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History, Strategy, Ideology, and Nations

歴史家と脳の働き

2010年12月24日 | HISTORY (GENERAL)

 歴史家と言えば、どういうわけか老成したイメージを漂わせていることが多い。
 大体、若くして活躍している歴史家をあまり聞かないし、
 歴史に興味を持っている世代も、40代以降からようやく増えてくるといったところであろう。 
 最近、戦国武将の生き様に共感する「歴女」といった若い女性たちがいるらしいが、
 どうも見ている限りにおいて、
 彼女たちの関心は、歴史的教訓や解釈の面白さではなく、
 武将たちを偶像化することによって、一種のミーハー気分を満たしているように感じられる。
 ただし、それが悪いというつもりはない。
 なぜなら何事においても、最初の動機は案外、不純であることも珍しくないからである。
 
 歴史を叙述するには、幅広い知識が必要である。
 確かに、重箱の隅を突くような歴史研究も存在しているが、
 そうした研究でさえも、自らの歴史的解釈が持つ現代的意義を強調する場合には、
 自然科学の論文のように、事実をして語らしめるのは難しいだろう。
 つまり、「歴史は繰り返す」という言葉通りに、同じ出来事が再現されることはないにしても、
 過去の出来事から現代に何らかの意義をフィードバックさせるには、
 二つの時代に共有される「何か」について気づいていなければならない。
 そのためには、雑多に見える知識の蓄積から、
 時代を超えた相関性や類似性を発見する能力が必要になってくる。
 若くして大成した歴史家がなかなか登場しないのは、
 こうした能力が育まれるために一定の時間がかかるからであろう。

 先日、読んだ本によると、それはどうやら脳の働きと関係があるみたいである。
 
 池谷裕二・糸井重里
 『海馬 脳は疲れない』
 新潮文庫、2005年

 池谷氏は、脳科学を専門とする研究者で、
 糸井氏は、誰もが知っている有名なコピーライターである。
 本書の構成は、二人が対談形式を通じて、
 脳の機能にまつわる疑問や面白い知見などを紹介する形式となっており、
 非常に読みやすく書かれている。
 池谷氏によると、脳細胞は30歳頃までネットワークの再編成を繰り返しているため、
 突飛な発想や新しい概念などが生まれやすいらしい。
 理系の研究者には、非常に若い時分に優れたアイディアを提示して、業績を残した人が存在するが、
 もしかしたら、そうしたことと関係しているのかもしれない。
 一方、30歳以降は、その再編成が落ち着いて、
 以前に構築したネットワークを密にする時期になるらしい。
 その結果、一見、関係のないもの同士の間にある「つながり」を発見する能力が飛躍的に向上し、
 物事の推理力や洞察力が非常に高まるとのことである。
 
 ちなみに、脳には「側坐核」と呼ばれる部分があり、
 そこの神経細胞が刺激されると、次第にやる気が起きるようになるとされている。
 つまり、「やる気が起きない」ことを理由にして、なかなか仕事に手を付けなかったりするけれども、
 それではいつまで経っても「側坐核」が刺激されないため、半永久的にやる気は起きないのである。
 結局、「やる気がなくても、やりはじめるしかない」わけで、
 やっているうちに「側坐核」が刺激され、自己興奮を引き起こして集中力が高まり、
 気分も乗ってくるということである。
 ものぐさは単なる言い訳にしかならないということですな。反省。