冬桃ブログ

女と男の間には

 なにが問題なのかよくわからなくて
この人たち、こんなにとんちんかんな
言葉ばかり発してるんだろうなあ……。
 セクハラ騒動のエリートさん達を見ていると
そう思わずにはいられない。

 なんだよ! みんなやってたじゃないか、これくらい!
 言われた女のほうだって、嬉しそうに笑ってたじゃないか。
 なのになんで、いまになって俺だけがこんな目に!
 
 追及される側の男性は、内心でそう叫んでいるかも。

 笑顔の裏に、女性たちがどれほどの怒りや恐怖、嫌悪を
押し隠していたか、隠すしかなかったか、まったく
考えが及ばないのだろう。

 忘れられない出来事がある。
 あれは「ちょんのま街」だった黄金町が
バイバイ作戦によってアートの町へと舵を切った頃。
 あそこで働いていた女性は外国人、ことに
タイ人が多かったと聞いた。
 私はタイから日本に出稼ぎに来たことのある女性たちを
タイのチェンマイやチェンライで取材したことがある。
 日本人の男とタイ人女性との間にできた子供たちの
養護施設へも行った。
 過酷な管理売春が行われていたこと、こういう仕事で
他国へ出稼ぎに行かざるを得なかった事情もそこで知った。

 だから気になった。売春は黄金町から一掃されたが、
そこで働いていた女性たちはどうなったのか。
 あとのフォローは考えられていたのか。
 昔、日本に公娼という制度があり、政府公認で人身売買が
行われていた頃、外国からの批判を受け、何度か売春禁止令が出た。
 娼妓達の借金も棒引きになった。が、自由になっても
女たちには働き口がない。結局、「私娼」として、
公娼よりもある意味、過酷な立場に身を置くしかなかった。

 それで、バイバイ作戦の中心におられた方たちに、
ここから追い出された女性達の身の振り方(強制送還も
あるだろうが)を何か考慮しておられるかを尋ねた。
 「いえ、そこまでは考えていません」と、あっさりした答えだった。
 要するに、ここから売春窟がなくなってほしいのだと。

 なんとなく釈然としなかった中で、ある男性を紹介された。
 いまをときめく週刊誌の、デスクまで経験した人だという。
 その人から食事に誘われたので、喜んでご一緒させていただいた。
 断っておくが、そこで私へのセクハラがあったという話ではない。
 私はもう、もうそんなことを心配しなくてもいい年齢、立場だったから。

 いま思えば、この方は私とどんな会話がしたかったのかわからない。
 私の方は過去、現在の売春事情など、いっぱい資料を
読んでいたので、浄化作戦やタイ人女性たちの立場について
マスコミの最前線にいた人から意見を聴きたかった。

 で、話が戦時中、兵士たちの慰安のため、戦地に駆り出された
女性たちのことに及んだ。
 「一日に何十人もの男を相手にしなければならなかった
ケースもあるんですよ。女性の体はどうなると思います?」
 私の声は義憤にかられていたと思う。

 すると彼は一瞬置いて、真顔で答えた。

「そりゃまあ、いちいちイってたらねぇ」

 なに? この人、いまなにを言った?
 わけがわからず、私はぽかんとして相手の顔を見返した。
 けれども二秒、三秒と続く沈黙の間に、私の顔は
みるみる青ざめ、ゆがんでいったのではないかと思う。

 なにかまずいことを言ったらしいと、向こうも気づいたようだ。
 避けるように視線を落とし、ぎごちなくナイフやフォークを動かす。

 会話はそのまま終わった。もはや話すことはない。
 どうでもいい会話をぽつりぽつりと交わしただけで食事は終わり、
二度と会うことはなかった。

 極端な例かもしれない。
 しかしこのたび、野党と質疑応答をするために
居並んだ財務省の男性たちをテレビで観ながら、
また別のシーンを思い出した。
 いまを去ること20年くらい前、戦後の混乱期に生まれた
GIベイビーと呼ばれる混血児たちのことで、
市役所の某課へ、私は取材に行った。
 私が来ることは、そもそも拒まれていた。
 そこを半ば強引に行ったものだから、たかが女一人に対して
六人もの背広男性たちが、硬い顔つきで待ち受けていた。
 そして「証拠がない」「わからない」「書類が残っていない」
を無表情で繰り返し、挙句の果てに「そんな暗い歴史を
表に出したところで、誰も喜びませんよ」と決めつけた。

 韓国の慰安婦問題でも、男性たちの議論を観ていると、
軍が関与したとかしないとか、間違った新聞報道が出たせいだとか、
女たちはこんなにお金を取っていたのだから、文句を言うことは
ないじゃないか、という話が多くて、女の私はいつも違和感を覚える。
 もちろん、国家間の問題になっているのだから、それも大事だろう。
 でも、肝心の慰安婦がどんな状況に置かれ、どれほど搾取されていたか、
私にはそっちのほうがいつも気になる。 

 ともあれ、女性がらみの問題に、男ばかり居並んで
答弁するのは、なんだかおかしくないだろうか。
 私には異様な光景に思えてならない。

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