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八幡「青春ラブコメの主人公」

2013-05-30 07:27:56 |  やはり俺の青春ラブコメはまちがっている


2: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:39:40.80 ID:nTBVt/Bm0
第一話「鴉鳴いてわたしもぼっち」



色々あった夏休みが終わり、二学期に入ってからもちらほらと平塚先生によって舞い込んでくる依頼もとい命令をそれなりに、おざなりにこなしていた。

雪ノ下との勝負にはいつの間にか由比ヶ浜も加わっていて、現在勝負は一進一退の膠着状態に陥っている、らしい。

勝負とか何でしたっけ、俺すっかり忘れてたんだけど。ねえ誰かこれ覚えていた人いんの? 

そもそもなんで勝負しているのかもわからない。由比ヶ浜はともかく、雪ノ下と戦って勝てる事なんて殆ど無いに等しい。

痛い目や辛い目を見るのは必至である。常に敗者の俺は陽の目を見ない。ついでに言えば雪ノ下は俺の目を見ない。

しかし、殆どないということは逆に言えば少しはあるということである。

容姿端麗成績最高スポーツ万能県議会委員の娘で帰国子女の雪ノ下に勝る俺。

俺SUGEEEEEEEE! どのくらいかって言えば魔法科高校のお兄さんくらい。

過去の痛い勘違いなら雪ノ下なんて目じゃないぜ! なにそれよけい辛い。
3: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:40:52.43 ID:nTBVt/Bm0
ちなみに一位を争っているのは雪ノ下と由比ヶ浜のようだ。俺はたいてい見てるだけ。もしくは呼ばれもしない。

いや、だってほら、あれだよ。最近のあいつら超仲良いからね。俺の入り込む隙間なんて1ミリもないからね。

入る気なんてもとから無いからいいんだけど。いやもうほんとこれっぽちもないし。ほんとほんと。

まぁ夏休み中に何かあったのだろうが、それはあいつらの問題であって俺がとやかく言う事ではない。

由比ヶ浜にとって雪ノ下は、空気を読みまくって維持しなくてもいい関係を教えてくれた大切な存在なのだろう。

雪ノ下にとって由比ヶ浜は、唯一と言っていい理解者だ。最近は小町も雪ノ下に毒されてきているが。

だが雪ノ下、お前に小町はやらん! なんなら誰にもやらねえ! 小町には一生養ってもらうんだからねっ!

きっと小鳥遊さんちの泉さんならわかってくれるはず。あの人はいろいろと完成されている。
4: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:42:58.39 ID:nTBVt/Bm0
小町に一生養ってもらうことも視野に入れている俺だが、当の小町は現在受験生である。

普段家事は専ら小町が担当していたが、最近は俺が代わりにやり勉強にあてる時間を増やしている。

というのも、志望校、つまり俺が通っている学校への進学は学力的に厳しいのだ。

夏休みにほぼ付きっきりで教えた甲斐もあって多少は良くなったが、元がアレなのでまだ難しいだろう。

ちなみにほぼ付きっきりというのは割と厳密な意味で付きっきりだった。風呂とトイレ以外は、とかそういうレベル。

これは兄妹の絆がそうさせるのであって、重度のシスコンだからだとか、全く出かける予定が無かったからとかではない。

ついでに言えば、たまに嫉妬した親父も混ざってきたので家族の絆と言えなくもない。

と思ったが親父は俺に対して各種嫌がらせをしただけなのでやっぱりそんな絆はなかった。

まぁ小町関連ならなんてことはない。深夜に痛チャリで秋葉原から帰宅は余裕だし、なんならアメリカに連れ戻しに行くまである。

だからこうして休日である日曜日にはるばる夕食、夜食の買い出しに行く事は当然であり、むしろ誇らしい。近所のスーパーだけどな。
5: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:44:17.29 ID:nTBVt/Bm0

さすがに近所なだけあってダラダラ歩いていてもすぐに着く。

どこにでもある普通のスーパーで、あまり特徴はない。半額弁当を狙った狼もでないし、小さい虎を連れた凶悪目つきの竜も現れない。

不定期に行われる魚やら野菜やらの詰めにくい詰め放題と、微妙に安いらしいタイムセールがあることが特徴といえば特徴か。

自動ドアをくぐり、カゴだけ持つ。今回の目当ては野菜の詰め放題である。

昨日の夜、リビングで勉強している時、小町が『夜食にサラダバーとかあったらもっと勉強はかどるのになー』と言っていたからだ。

兄として当然聞き流すことなどできない。小町其処に在り、故に比企谷家在り。比企谷家の家訓だ
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[saga]2012/07/02(月) 00:45:29.16 ID:nTBVt/Bm0
次の開催時間までには少し間があるので、それまで適当に回りぽいぽいと品物を放り込む。

調味料は買う機会が少ないのでついつい忘れがちになる。しかし今日は忘れてはいけないのは醤油だ。

もちろん銘柄は世界に名だたるソイソースメーカーのキッコーマン。千葉県野田市に本社がある。

というか野田市は醤油工場しかない。一部の人からは醤油の聖地と呼ばれているくらいだ。

あの市で寿司や刺身を食べるときは、空気中に醤油分が豊富にあるので空中にくゆらせて食べるのがマナーになっている。

正しい作法を知りたければ、もの知りしょうゆ館での工場見学の後に亀甲仙人から学ぶことが出来る。そんなわけあるか。
7: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:47:23.90 ID:nTBVt/Bm0

時間が近づいてきたので、詰め放題が行われる場所に向かう。

詰めにくいことに定評がある詰め放題だが、地味に混んでいる。

なんでも、高度な空間把握能力と創意工夫を求められるドM仕様が逆に人気を集めているらしい。

わからなくもない。ついついキャサリンをいきなりハードモードで始めてしまうあの感覚である。ツィゴイネルワイゼンはもうトラウマ。

まぁ、この前来た時のように、晩白柚とかいう巨大な柑橘系の何かとか、やたらでかい大根やゴボウといった巨大シリーズで攻めてきて、

用意された小袋どころかカゴよりもでかいという、詰めにくいどころかそもそも無理ゲーな場合も多々ある。店長マジオチャメ。

無理ゲーの時は、やりたい放題な店長のドヤ顔に苦笑して帰るしかないが、それでも以降の参加者数が減らないのはある意味凄い。

毎回違ったコンセプトで行われる高難易度のイベントは、なんらかの中毒性があるのだろうか。
8: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:48:11.50 ID:nTBVt/Bm0
そんな好き者達の僅かな隙間を縫うようにして良いポジションに潜り込む。人間関係界の隙間産業と呼ばれた俺には造作もないことだ。悲しい。

だが隙間産業は上手くやれば大成功できる可能性を秘めている。良い隙間を見極め、それを有効に活用すれば良いのだ。

周りを見渡せば、チャンスもとい隙間はいくらでも転がっている。

そう、俺自身が教室の隙間であるように。もうやめたげて。
9: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:49:35.15 ID:nTBVt/Bm0
独り地雷処理をしているところで、店長が出てきた。

手には詰め放題が開催中である事を記した立て看板を持っている。

でかでかと書かれた文字は、『盛ってっけ! もぎたてprettyちゃんす』。

おい店長。

マクロス好きでアルカナ勢な店長は立て看板を置くと、一度バックヤードに戻り、野菜や果物の乗ったワゴンを運び込んでくる。

積まれた物をぱっと見る限り、どうやら今日は巨大シリーズではないらしい。

一番上のものは普通の野菜のようだが、もちろん全てがそうであるはずがない。

良く見てみれば、捻じれたキュウリにやたら細長いジャガイモ、妙にエロい大根など普段店に並んでいる野菜とは明らかに形が違う。

いわゆる規格外、あるいは規格落ちというやつだろう。

まったく、嫌な言葉だ。
10: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:50:54.57 ID:nTBVt/Bm0
それらは規格品と比べて味、栄養共に劣る事は無くむしろ優秀である事が多い。

にも関わらず、見た目が悪い、運搬の効率が悪いというだけで廃棄されてしまう。

枠に納まるものしか受け入れず、はみ出すものは容赦なく排除する。まさに社会の縮図だ。

個性を育むと言いつつ、結局は自らのコピー品を作ろうとする教育となんら変わりない。

ラテラルシンキングで傷物を有効活用した特等添乗員を見習って欲しいものだ。

その点ここの店長は好感が持てる。また参加しようという気にもなるものだ。

思えば、行儀よく並んだ野菜は欺瞞に満ちた紋切型の青春を謳歌するリア充どもと似ている気がしてきた。

つまりイライラしてきた。もう今日は我が道を行く自由奔放な野菜しか買わない事にしよう。

ぼっち万歳!
11: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:52:36.43 ID:nTBVt/Bm0

決意を新たにしていると、店長がようやくワゴンを運び終えた。ワゴンは俺達が待機している場所から5メートル程離れている。

溜めに溜めるうっとおしい店長に焦らされつつ開始の合図を待つ。

無駄に上手いGガンの司会者のモノマネで合図された、その瞬間、わっと走り出す群衆。

というわけもなく、急ぐことなく普通に歩いて行く。成果は殆ど各個人の能力次第なのでその必要がないのだ。

最初のポジション取りもいち早く袋を取ることが出来る以外にあまり意味はない。

ひたすら自らの能力と向き合うこの競技は、無理やりねじ込みたがるおばちゃんを除き、

常連達の間では慌てず騒がずスマートにこなすという不文律の紳士淑女協定が結ばれている。
12: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:53:58.32 ID:nTBVt/Bm0
だが一人、空気を読まずに突貫する者がいた。

ダッシュでワゴンの傍まで行くと、慌ただしい様子で小袋を手に取る。

見るからに娘を溺愛していそうな眼。

友好的な女を見たら美人局だと思えと言う口。

娘と仲の良い息子を追い払う手足。

つまるところ、俺の親父である。

なにしてんだよ……。
13: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:55:02.01 ID:nTBVt/Bm0
呆れた視線で親父を見ていたら目が合った。

親父は俺を見てニヤリと笑い、再び猛烈な勢いで様々な野菜を小袋に詰め込み始める。

ワゴンには野菜だけでなく果物もあるのに、ひたすら野菜のみを詰めている。

……どうやら親父も昨夜の小町のつぶやきを聞いていたのだろう。

ときおり挑発するようにこちらをチラ見してくるのがその証拠だ。うざい。

しかし、なぜわざわざ詰め放題に来るのか。

その理由は明白である。
14: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:56:06.47 ID:nTBVt/Bm0
普段、親父は殆ど自分の買い物をしないようだ。ときおり幸せの壺や絵画を買わされるぐらいである。

そのせいか小遣いが元々少ない上に、頻繁に小町に貢ぐものだから財力は俺と同等かそれ以下だろう。

ゆえに金に物を言わせて買い込む事ができないのだ。

小町の為に出来る限りのことをするのは比企谷家の人間にとって当たり前のことである。

その点のみにおいて、親父は尊敬できる人物である事は確かだ。

しかし、親父に小町の親としての矜持があるように、俺にも小町の兄としての矜持がある。

負けることはできない。

恥も外聞もなく、遅れを取り戻すようにワゴンに飛びつく。

視線に敏感な俺は周囲の人間が言外に非難するのを感じ取ったが、そんなことはどうでもいい。

紳士淑女協定? 知るかそんなもん。
15: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:57:01.89 ID:nTBVt/Bm0

小袋を手に取り、頭の中でルールを確認する。

この詰め放題は、商品が一部でも小袋の中に入っていれば良い、と言う事になっている。

あとは商品に傷を付ける事と小袋以外の道具を使う事が禁止されているぐらいで、ほぼ何でもありだ。

小袋は何枚でも使用していいし、上下に組み合わせて包んだり紐状にして商品を結ってもいい。

しかし、価格は小袋一枚又は一部分につき算定されるので使い方を誤るとかえって割高になってしまうので注意が必要だ。
16: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 00:58:33.48 ID:nTBVt/Bm0
ルールを再確認した後は大まかなプランを立てる。

今回の目的はサラダバー用の材料を確保する事だ。種類はそんなに多くなくていいだろう。

勉強しながらでもつまめるもの、ということを考えると自ずと材料と量が限定されてくる。目安は3袋程度だろうか。

条件を確認し、のびのびと自由気ままに育った野菜達と向き合う。

奇怪な形をした野菜同士を組み合わせ、なるべく直方体に近い形にしたあと細長い円筒状にまとめる。それを繰り返し、徐々に円周を大きくしていく。

小袋の直径と同じくらいになったところで中に入れ、まだ入りそうなが隙間あればそこにもどんどん詰め込む。

盛るぜ~盛るぜ~、超、盛ってやんぜぇ~。

親父への闘争心、もとい敵愾心からか、いつもより調子が良い。
17: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 01:01:01.67 ID:nTBVt/Bm0
この調子なら負けることはないだろう。なんなら千年パズルを解くまである。闇八幡が出てきたらどうしよう。

雪ノ下あたりに『罰ゲーム!』とか言ってみたいが、どうせ『あなたの人生が罰ゲームみたいなものでしょう?』と言われるのでやめておこう。

あ、今日はこの台詞で練習しよう。雪ノ下のモノマネはもはや日課だ。

ちなみに、逆にきれいな八幡とか出てきたら超絶リア充になるだろう。ググったら詳しく分かるかもしれない。

しばらくすると親父は絶好調な俺を見て不安を感じたのか、途中からわざとぶつかったり俺が取ろうとしたものを横取りしたりと露骨に邪魔してきた。

全く持って陰湿である。

卑怯な行いなど断じて許すことは出来ない。

仕返しに足を踏みながら突き飛ばしたり、袋にこっそり穴を開けたりしてやった。

卑怯な行いなど断じて許すことは出来ない。
18: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 01:02:43.28 ID:nTBVt/Bm0

ある程度時間が経つと詰めやすいものは少なくなるので難易度が跳ね上がる。

やはり今回も順調だったのは最初だけで、どうにかこうにか目標である3袋を詰め終えた。

後半は殆ど邪魔してこなかった親父が気になったので様子を窺ってみる。

なんと親父は限界まで密度を高めた状態で5袋も完成させていた。

対人関係、特に女関連の詐欺に弱いだけで、基本的にはハイスペックであることを忘れていた。

俺が見ていることに気がついた親父は、かなりむかつく表情をして鼻で笑う。

そしてワゴンに殆ど野菜類が残っていない事を確認すると、意気揚々と去ってく。

だが、それは間違いだ。

親父のカゴに入った袋を見て、俺は勝利を確信した。
19: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 01:05:09.25 ID:nTBVt/Bm0

詰め放題コーナーを後にし、必要なものを買って回る。

野菜コーナーでぼっち化していたキンバーライトさんを救出した以外は予定通りの品物を揃えた。鐘が響くぜ。

小町の頭のことを考えれば、冬月先生ばりのマグロの目玉ゼリーとかの方が良いのだろうが、あらゆる面で非現実的だ。

そもそもマグロの目玉なんて売っている所はあるのだろうか。わたし、気になります。

店員に聞いてみようか。だが気遣いの出来る俺はもちろん仕事中に声をかけるなんてまねはしない。やらなくていいことならやらない、だ。

ちなみにこの野菜達は農薬等で奇形になったのではない。そこは生産者並びに各方面に確認済みだ。

放射能の影響とか馬鹿馬鹿しいデマに流されていはいけない。

少なくとも千葉県のピーナッツは影響ないからどんどん買うべきだ。むしろ買え。みそピーは世界観変わるレベル。

まぁ、アヤシイ食材の安全を確認するのは専業主夫を目指すものとして、なにより小町の健康を預かる者として当然の義務である。

日々向上していく俺の主夫スキル。働かない為なら努力を惜しまないぜ。
20: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 01:05:54.46 ID:nTBVt/Bm0

レジを抜け、カゴからエコバッグに商品を移していく。

隣のおばちゃんのエコバッグはたぶん海外からの輸入品だ。

資源を節約するための物を空輸。なにこの自家撞着。

欺瞞を横目に淡々と作業をこなし、店を出た。
21: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 01:08:01.50 ID:nTBVt/Bm0

俺がもし物語の主人公であれば、どこかへ出掛ければ知り合いに偶然会ったりしただろう。

近くに住んでいて、料理が趣味であるはずの――断じて『特技』ではない――由比ヶ浜あたりが妥当だろうか。

しかし、現実はこの通りだ。出掛けたところで誰にも会わず、俺は物語の主人公ではなくただのぼっちだ。

それが悪いことだとは決して思わない。

ただ、もし、俺が。

暮れかけた空を背に鴉が一声鳴く。
22: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 01:09:20.10 ID:nTBVt/Bm0

野菜がたっぷり詰まったエコバッグの重みを感じながら歩く。

レジ待ちで結構並んでいたので、親父は既に家に着いているはずだ。

喜々として小町に戦利品を見せていることだろう。

しかし、小町が言うサラダバーとはサラダ=salad=野菜、バー=bar=棒で野菜スティックの事なのだ。

量を優先して詰めやすい葉物ばかり狙ったのが親父の敗因だ。

親父は小町の理解度が低い。まだまだだね。小町の英語の理解度も相当低いが。

……あいつ本当に合格できるのか?

やっぱり今後も付きっきりで教えてやるしかないだろう。

夕飯の手順と勉強のメニューを考えつつ、俺は家路を急いだ。





つづく
23: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/02(月) 01:11:40.06 ID:nTBVt/Bm0
第一話というかプロローグ終了です。

つづきは一週間以内を予定しています。

それでは、また。
24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]2012/07/02(月) 07:49:14.57 ID:HCejvqUAO
原作でもここまでパロネタ仕込んでねーよ
25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]2012/07/02(月) 07:52:45.54 ID:ODHtXMt6o
SSだし
26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2012/07/02(月) 12:42:05.58 ID:bGCSKthl0
余分なものが多すぎるけどまぁガンガレ
27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]2012/07/02(月) 19:08:41.04 ID:xng5r2aI0
正直パロネタがくどい
けどこの作者の作品には期待ができる
28: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:33:55.27 ID:gyeW6Fy20
第二話



教室において窓際とは、主人公の定位置である。

漫画やアニメでは殆ど間違いなく主人公は窓際の席にいる。

光溢れる窓際。若々しく瑞々しい青春を象徴するのは、やはり光だ。

輝く汗。溢れる涙。それらは光を受けてキラキラとさんざめく。そう、青春は光を受けてこそ青春たり得るのだ。

ゆえに当代随一の真リア充である葉山隼人が席替えで窓際になるのは当然と言うよりもはや必然だろう。

そして主人公の隣か前後にはヒロインがいるのも定番である。

ご多分にもれず葉山を中心に、前に海老名さん、右隣に三浦、後ろに由比ヶ浜と、クラスの一軍リア充女子で固められている。

作為的なものを感じないでもないというか確実に何らかの力が特に三浦あたりに働いたのだろうが。

作為的と言えば、中学生時代俺の隣の席になった女子はみんな急に目が悪くなって前の方に行ったんだけどアレ何?

若林さんメガネしてたけど度が合ってなかったのかな。

前の席が埋まってもう移動できないと悟ったときの彼女の泣きそうな表情は忘れられない。

分かってないと思うけど一番泣きたいのは俺だからね? それ以降俺はあらかじめ一番前の席に固定されたし。

おかげで授業に集中できたけどな!
29: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:35:03.97 ID:gyeW6Fy20
その点、最近の席替えはかなりマシになった。

隣になった女子は俺をチラ見しただけで直ぐに自分の所属するグループに行く。もしくは携帯を弄り始める。

居ても居なくてもいい奴、どうでもいい奴としてのポジションを確立した賜物だ。

意識しなければ存在すら忘れられている。思い出すのはそれこそ席替えや英語の授業のペアを組む時ぐらいだろう。

もはや忍者である。世が世なら立身出世も夢ではない。忍者的に考えて俺マジ半蔵。

ただし専業主夫に出世はないのでやっぱりただの夢だった。というかそもそも出世に興味がなかった。
30: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:36:54.52 ID:gyeW6Fy20
席替え直後は教室が騒がしいのはどこも同じだろう。

幸い今はSHRなので、騒ぐ相手もいない俺はさっさと帰り支度をして教室の出口に向った。

動いても誰も気付かない、気にしない。やっぱ忍者になろうかと本気で検討しながら廊下を歩いていると、いきなり背中を突つかれた。

隠密行動中の俺に気付くとは!

「なにやつ!?」

「うわっ!?」

バッと素早く颯爽と振り返ると、驚いてわたわたしている由比ヶ浜がいた。

「きゅ、急に振り返らないでよ! あと、今のキモい」

「あ、あぁ……、悪い」

アホな妄想をしていたせいで言動が変になってしまっていたようだ。

「それで、何の用だ? 三浦あたりとわいきゃい無意味にはしゃいでなくて良いのか? 猿みたいに」

「言い方に悪意があるよ!? キモいって言ってごめん!」

「いや別に気にしてない」

由比ヶ浜結衣、ちゃんと謝れる子である。今の場合悪いのはたぶん俺だろうし。

「う、うん、そっか。あ、あのさ、ヒッキー今日も部活行くよね?」

「まぁな。進級がかかってるからな」

正直帰りたいのはやまやまだが。

「したらさ、あたしこの後優美子達とちょっと話あるから遅れるんだけどさ……、ヒッキーにも話あるから、その……、帰らないで待ってて欲しいんだけど……」

何が言いにくいのか、由比ヶ浜は視線を下に向けて胸の前で合わせた指をいじいじしている。

「……ああ、わかった。どうせ本読んでるだけだしな」

俺が答えるとぱぁっと顔を輝かせて、次いでほっとしたような表情をする。

「そっかぁ! じゃあ待っててね! 絶対だよ!」

「おう」

由比ヶ浜は一度にっこり笑って手を振ると廊下を駆けて行った。

なんとなく見送った後、昇降口に向かって歩き始める。

「さて、……帰るか」
31: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:39:39.85 ID:gyeW6Fy20

「待ちたまえ」

歩き始めて数歩も行かないうちに襟首を掴まれる。この万力のような力は……

「ひ、平塚先生!」

「たった今待つと約束をしたばかりなのに何故帰ろうとするのかね?」

「聞いてたんですか!?」

「偶然通りかかってね。と言うより、天下の往来であんな青春していたら注目を集めるのは当然だろう」

ぎりぎりと肘関節を決めながらガッチリホールド。

「違うんです! それが誤解なんです! 今日は、今日だけは見逃して下さい!」

「誤解?」

「そうです誤解です! あれは青春なんかじゃないんです……」

この流れには覚えがある。

教室の端でうっとおしく盛り上がるリア充達。そしてその輪から抜け出し、俺に近づいてくる女子。

羞恥で泣きそうな顔を真っ赤に染めながら俺に嘘告白をする女子。

そう、いわゆる罰ゲームというやつだ。

もし受けたら気持ち悪さで泣かせてしまい、勘違いナル谷扱いされ地獄に落ちる。

断ったら断ったで屈辱で泣かせてしまい謝罪のシュプレヒコールで地獄に落ちる。

イベントが発生した時点で既に不可避なのだ。

「だからその前に逃げるしかないんです! わかって下さい先生!」

説明しつつ必死に説得を試みる俺。

「トラウマを掘り返しつつ涙ながらに懇願するな……さすがに憐れになる……」

「だからその悲劇を繰り返さないためにも、ここは

「だがな比企谷、由比ヶ浜はそのような真似をするような人物だと、本当に思っているのか?」

「……っ」

「私には、以前の彼女ならともかく今の彼女がするとは思えないがね」

「それは……そう、ですが……」
32: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:44:12.52 ID:gyeW6Fy20

しかし、自己防衛の基本は逃避にある。

暴言や罵倒は聞き流して避け孤独感からは妄想で逃げる。優しさはまず疑ってかかり、疑わしきは逃げろ、だ。

ぼっちはそうやって強くなっていくものだ。ならざるを得ない。

世間ではそれを弱さと呼ぶかもしれない。雪ノ下なら間違いなくそう断言するだろう。

だが、世間での評価などそれこそぼっちには何の影響もしない。

その強さの根底を覆しても良いのだろうか。

「ふむ、どうせ君はまたろくでもない理屈を並び立てているのだろう。それはまあいい。しかし、私との約束を忘れたわけではないだろうな?」

部活に行かなければ留年&私刑というアレである。

「あれは約束と言うより脅迫じゃ……いえなんでもないです」

肘がゴリッと嫌な音を立てた時点で屈服した。痛いの怖い。強さとかそんなの超どうでもいい。

「よろしい。ではさっさと行きたまえ」

「はい……」

背中を押されというか突き飛ばされ、とぼとぼと歩き始める。

「後で確認しに行くからな。私に自慢の拳を使わせるなよ」

先生……スクライド好き過ぎだろ……。

結局逃げることも出来ずに部室に着いてしまった。
33: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:45:48.30 ID:gyeW6Fy20

戸を開けると、いつものようにいつもの場所に雪ノ下がいた。

「よう」

俺が声をかけると、雪ノ下は本を閉じ顔をこちらに向ける。

「…………こんちには、比企谷君。……はぁ」

「おい、今の間はなんだ。あとお前かよ的な溜息やめろ」

「そうね、なんで比企谷君なのかしら」

「俺に聞くな。傷付くだろ。っていうかこの流れ前にもやったろ……。由比ヶ浜はなんか遅れるらしいぞ」

「そう」

「ってかお前、来るの早いよな。いつも一番にいるし」

「比企谷君に遅れを取るなんて、それがどんなことでも耐えられないもの」

「はっ、珍しく弱気だな。俺ごときに耐えられないだなんて」

「あなたは変なところで強気ね……」

一通り挨拶を終えて俺もいつもの席に着く。
34: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:50:44.76 ID:gyeW6Fy20
鞄を開いて本を取り出したところで、雪ノ下がまだこちらを見ていた事に気がついた。

「な、なんだよ……」

そんな真っ直ぐな目で見つめるなよ……。怖いだろ。

「いえ、どうして比企谷君は比企谷君なのかしらと思っただけよ」

「お前どこのジュリエットだよ。何? 俺の事好きなの?」

雪ノ下は無言でスッと目を細める。やばい、俺死んだかも。

「……もし、あなたが比企谷君じゃなかったら私達が出会うことはなかったわ」

……良かった。ただ完全に無視されただけで済んだ。伊達に普段から発言どころか存在すら無かった事にされてないぜ。

「いやに感傷的だな。急にどうした?」

「別にどうもしないわ。ただ、ここ数ヶ月間の事を思い返して、この私にも大切に思える人が出来た事に驚いたのよ」

「俺はお前がそんな事言ったのが驚きだよ……。ってかその言い回しは完全に中二病だな。材木座と仲良くしたらどうだ」

「今まで私が受けた中で最大級の侮辱だわ……」

柳眉を逆立てて肩をわなわなと震わせる雪ノ下。

あまりにも意外な事言うものだから、思わず命の危険とか考えずに発言しちゃったじゃねーか。というかこの雪ノ下本物? どう考えても偽者だろ。

ちらりと雪ノ下の方を見てみると、引きつった笑みを浮かべて辺りに吹雪を撒き散らし始めていた。だめだ、本物だ。今度こそ死んだかも。

「い、いやほらあれだから。材木座とすら仲良くできる雪ノ下さんマジ天使って事だから。材木座的に考えて雪ノ下さんマジウリエル」

「火であぶって欲しい、ということかしら?」

今度は背後に黒い炎が立ちこめる。火であぶるどころじゃ済まないだろ。

てか天使の役割とか中二病じゃないと知らないよな、普通。雪ノ下はやっぱり中二病だ。

つまり俺は間違っていない! 謝るなんてことしないからな!

「ごごごごめんなさい!」

頭を机にこすりつける勢いで下げる。さすが俺、プライドとか無いぜ!

「……はぁ、話が進まないようだから今は不問ということにしといてあげるわ」
35: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:53:18.91 ID:gyeW6Fy20
雪ノ下は、こほんと咳払いすると改めて話を始める。

「どこまで話したかしら……あぁ、比企谷君が屑だったから私達は出会えたわ。半分は平塚先生のお陰だけれど」

断罪しないだけでやっぱ根には持ってんのか……。後が怖い……。

「それで、話の本題なのだけれど、一般的には仲の良い人達は名前で呼び合うじゃない。やはり私達もそうした方が良いのかしら?」

今まで仲の良い人とか出来た事が無いぼくに聞かれてもですね……。

けどまぁ、

「別に気にする必要ないだろ。お互いわかってりゃわざわざ演出する必要はないんじゃね」

よくリア充様は名前で呼び合うがあんなもん演出でしかない。

本物の友情はそのような演出など必要としないだろう。友達出来た事ないから知らないけど。

というか雪乃だなんて恥ずかしくて呼べないですし。あ、ゆきのんは論外な。

「そう……、そう、かしらね」

納得したのかしてないのか、雪ノ下は首を捻っている。

首を捻るって言葉、雪ノ下と組み合わせるとなんか猟奇的に聞こえる。どうでもいいか。どうでもいいな。

「そういや、由比ヶ浜の誕生日パーティー?してたときに名前で呼ぶってなったけど、結局うやむやになったよな」

「だから今その話をしているじゃない」

……え?
36: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:55:19.10 ID:gyeW6Fy20
………………。

っあぁー! そういうことですかー! 『私達』って雪ノ下と由比ヶ浜だけの事だったんですねー!

なにこの勘違いトーク。どこのアンジャッシュだよ! い、いや、ししし知ってたし! 勘違いなんてしてなかったし!

なんなら一人なったときに「うわあぁぁぁぁぁっ」て叫ぶまである。なにこれ超勘違いしてる。

「比企谷君とは、その演出とやらも遠慮したいわね」

取り乱している俺を見てその理由を悟ったのか、いやにイイ笑顔で追い打ちをかけてくる雪ノ下。こいつ性格悪すぎだろ……。

「私は始めから由比ヶ浜さんのことを話していたつもりだったのだけれど……。勘違いさせてしまったのならごめんなさいね」

「頼む、もうやめてくれ……」

「それと、これは言っておきたいのだけれど、人を弄んで喜ぶような趣味は持ち合わせていないからそれは勘違いしないでちょうだい」

……雪ノ下が言った事は本当だろう。こいつは人を弄んだりしない。ただ俺の傷を見つけては塩をすり込むだけだ。どっちにしろ性格悪い。

「まぁ、あなたの意見も参考にさせてもらうわ。どうもありがとう、比企谷君」

「……どういたしまして」

こうして日常的にトラウマは出来ていくものである。
37: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:57:22.85 ID:gyeW6Fy20
しかし呼び方か……。

せっかくだし想像してみよう。

雪ノ下が笑顔で『ヒッキー♪』。

対する俺も爽やかに『ゆきのん♪』。

………………………………なるほど。

確実に血を見るな。

俺は雪ノ下をそんなふうに呼ぶくらいなら死を選ぶし、雪ノ下は俺を殺すだろう。

なにそれどっちにしろ俺が死んじゃうのかよ。
38: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 01:59:54.12 ID:gyeW6Fy20

不毛かつ不愉快な想像をしていたら、部室のドアがガラッと開けられた。

「やっはろー」

頭の弱そうな挨拶をしたのはもちろん由比ヶ浜だ。

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

由比ヶ浜は挨拶を返した雪ノ下のもとに駆け寄ると、がばっと抱きつく。

「ゆきのん! 会いたかったよ~!」

「あまりくっつかないでくれるかしら……」

おい雪ノ下、そう言いながらも頬染めてんじゃねえよ。

「いや、会いたかったって土日挟んだだけだろ」

目の前で繰り広げられる百合百合な光景にぶっちゃけ引いた。

なにお前ら、そんなに会ってどうすんの? 会えないとふるえんの? どこ野カナ?

なもり先生どうにかして下さい。

「だって昨日二人で遊ぶ予定だったのに、サブレが調子崩しちゃって流れちゃったし……」

「大事には至らなかったのね」

「うん。なんか変な物食べただけっぽい」

「そう、それは良かったわ」

「でねでね、病院行ったら…………」

話し始める由比ヶ浜達を見て、俺は読書することにした。

由比ヶ浜が入部してからは一人と二人になるのが当たり前になっていた。

専ら俺は邪魔にならないようになるべく存在感を消している。ここでも俺の忍者スキルが有効に活用されているのだ。

忘れられているだけ、とも言う。
39: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 02:01:57.22 ID:gyeW6Fy20

忘れられて早数時間。

ひとしきりいちゃついて満足した由比ヶ浜は携帯を弄り、雪ノ下と俺は読書といういつもの光景に落ち着いている。

今日も今日とて誰も来ず、日も暮れかけたところで雪ノ下が本を閉じた。

いつもの合図を機に、銘銘が帰りの支度を始める。

「って忘れるとこだった!」

突然の由比ヶ浜の大声に驚いたのか、びくぅっと跳ねる雪ノ下。

ちょっと可愛い反応だったが、その後直ぐに睨んできたのでやっぱり可愛くなかった。っていうか何で俺?

「……いきなり大声を出さないでくれるかしら」

「ご、ごめん、ゆきのん。……でさ、ヒッキーさっきの話覚えてる?」

「んあ? ああ、夕食の食べ残しを喰ってお前んちの犬が病院送りになったことか? ほんと気をつけろよ。
ネギとかニンニクとかマジで死ぬからな。あと、お前の料理も」

「う、うん気をつける。……って最後が余計だ!」

「植物毒は基本的に体重に左右される上に、そもそも個体差があるから量を考えればニンニクは有効な食材らしいけれど」

「へぇー、そーなんだ。ゆきのんペットいないのによく知ってるね」

「……ちょっと知る機会があったのよ」

……猫だろうな。公園とかの野良猫に餌あげてそうだな、こいつ。

「さすがゆきのん、もの知りだね」

ほへーっと感心しきりの由比ヶ浜であった。
40: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 02:05:57.22 ID:gyeW6Fy20
「……じゃなくてっ!」

憤慨した様子でぶんぶんと鞄を持った手を振り回す由比ヶ浜。危ねえな。

「ヒッキーに話しあるって言ったじゃん! もしかして忘れてた!?」

「いや忘れてたのお前だろ」

俺はちゃんと覚えてた。むしろ今か今かとビクビクしながら待ち構えてたまである。

「覚えてたし! ちょっと言うのが遅れてただけだし!」

「一般的にはそれを忘れてたと言うのよ、由比ヶ浜さん」

「ゆきのんまで……」

雪ノ下に指摘されてしゅんとなる由比ヶ浜。飼い主とその犬っぽい。

「まあ、話ってなんだ?」

「う……。え、えっとさ、最近文化祭シーズンじゃん? 優美子達から面白そうな学校があるって聞いてさ……。
でさ、もしよかったら……一緒に行かない? あ、べ、別に深い意味は無いって言うかゆきのんもいるし二人でとかじゃなくて……」

先の廊下での時のように、またしても胸の前で合わせた指をいじいじし始める。後半になるにつれ声も小さくなっていった。

お前はあれか、外国人にいきなり道を聞かれたときの俺か。ちゃんと喋れちゃんと。

とにかく、文化祭のお誘いのようだ。こういう場合はどうするか。やることはひとつ。

そう、周囲の確認である。三浦達と話していたという事は今のは罰ゲームである可能性も否定しきれない。

骨の髄まで染みこんだ習性はもう条件反射レベル
41: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 02:09:07.57 ID:gyeW6Fy20
「あ、や、ヒッキー違うよ。罰ゲームとかじゃないから! そりゃ昔はまわりの空気というかやむをえずにというか……やったことはある、けど……さ」

「何を気持ち悪くキョロキョロしているのかと思えば、そんな心配をしていたのね。でも、あなたは今由比ヶ浜さんと話しているのでしょう?
ちゃんと目を見て……いえ、それはいいわ。由比ヶ浜さんが気の毒だもの」

「ねえお前罵倒とセットじゃなきゃ注意できないの?」

マックでもそんなセット販売してねえよ。チーズバーガーとご一緒に罵りの言葉はいかがですかぁー? なにこのドM仕様。

「まさか。比企谷君だけ、特別よ」

嬉しくねえ特別だな……。というかキラキラ笑顔で言うなよ、余計イラッとするわ。

「安心なさい、由比ヶ浜さんにそんな恥辱を味わわせる輩がいたら私が叩き潰しているわ」

そうですかーぼくと話すのは恥辱なんですかー。

「っておい、それ由比ヶ浜の事も馬鹿にしてないか?」

「してないわよ、由比ヶ浜さんの事は」

「その倒置法いらねぇから。わかってるから」

「そう。私もわかっているわ」

oh……この女……。

「ちょ、ちょーっとストーップ! 二人ともあたしを置いてけぼりにしないでよ! ……それで、ヒッキーどう? 行かない?」

正直俺もどうしたいのか分からん。今までなら念のため断っておくんだが……。

とりあえず、今の段階では『やだね』とか言ったらだめだろうか。

「ふむ、今の話、聞かせてもらったぞ!」
42: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 02:11:39.38 ID:gyeW6Fy20
ヒーロー漫画のサブキャラ的な発言と共に現れたのは平塚先生だった。そういやこの人俺が逃げてないか確認しに来るって言ってたな。

「比企谷、行きたまえ」

「出てきていきなり命令ですか!?」

「なに、そろそろ先の合宿と同様に別のコミュニティとの関わりを持ってもらおうと考えていたところだ」

「先方と何かツテでもあるんですか? 俺は行き先すら知らないですけど」

「そうだな、由比ヶ浜、どこに行くつもりなのかね?」

「あ、聖クロニカ学園ってとこですけど」

「なるほど、無いな」

「無いのかよ!」

「そもそも聞いたことすら無い」

あまりの適当さに思わずドン引いていると、先生は俺の方を向いて真剣な顔をする。

「いいか、比企谷。時には全く別の、それこそ人種が違うコミュニティと渡り合っていかねばならん時がある。前にも言ったように、うまくやる術を身につけてくるのだ。
このままではいつか、同じ目的を持ったもの同士の集いに参加した際に追い出されることになりかねんぞ。あそこには全く方向性の違う者しかいないからな」

「それって先生が参加して追い出された婚活パー

「俺の拳が真っ赤に燃えるぅ!」

「ごごごごめんなさい! 何でもないです!」

ゴッドフィンガーかよ自慢の拳じゃないのかよ。そういう痛々しい行動してるから結婚できないんじゃないだろうか。

「まったく、どうして比企谷は比企谷なんだろうな」

「それはもういいです」

なにはともあれ、文化祭に行くのは既に決定事項のようだ。

こうなっては今更俺がじたばたしたところでどうにもならない。なんなら始めからどうにもならない。

聖クロニカ学園か……。

なんとなく、残念な人達と残念なことが起きる、そんな予感がした。





つづく
43: ◆OFPPQdZV86[saga]2012/07/08(日) 02:14:40.45 ID:gyeW6Fy20
第二話、終了です。

なんかクロスものになりました。

つづきはそのうち。

それでは、また。
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2012/07/08(日) 07:30:29.34 ID:PGBFSIdO0


由比ヶ浜マジ天使。面白かった! 聖クロニカってなんだっけ? 
46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]2012/07/08(日) 16:49:21.10 ID:7tgz2aPAO
八幡の思考回路は夜空のそれに近いと思う
47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]2012/07/08(日) 20:02:39.12 ID:LiHnQ5d2o
>>46
それは思う
48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]2012/07/09(月) 01:42:48.12 ID:Aj6XuROz0
某きれいな八幡の作者です。

ひゃっほう! ようやく自分以外のはまちSSが出てきてくれた! 
ずっと待ってた!! 読みたかった!!
続き楽しみにしてます!!
49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]2012/07/09(月) 02:23:42.97 ID:pcGSPu3SO
キャラや地の文の再現率は高いと思います。
クロス展開がどうなるかwktk

同じぼっち小説とはいえ、ノリはだいぶ違うからなぁ… どっちも好きですが
50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]2012/07/09(月) 14:43:30.34 ID:AW708Pi90
やっぱはがない書くのかwww

期待してます

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