわけである。わたしは日本のマスコミを信じていないし、3.11以降は特にそうである。そのマスコミにわたしは多少の情けをかけてもらったような気がしている。野良猫が思いもかけず見ず知らずの通りがかりのひとにエサをもらったようなものである。わたしはこの記事に若干のヒューマンタッチを加えた記者の良心に対して敬服、そして感謝の念を禁じ得ない。

この記者は警察発表のわたしの書類送検のケースを単なる薬事法違反の事例としてではなく、大規模核災害という社会状況を背景として見ている。そして多くの人々が助けを必要としている緊急事態におけるひとりの人間の行動としてとらえている。そこにこそこの書類送検のケースの特殊性があると判断してこの記事を書いている。こんな小さな事件のこんな小さな報道ひとつにも、ひとの心というものは反映する。事件の背景と関わった人間に対する洞察、そして記者の人間観が文面ににじみ出ている。

 ヨウ化カリウム関連の薬事法違反での書類送検の記事は、ネット上でもこのわたしのケース以外に数件ある。あえてここでは引用しないが、調べてみれば、このわたしのケースがいかに例外的な扱いを受けているかがわかっていただけると思う。そういった“前例”からわたしは、すべて一律な扱いで、このわたしも“悪徳業者”の烙印を免れないだろうと予想していた。このサンケイネットニュースほど“好意的”ではないが、毎日jp というネットニュースが同じわたしの書類送検を報じている。この「毎日」の記事は見ようによっては、“客観・中立”報道の典型のようにも見える。

 実際に毎日jpの記事を見てみよう。

 

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薬事法違反:「被ばくに効果」と広告 容疑で書類送検

—須磨署など /兵庫

毎日新聞 2012年11月13日 地方版

 国の未承認の医薬品を「放射能被ばくに効果がある」などとうたい、販売目的でインターネット上に広告したとして、須磨署と県警本部サイバー犯罪対策課は12日、神奈川県の医薬品輸入代行会社とその実質経営者の男を薬事法違反(未承認医薬品の広告の禁止)容疑で神戸地検に書類送検した。放射能被ばくをめぐる未承認医薬品の広告の摘発は県内初という。

 送検容疑は、11年4月~今年5月、厚生労働大臣が承認していない「ヨウ化カリウム」の効果や効能についてインターネットのショッピングサイトに広告したとされる。60錠入り瓶を2本セットで5100円で販売。「核施設の作業員が飲んでいる」 「放射線防護剤と呼ばれている」 などとうたっていたという。

 今年5月、同署などがサイバーパトロール中にサイトを発見した。男は 「50~60人に売った」 と容疑を認めているが、販売実績については裏付けできなかった。【井上卓也】

〔神戸版〕

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こちらの記事は非常に事務的に警察発表を伝えていて、その意味でこれといったあからさまな批判的、弾劾的表現は見当たらないのだが、全体としてやはりマイナスに傾いているような印象、つまり「けしからん」という印象を与えるように思うが、どうであろうか。

 書類送検の記事は、記者が警察発表をもとに書くものである。しかし、わたしのケースではそもそもあまり“社会の敵”のマイナスイメージに合うわかりやすい材料があまりなくて記者はちょっと困ったはずである。わたしの広告にはウソも誇大表示もなく、特にボロ儲けもしていないのである。サンケイの記者は、これはちょっと違うぞと考えて、むしろプラスの視点から記事にした。いっぽう毎日の記者は、こういった記事での常道で通そうとして、可能な限りマイナスのトーンで仕上げようとしたようである。そこで、限られた材料のうち「・・・などとうたって」が使えると判断したにちがいない。毎日の記事にやや弾劾的な印象があるのは、記事中に「・・・などととうたい」「・・・などとうたっていたという」という表現が2回使われているためである。1回ならば目立たないが、これだけの短い記事中に2回となると、いやでも強調の意味を帯びることになる。多くの場合、こういった文脈では 「・・・とうたって」 は 「・・・と偽って」 という意味あいすら持つ。

まず、“「被ばくに効果」と広告 容疑で書類送検” という見出しと、本文中の“「放射能被ばくに効果がある」などとうたい” であるが、そもそもヨウ化カリウムが被ばくの予防に効果があることは核災害医療の常識である。「カルシウムが骨粗鬆症の予防に役立つ」というのと同じレベルの常識である。誇大広告でも虚偽の広告でもない。純然たる科学的、医学的事実である。次に、“「核施設の作業員が飲んでいる」「放射線防護剤と呼ばれている」などとうたっていたという。” という本文であるが、これもれっきとした社会的事実であって、ウソでも出まかせでもない。 

 つまり、そもそもわたしは効きもしないものを売りつけたわけでも、誇大宣伝をしたり、ウソ偽りを言って顧客をだましたわけでもないのである。科学的事実と社会的事実を述べただけである。記者はこのことをわかったうえで、あえて、「・・・などとうたって」を繰り返し使って、「言ってはならないことを言った=ウソを言った」 かのような印象を読者に与えようと苦慮している。わたしは一切ウソもでたらめも言っていないのであるが、それでは記事としては面白くないのである。そこで、「・・・などとうたって」を2度使用したのであろう。このためこの記事は全体としてやや“弾劾的”な印象を与えている。「“社会の敵”がまた一人摘発されて、めでたし、めでたし!」という「書類送検」の常道の報道記事の完成である。

ちなみに、この毎日の記事はこれだけ短いものであるにもかかわらず、事実誤認が3つもある。まず、見出しに「被ばくに効果」とあるが、わたしは「効果」とか「効く」とかいう表現は一切使っていない。これは重要な点である。次に「医薬品輸入代行会社」ではなく、サンケイでは正しく記述されているように「健康補助食品輸入代行会社」である。これも大きなミスである。最後に「販売実績については裏付けできなかった。」とあるが、サンケイでも明らかにされているように、警察はわたしのパソコンを押収し、ディスク内のデータをもとにすべて割り出している。事実の報道という点で、この毎日の報道記事はずさんな印象がある。毎日は報道の真実性と報道内容の解釈においてサンケイに一歩譲るようである。報道内容の解釈と言ったが、サンケイは「書類送検」記事にもかかわらず臨機応変に一歩踏み込んだ“是認的”解釈をした。いっぽう毎日は、「書類送検」記事の常道にとらわれすぎて、表面的で、お茶を濁したような、煮え切らない印象を与える。常道は正道ならずである。

 

 ネット上にわたしの「書類送検」を報じた記事はもう一つ、日経のものがあった。これは翌日の12月14日付である。

 

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 「放射線を予防」と無認可薬を広告 会社など容疑で書類送検

 2012/11/14 12:53

 「放射線から身を守る予防剤」などとうたい、厚生労働省の認可を得ていない医薬品の広告をインターネットに出したとして、兵庫県警サイバー犯罪対策課などは14日までに、神奈川県の健康補助食品輸入代行会社と同社の実質的な経営者を薬事法違反の疑いで書類送検した。

 送検容疑は2011年4月~今年5月、ヨウ化カリウムを含むと表示した厚労省の認可を得ていない医薬品について、効果や効能をネット上のショッピングサイトに掲載した疑い。須磨署によると、経営者は「50~60人に計50万円ほど売った」と供述している。

 広告には「被曝(ひばく)対策にはヨウ化カリウムが定番」などと記載され、東日本大震災の被災地となった宮城県を含む10都府県から購入があった。〔共同〕

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容疑者の扱い方のプラス・マイナスで言うと、針はややプラスに振れている印象である。「・・・などとうたい」は1回であるので、ここはゼロ扱いと見よう。「東日本大震災の被災地となった宮城県を含む10都府県から購入があった。」が最後にあるので、ここはプラス扱いと見ようか。

 あえて独断的に今まで使ってきた容疑者に対する視線のプラス・マイナスの尺度で比べてみて、3つの記事のうちサンケイをプラス3とすると、毎日はマイナス1、日経はプラス1というおおざっぱな印象である。誰が見てもはっきりとあからさまに批判的、弾劾的な扱いをしている記事(マイナス2、3、4相当)は見つからなかった。ということは、もちろん我田引水の解釈ではあるが、平均するとプラス扱いとも取れる。日経はこの事件の特殊性に気づき、サンケイ同様被災地からの購入もあったことを最後に入れている。毎日が気づかなかったとは思えないが、うまく記事にまとめるのが面倒くさかったのか、マイナス扱いで済ませている。しかし、それならもっと”悪徳業者”にしないと記事にならないだろう。けっきょく、決定的な材料がないまま中途半端な扱いに終わっている。日経あたりがふつうかもしれない。サンケイはむしろできすぎかもしれない。毎日はやや手抜きである。

もっとも上記の3つの記事ですら、断罪に値する社会の敵の摘発という印象を十分に与えるかもしれない。つまり読者のあいだに「けしからん」、「ふざけた野郎だ」、「許せん」 といった反射的反応を喚起することは大いにありうるだろう。じっさい 「書類送検」 というだけでもう自動的に“社会の敵”という先入観で判断するひとは少なくない。“社会の敵” が捕まって牢屋に入るなりの罰を受けたものと人々は思っている。

しかし、日本では書類送検されるケースの約半数はさまざまな理由で不起訴処分になっている。ところが、書類送検は報道されるが、それが不起訴処分になったという続報がすべて報じられるわけではない。テレビで報じられるような大きな事件の書類送検の場合は、その後の起訴・不起訴の報道は当然あるだろう。わたしのケースのような、それこそ砂粒レベルの書類送検の、その後の起訴・不起訴を見届けるほどマスコミもヒマではないだろう。であるから、わたしの書類送検の報道も“社会の敵”が捕まって処罰を受けたんだろうというふうに受け取られているはずである。

 しかし、である。わたしのケースは上記の「書類送検」の報道の1カ月と1週間後の12月20日に不起訴処分になった。もちろんその報道はない。「書類送検」 されるにはされたが、わたしの場合、けっきょく不起訴が確定し、このわたしには何の処罰もない。罰金もない。もちろん犯罪記録も残らない。無罪とは言わないが、“有罪ではない” ことは確実である。警察がこのわたしを起訴して有罪にするためにさんざん積み上げた厚さ30センチ近くの書類の山を、検察が有罪・無罪の手前で取り下げたということである。

 この不起訴処分の経緯は以下の別ページにまとめた。

 検察庁出頭 および意外な結末