のびのびのぶログ

水彩画や好きな音楽について語ります。なんでも伸び伸びと書いていきます。でも忙しくて更新が延び延びになるかも。

西の谷の物語 第一話 第二話

2017年06月07日 01時45分31秒 | 日記

 我が家の庭の4本の木を眺めていたらこんなお話が浮かんできました。実際には、檜はゴールドクレスト、ハナミズキは山法師、クスノキは、モッコクの木です。4本の木のお話はこれからどうなるのでしょう。

西の谷の物語

第一話




 昔、西の谷という小さな集落がありました。その谷で人と植物たちは、互いに敬意を示しながらのどかに暮らしておりました。
 その中に4本の木がありました。
 1本目の木、檜は、すくすくと育ち、どの木もうらやむ立派な大木になりました。
 2本目のハナミズキの木は、枝葉をいっぱい広げ、太陽の祝福を受けて育ちました。そして、毎年可憐な白い花を咲かせ、人々を虜にしました。
 3本目の木、クスノキは、どっしりと立ちほかの3本の木のよき理解者でした。
 しかし、4本目の木、忍冬(すいかずら)は、なかなか成長しません。ひ弱なつるを伸ばしては、周囲の木に絡みつきながら育ちました。



 ある日のことです。
 都から大臣が村にやって来ました。都と町を結ぶ道路を作るために谷に橋を架けるというのです。
 これが出来れば、今まで遠回りをしていた人々の苦労が一気に解消されます。人々は喜びました。村人の喜ぶ顔を見て木たちも喜びました。
 でも、浮かない顔をしている木がありました。檜です。橋が檜の真上を通るからです。ハナミズキは、「どうしたの。みんなが喜んでいるんだよ。」と話しかけました。でも、檜の顔は冴えないままです。ハナミズキは知っていました。今までまっすぐに伸びてきた檜がおもしろくないのを。ちょっと自分を曲げれば橋をかすめて伸び続けることは出来るのに。ハナミズキはそう思いましたが、檜の気持ちも考えると、言葉をかけるのをためらいました。
 その様子を忍冬(すいかずら)が見ていました。忍冬は思いました。自分は生まれつきひ弱で木のみんなから馬鹿にされてきた。檜のように空に向かって大きく育つことも出来ないし、ハナミズキのように美しい花で人々を魅了することも出来ない。でも、太陽の光をいっぱい浴びて自分の思う方向に伸びていけば、いつか自分にも振り向いてくれる人々がいるはずだ。忍冬は2本の木を見上げながらそう思いました。

 月日が流れました。橋が完成しました。あれほど我を張っていた檜は自分の伸びる方向をちょこっと変えてすくすく育っています。
 ハナミズキは、今年も綺麗な花を咲かせて人々を魅了しています。
 クスノキは、優しくみんなを見守っています。
 一方、忍冬は、時々邪魔扱いされながらも、暑い夏も寒い冬も耐え忍びました。そして小さな花を咲かせました。人々が気がつかないような小さな花でした。すいかずらのつるは、リースになって人々の部屋を飾りました。
 そして、ひ弱だったつるは、いつしか堅い木になっていました。
 4本の木にまた笑顔が戻りました。




第二話



 月日が流れました。4本の木は、どうしているのでしょう。

 4本の木のある西の谷にある噂が流れました。あの男がやって来るというのです。
 あの男とは、東の谷の木こりです。この木こりは気に入らない木があると片っ端から切り倒してしまう木こりで、木たちから恐れられていました。
 「おい、聞いたかよ。とうとうこの谷にあの男がやってくるらしいぞ。」
 「何でも、東の谷では、ずいぶん仲間の木が切り倒されたそうじゃないか。」
 「あいつに睨まれたら最後、皆切り倒されてしまうらしいぞ。」
みんな口々に噂をしました。

 そしてしばらくたった曇りの日、とうとうあの男がやってきました。男は大きな声で笑っては、大きな目玉で木たちをじろっと睨めつけました。
 木たちは怯えました。身を潜めるように立ち、あの男がこの谷を去って行くのを待ちました。



 ある日のことです。あの男が忍冬(スイカズラ)の前で立ち止まりました。
「この木はずいぶん元気が無いのう。」
 忍冬は、前年の冬、突然の豪雪で大事な幹の一部を雪の重さで折ってしまっていたのです。
 「働きの悪い木じゃのう。こんな元気の無い木は、何の役にも立たない。俺様が切り倒してやる。ガッハハ。」
 木こりが大きな斧を振り上げ、「おりゃ~」と振り落とそうとしたその時です。
 「待って!」
 檜がそれはそれは大きな声で、ハナミズキは自分の枝と葉を精一杯伸ばして木こりの目を塞ぎながら木こりが忍冬を切り倒すのを止めました。
 「何をする!」
 「どうせ枯れてしまう役立たずの木、こんな木は切ってやるんだ。」
木こりはさらに斧を振り上げようとしました。
 「役立たずなんかじゃ無いわ。忍冬の丈夫なつるは、橋を作るときに役立ったわ。それに」
 「それに?」
 「それに、忍冬の花の蜜は人々の心を和ましてくれたわ。」
 木こりは、かろうじて咲いている花をとり、口に運びました。甘い香りが身体を包みました。すると不思議と心が落ち着いてゆきました。

 「これから私たちが、忍冬を元の元気な姿に戻すわ。だから今日切り倒すのはやめてちょうだい。お願い。」
 「面白い!おまえたちがそう言うのなら今日切り倒すのはやめよう。だがもし、元気にならず、役立たずのままなら、おまえたちもどうなるかわからんぞ!ガッハッハ」
 そう言って木こりは4本の木を大きな目でじろっと睨めつけ、行ってしまいました。
 「みんな、あなたの見方よ。」
クスノキが言いました。
「ありがとう」忍冬はお礼を言いました。西の谷のみんなが自分を応援してくれている事が嬉しくてたまりませんでした。

 それから暑い日にはハナミズキの青々と茂った葉で強い日差しを防ぎ、冬の寒い日には檜の大きな身体で寒風を防ぎました。クスノキは優しく折れた幹をいたわりました。忍冬は元気を取り戻してゆきました。



 あれ以来あの男はスイカズラの元に来ることはありませんでした。谷のみんなが忍冬をを守ってくれたのです。
 
 これは、私が1年前に作り、下書き保存していた
短編をもう一度再構成、加筆したものです。


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