帰ってくると一気に疲労が。
相手がいろいろな意味で追いつめられている、という情報はイヤでも入ってくるわけで、そういう事情はこちらは全然関係ないのだけれど、やりづらい気分にさせられるのはどうしようもなかった。
試合開始前から、ホームゴール裏は歌声が止まらず、その圧迫感はすさまじかった。大宮サポはそういう声を振り払おうと声を絞った。いや、サポの人々はそういうつもりではなくて、純粋に大宮への声援のために声をからしていたのだろうけれども、僕にとっては、FC東京側からの悲壮感さえ漂う声を遮ってくれるために響いていた。
トゥットがどうしてPKをもらえたのか、全然わからなかった。遅れてきたYさんをゲートへ迎えにいっているうちに同点にされ、その後ちょこっとトニーニョが見送った選手に逆転ゴールを決められた。今日のDFはお見合いをしてしまったりなど、凡ミスが目立った気がする。きっと相当疲れていたんだろう。
疲れているのは相手も同じ、だとしても、僕の眼には、FC東京の選手は精神的ドーピングをしているとしか思えないような動きだった。なんであんなに走って、あんなに足が届いて、ボールをカット出来るのか。絶望的に押し込まれた横浜FM戦が比でない程、がんがんにやられた。とにかく前線にまったくボールが届かない。ぜんぶとられる。そんな感じに見えた。
相手の3点目、PKになったのもよく解らなかったけれど、ルーカス(と思われる)選手が、仲間の選手に飛びついて喜んでいたので、「ああPKなんだな」と思った。これでこの試合は終わったな、とふてくされた。
でも大宮は諦めない。何としても諦めない。PKの2分後に、主税のコーナーからトニがピッチにへばりこむようにしてヘッドを決めた。畜生なんて素敵なチームなんだ。もうこんなクソ野郎の僕をぶっ飛ばしてくれ。そんな気分だった。FC東京の選手が2点差で油断したからだとか、そんなことはどうでもいい。決めてくれたことが僕にとって全てだ。
それでもアホな僕は、「まあ1点差負けで終わりかな」と思ってみていた。すぐ隣でサポの人々が跳んではねて叫んでいても、僕は座り込んで足を組んで斜めに見ていた。時間はもう全然なかったし、新潟、東京Vと、3-2で負けた試合が思い出されて、まあよくやったんじゃないの、なんてすっとぼけた感想さえ抱いていた。
FC東京は時間稼ぎをしているようで、また攻め込んでいったり、ちょっと不思議な動きをしていた。大宮だったら、コーナー付近で森田がボールをこねくり回して時間を使うのがルールだ。
そんなとき、ふとした弾みで、トゥットがカウンター気味にフリーで真ん中を突っ走ってきた。「えっ!?」と腰が浮いた。でもどうせ止められる、いやどうかな、だめだ期待するな、一瞬でいろいろな感覚が渦巻いた。トゥットのボールは森田に届いた。ボールがふわっと浮いて、目の前のネットが揺れた。
次の瞬間揺れたのはゴール裏だった。今まで来た試合の中で、一番沸騰した時間だった。もしかしたら、去年第4クールの鳥栖戦の時のゴール裏もこんなだったのだろうか。その時も森田だった。ロスタイムの帝王が、またやった。
ピッチは遠いはずなのに、トゥットの歓喜の表情が、なぜがすごくはっきりと見えた。森田のガッツポーズにふるえが止まらなくなった。
しかし、僕の視界には同時にピッチに倒れ込み顔を覆うFC東京の選手も見えていた。彼等も本当に、ぎりぎりのところで戦っていたんだ。
残された時間は殆どなかった。時間稼ぎをしなければ、という心配さえ起こらなかった。そしてその通りに試合は終わり、アウェイゴール裏はまるで勝ったような騒ぎになった。
一方、大宮の選手が去った後に見えたホームゴール裏には、FC東京の選手・スタッフが大勢で歩いているのが見えた。胸が騒いだが、僕には何も言えないし出来ないことだった。
帰ってきてFC東京のサポの人達のサイトを見たが、選手達は全員泣いていたそうだ。僕はまだ、そんな苦しい思いを抱かずに選手に向かうことが出来ている。それは幸せな事なのだろう。
懸念されていた、
原監督の解任はとりあえずないようだ。FC東京としても、とにかく連敗はとまったことになる。この先も厳しいのだろうけれども、それでも試合は来てしまう。
頑張って、などと、大宮アルディージャを応援する者が言うのは調子に乗りすぎだった。こちらは鉄板降格候補、あちらはタイトルホルダーだ。序盤の成績に多少の差があるとしても、次の11試合で立場が逆転している可能性なんて、考えたくない程にあるだろう。
自宅に戻って一息つくと、劇的な試合で心も震えた、とはいえ、この試合で得た勝ち点は「1」であるというのが現実だ。贅沢であろうとうぬぼれであろうと、今年の大宮は少しでも早く、少しでも多くの勝ち点が必要なんだ。
連戦は終わった。
みんな本当にお疲れ様。