ヨウ素剤で刑事7人に踏み込まれる

ヨウ化カリウム、ヨウ素剤、安定ヨウ素剤、放射線防護剤、KI、Potassium Iodide

タブーとしての”放射線防護剤”

2012-08-29 23:42:05 | 主  張

タブーとしての”放射線防護剤”

原発建設予定地の住民への説明会で、かりに電力会社の職員がウッカリこう説明したとしましょう。

「ま、とにかく日本の原発の技術は世界最高水準ですから、チェルノブイリのような事故は起こりようがありません。もう万全の安全管理で運転しますので、ほんのちょっとした不具合があれば、すぐにコンピュータが報せます。ですから、事故に至る前にすべて問題を解決します。ま、それでももし、かりに万が一事故が起きたとしても、非常災害時のしっかりした避難体制ができていますし、放射線防護剤の備蓄についても万全ですから、まったくご心配はいりません。」

 

住民A:「その放射線防護剤っていうのは何ですか?どういうものなんですか?」

電力会社:「えーと、それは・・・ 安定ヨウ素剤ですね。」

住民A:「何ですか、その安定ヨウソザイっていうのは?」

電力会社:「ま、その、ヨウ化カリウムとも言いますが・・・、原発事故の際に真っ先に広がる放射性ヨウ素に対する防護剤でして・・・、ま、それをすぐに飲んでおけば甲状腺障害とか甲状腺ガンになりにくいというものでして・・・」

住民B:「なんだ、それじゃ、やっぱり事故は起きるんじゃないか!」

電力会社:「いえ、そういうことはないんですが、かりに万一の場合はそういうものも用意してありますから、もう完璧に万全だという意味でして・・・」

住民C:「事故が絶対に起きないって言うんだったら、そんなものは要らないじゃないか!そうだろ?」

住民多数:「そうだ!そうだ!」

電力会社:「・・・ ええ、たしかに本当はまったく必要ないんですが、ま、その“決まり”といいますか、一応そういうものを用意しておくことになっていますので・・・」

住民D:「ぜったい火事が起きないんだったら、消火器はいらないだろうが!」

住民多数:「そうだ!そうだ!」

住民E:「あのー、ちょっといいですか?」

電力会社:「あ、はい、どうぞ、どうぞ!」

住民E:「さきほどの安定ヨウ素剤でしたっけ? それは放射性ヨウ素を防護するものっておっしゃいましたよね?」

電力会社:「あ、はい、そうです!」

住民E:「放射能って、いろいろありますよね、プルトニウムとか、セシウムとか、ウランとか・・・」

電力会社:「あ、はい、・・・」

住民E:「そのさっきの安定ヨウ素剤とかいうのはそっちのプルトニウムとかセシウムとかには効かないんですか?」

電力会社:「あ、それはないですね。放射性ヨウ素に対してだけですね、安定ヨウ素剤は・・・」

住民F:「放射能はいろいろ飛んでくるんじゃないのか?その放射性ヨウ素とかだけじゃないんだろ?」

電力会社:「あ、あの放射能と放射線は違いまして、放射能は飛んできませんから・・・」

住民C:「原発で事故が起きれば、プルトニウムとかセシウムとかが漏れるんじゃないのか!?」

電力会社:「ええ、まあ、事故となればそういうことになるかもしれませんが・・・」

住民C:「見ろ!やっぱり起きるんじゃないか、事故は!!」

住民多数:「そうだ!そうだ!」

住民D:「そんな安定ヨウ素剤も、原発も、どっちも要らないよ!!どっちがあっても心配で寝れやしないよ!」

住民多数:「そうだ!!そうだ!!」

 

 

実際は原発の予定地の地元住民への説明会でヨウ素剤の備蓄の話が出ることはありません。出せば、以上のようなことになるのは目に見えています。電力会社は口が裂けてもヨウ素剤や放射線防護剤といった万一の事故を前提にした話をすることはなかったのです。少なくとも今まではなかったのです。”原発の安全神話”をちょっとでも疑わせるようなことを口にすることは電力会社の社員にはタブーだったのです。

ですから、ヨウ化カリウム、安定ヨウ素剤のようなものが薬局やドラッグストアの商品棚に並んでいては非常にまずいのです。そういうものが存在するということじたいが事故の可能性を指し示しているからです。

それではそういった安定ヨウ素剤のようなものが、一般の目に触れないようにするためにはどうしたらいいでしょうか。ヨウ化カリウムは欧米ではほとんどサプリメントの扱いでビタミンCやカルシウムと同じように処方箋もなしに買えるものです。しかし、日本でそういった扱いにしてしまうと一般の人々の目に触れやすく、手に入れやすくなってしまいます。

それではどうしたらこのヨウ化カリウムをたやすく大衆の手に届かないようにできるでしょうか。実に簡単です。サプリメントではなく医薬品の扱いにしてしまうのです。こうすればだいたい処方箋なしでは買えません。さらに”劇薬指定” にしてしまいます。こうすれば、ドラッグストアでも薬局でも店内の商品棚に並ぶことはなくなります。調剤薬局に行かないと買えなくなります。調剤薬局でも注文しないと手に入らないようにできます。しかも医者の処方箋がないと買えないものになります。

しかし、電力会社にそんなことができるのでしょうか。もちろん薬事法をいじくるのは電力会社ではありません。もっと上の、政府の原子力政策をつかさどる組織であれば大抵のことはできるでしょう。原発を日本の津々浦々に作ろうとしているひとたち、団体、組織、勢力にとって、事故は起きませんという”安全神話”を少しでも脅かすものは排除することが、その出発点から必要なことだったと想像されます。

 

「このヨウ化カリウムは、なんとかならんかね。こんなもんが出回っていたら、まずいねえ」

「そうですね、でも、いちおう副作用もありますから、そこでどうとでも扱いを厳しくできるんじゃないでしょうか」

「おい、ちょっと厚生省の△△に電話しろ!」

こんなやりとりが今から半世紀くらい前に、ある官庁の一室であったと想像してみるのも面白いでしょう。原発を擁しているほどの先進工業社会の中で、ふつうの町の薬局でヨウ化カリウムを目にすることができない国はおそらく日本くらいでしょう。国民を騙すための安全神話を支えるためにそういった細かいところまで手を回していたのです。