ひさしぶりに車で早朝の道を走る。山の稜線が妙にくっきりしていたり、いつのまにか高架が伸びていたり、連日うだるような暑さなのに雲が秋のようだったり、手の届きそうなところに海が光っていたり、やたら人がジョギングしてたり、犬同士に話をさせてる人たちがいたり…ぜんぶ、非現実的な風景に見える。長いこと家にこもりすぎていたせい。
それと、この映像を見たせいだ。
フジ・ロックでAtoms For Peace の後に大トリで演奏したマッシヴ・アタックの、アンコールの1曲目の題名が<Splitting The Atom>だと後から知った時、あ、またAtom だ…と苦笑いした。そしてビデオクリップを見て背筋がヒヤリ。
こんな映像付きの曲を、あの夜、雨に打たれながら聴いていたのか。
Massive Attack - Splitting The Atom (Official Video)
原子爆弾で一瞬にして破壊され、時間の止まった世界。
撮ったのはエドゥアール・サリエというフランスの映像作家。十代の頃からマッシヴ・アタックには影響を受けたそうで、自分の映像世界との親近性も語っている(ここの英語記事。日本語ならここを)。
サリエ自身による映像の解説は次のとおり:
The fixed moment of the catastrophe. The instant the atom bursts on the beast, the world freezes into a vitrified chaos. And we go through the slick and glistening disaster of a humanity in distress. Man or beast? The responsibility of this chaos is still to be determined. — Edouard Salier on “Splitting the Atom”
動きを止めた破局の時。原子がケモノの上で炸裂する瞬間、世界はガラスのように融け混沌となって凍りつく。そして我々は人類を襲ったツルツルでピカピカの災厄の中を通り抜けていく。ヒトかケモノか?この混沌の責任の決着はまだついていない。
ーエドゥアール・サリエ
英語の歌詞はここを。和訳も検索すればあります。暗鬱な曲の最後に繰り返される謎めいた言葉:
♪The last of the last particles 最後の粒子のいちばん最後
Divisible invisible 可分の不可視のもの
は、Divisible(可分) + Invisible(不可視)=Indivisible(不可分のもの)=Atom
の言葉遊びだろうか。
エドゥアール・サリエのHP http://www.edouardsalier.com/に行くと、CMを含め他の映像作品も見られる。そこにはないけど、わたしは短編映画の「Flesh」(肉体、肉欲)を観てショックを受けた。 9.11が題材。勇気のある人は、YouTubeに行って見てください(ここ)。サリエの英語による説明文付き。(8/30 追記:この説明文は、映画の途中に出てくるフランス語文の英訳でした。)
これを見た後だと、現実の平和な風景のほうが非現実的に見える。
ということで、8月のアトムシリーズおわり。
蛇足追加。フジロックのマッシヴ・アタックのアンコールの前の曲は、これ。日本語の驚きのメッセージ群が出てきます。
Massive Attack - "11.Inertia Creeps" (August 01,2010 Fuji Rock Fes.)
さらにひとつ前の<Safe From Harm>も、ステージ上は主に自由に関する政治的メッセージの洪水で、そのこと自体は2003年のフジロックでもすでにやっていて珍しくもないらしいけど、ちょっと度肝を抜かれた。
でも<Splitting The Atom>の時は、何も文字が出なくてよかった。
蛇足2: イギリスで総選挙のあった5月6日、トム・ヨークがレディオヘッドの公式HPに時々アップしているお勧め曲のリストに、<Splitting The Atom>を載せたので、YouTubeのこの曲のコメント欄には、「トムに言われて来た」式のコメントがたくさん。