最近の専らのマイブームは話術を磨くことだ。
友人や知人との会話というのは楽しいことは楽しいが、似たような話題の繰り返しだったりして新鮮味が徐々に薄れてくる。また何を言えばその相手がどのように反応するのかというのもある程度予測がつくので、あまり緊張感というものがない。
やっぱり刺激が欲しい。
どこかにトークの腕を上げながら、かつ手解きをしてくれる場所でもないだろうか。
そこで目をつけたのがタクシーだ。タクシードライバーというのは職業柄、毎日様々な人間としばらくの間、同じ時を過ごさねばならない。その限られた密室の中でいかに相手の気分を害することなくトークを盛り上げなければいけない。そんな状況の中で日々の仕事をこなす彼らからレクチャーを受ければ、僕はひょっとして東京一のトークマスターになれるのではないか。そう思ったのである。
今日渋谷から杉並の自宅まで僕を乗せてくれたタクシーの運転手は、まさに僕の期待していた通りのそれだった。
発車直後に僕の口を突いて出た「何か面白い話ないですか?」という突然のフリに対しても「あ、今日地震ありましたよね」とすかさず切り込んでくる。普通の人だったら話題を探してあたふたしてしまうところを慌てることなくスッと反応するあたりはさすがプロだ。「あれねぇ、津波の高さってどうやって測るんでしょうねぇ。普通の波と区別つきませんよねぇ」。
テールライトの並ぶ甲州街道を流れるように走る車内でも話題は尽きることがない。
あまりの感動に僕は運転手さんからしばらくタクシートークの掟についていろいろ聞き出すことにした。
まずタクシーの車内で絶対にしてはいけないのが野球と政治の話。これは応援するチームや、支持する政党が違うと客に不快感を与えてしまうということでタブーらしい。やはり一番無難なのは「最近寒いですね」みたいな気候の話らしい。まぁ普通に考えてこれで気分を悪くする客はほとんどいないだろう。
それから酔っ払った客にはこちらからは絶対に話かけてはいけないそうだ。気分がよくなっている時はいいが、機嫌の悪い時にタイミング悪く話しかけるとトラブルの原因になって、最悪の場合、会社側にクレームがつけられてしまうのだそうだ。それがあまりに多くなるとタクシー会社の所有する台数が減らされるなどの処分があり、仲間にも迷惑をかけてしまうことになるので、そのあたりは気をつけなければいけないらしい。
その運転手は見た目はかなりおっかないが、聞けば大体の事は教えてくれた。
タクシー1台につき3人のドライバーでローテーションを組んで営業していることや、一日につき平均350kmを走ること。普段は渋谷から六本木、赤坂周辺を流していて、土地柄、タレントや有名人を乗せることも多いそうだ。先日もウエンツ瑛士を乗せたと言っていた。
また、客のタイプについてもいろいろ話してくれた。
ひたすらにトークを盛り上げようとする僕に気をつかってのことだとは思うが、やっぱりしゃべる客のほうが運転していて楽らしい。話かけても無視されることも実際多いらしく、そういう客を乗せているときは時間が経つのが非常に遅く感じるそうだ。また、酔って後部座席で寝ている客も、到着時に身体を触ってはいけないというルールがあるらしく、ひたすら呼びかけなければいけない。そのあたりはつらいところだと言っていた。
中でも一番困る客は無賃乗車の客だそうだ。大体の客は精算の際、財布の中身が足りないと荷物を車内に残してお金を取りに行くそうなのだが、極稀にそのままトンヅラする客がいるのだそうだ。先週も道玄坂でやられたと言っていた。かと言って、自分の職業はあくまでサービス業だから引き止めることができない。そこも苦しいところだそうだ。
まぁそんなこんなでしばらく走っていると僕はあることに気付いた。
最近はカーナビをつけているタクシーが多いが、そのタクシーにはカーナビがついていない。そのあたりのことも聞いてみた。するとその運転手は一言。
「自分で道を覚えなくなるでしょ?」
カッコいい…。
タクシーの運転手になってから日が浅いので道を完全には把握できていないそうなのだが、カーナビをつけるのは乗ってる客に対して失礼。そして何より、自分の向上心を保つためにもカーナビは頑としてつけないのだそうだ。このあたりにドライバー魂を感じる。
結局、我が家まで運賃3460円のところを「今日は何だかいい気分にさせてもらっちゃったな」ということで3000円ジャストにマケてくれた。
タクシーの世界を少し知ったことと、トークマスターに一歩近づいた自分が嬉しかった。
友人や知人との会話というのは楽しいことは楽しいが、似たような話題の繰り返しだったりして新鮮味が徐々に薄れてくる。また何を言えばその相手がどのように反応するのかというのもある程度予測がつくので、あまり緊張感というものがない。
やっぱり刺激が欲しい。
どこかにトークの腕を上げながら、かつ手解きをしてくれる場所でもないだろうか。
そこで目をつけたのがタクシーだ。タクシードライバーというのは職業柄、毎日様々な人間としばらくの間、同じ時を過ごさねばならない。その限られた密室の中でいかに相手の気分を害することなくトークを盛り上げなければいけない。そんな状況の中で日々の仕事をこなす彼らからレクチャーを受ければ、僕はひょっとして東京一のトークマスターになれるのではないか。そう思ったのである。
今日渋谷から杉並の自宅まで僕を乗せてくれたタクシーの運転手は、まさに僕の期待していた通りのそれだった。
発車直後に僕の口を突いて出た「何か面白い話ないですか?」という突然のフリに対しても「あ、今日地震ありましたよね」とすかさず切り込んでくる。普通の人だったら話題を探してあたふたしてしまうところを慌てることなくスッと反応するあたりはさすがプロだ。「あれねぇ、津波の高さってどうやって測るんでしょうねぇ。普通の波と区別つきませんよねぇ」。
テールライトの並ぶ甲州街道を流れるように走る車内でも話題は尽きることがない。
あまりの感動に僕は運転手さんからしばらくタクシートークの掟についていろいろ聞き出すことにした。
まずタクシーの車内で絶対にしてはいけないのが野球と政治の話。これは応援するチームや、支持する政党が違うと客に不快感を与えてしまうということでタブーらしい。やはり一番無難なのは「最近寒いですね」みたいな気候の話らしい。まぁ普通に考えてこれで気分を悪くする客はほとんどいないだろう。
それから酔っ払った客にはこちらからは絶対に話かけてはいけないそうだ。気分がよくなっている時はいいが、機嫌の悪い時にタイミング悪く話しかけるとトラブルの原因になって、最悪の場合、会社側にクレームがつけられてしまうのだそうだ。それがあまりに多くなるとタクシー会社の所有する台数が減らされるなどの処分があり、仲間にも迷惑をかけてしまうことになるので、そのあたりは気をつけなければいけないらしい。
その運転手は見た目はかなりおっかないが、聞けば大体の事は教えてくれた。
タクシー1台につき3人のドライバーでローテーションを組んで営業していることや、一日につき平均350kmを走ること。普段は渋谷から六本木、赤坂周辺を流していて、土地柄、タレントや有名人を乗せることも多いそうだ。先日もウエンツ瑛士を乗せたと言っていた。
また、客のタイプについてもいろいろ話してくれた。
ひたすらにトークを盛り上げようとする僕に気をつかってのことだとは思うが、やっぱりしゃべる客のほうが運転していて楽らしい。話かけても無視されることも実際多いらしく、そういう客を乗せているときは時間が経つのが非常に遅く感じるそうだ。また、酔って後部座席で寝ている客も、到着時に身体を触ってはいけないというルールがあるらしく、ひたすら呼びかけなければいけない。そのあたりはつらいところだと言っていた。
中でも一番困る客は無賃乗車の客だそうだ。大体の客は精算の際、財布の中身が足りないと荷物を車内に残してお金を取りに行くそうなのだが、極稀にそのままトンヅラする客がいるのだそうだ。先週も道玄坂でやられたと言っていた。かと言って、自分の職業はあくまでサービス業だから引き止めることができない。そこも苦しいところだそうだ。
まぁそんなこんなでしばらく走っていると僕はあることに気付いた。
最近はカーナビをつけているタクシーが多いが、そのタクシーにはカーナビがついていない。そのあたりのことも聞いてみた。するとその運転手は一言。
「自分で道を覚えなくなるでしょ?」
カッコいい…。
タクシーの運転手になってから日が浅いので道を完全には把握できていないそうなのだが、カーナビをつけるのは乗ってる客に対して失礼。そして何より、自分の向上心を保つためにもカーナビは頑としてつけないのだそうだ。このあたりにドライバー魂を感じる。
結局、我が家まで運賃3460円のところを「今日は何だかいい気分にさせてもらっちゃったな」ということで3000円ジャストにマケてくれた。
タクシーの世界を少し知ったことと、トークマスターに一歩近づいた自分が嬉しかった。
タクシーの中で話をするのはワタシも好きだなぁ。
先日も運ちゃんが競馬をすると聞いたので、ハイセイコーやテンポイントの話を振ると「姉ちゃんよぅ知ってるね~」って喜んでいた。
なにはともあれ話術磨き、がんばってください。