遊行吟遊

短詩型作品等

ネクラ賛歌

2010-11-18 16:27:26 | 詩・短詩
若者たちの間で 静かに流行している「お化粧」は
顔だけでなく 脛毛の脱毛にまで及ぶという。
エスセティックサロンに通う というのも
なんとなく 憎めない愛嬌がある。
八百屋の果物や野菜だって 外見が第一だから
人間だって 見かけ第一と思ったとしても
無理はない。

しかし「苦悩や悲哀なんて ネクラなダサイこと
人間は とにかく ネアカで明るくなくちゃ」
と言われると
自尊心が傷つけられた訳でもないのに
わたしはぶつぶつ 泡だってくる。

自分自身を商品化してしまっている自分に 
気付けない 若者たち
文明に汚染されてしまった 若者たち
物質の充足に 心を腐らせてしまった若者たち。

ソクラテスよ、今こそ人類に向かって 訴えよ
「汝自身を知れ」
「身の程を弁えよ」
「私は 人間の可能性の追求と同様
畏怖の念についても説いている筈だ」。

若者たちよ 認識せよ
利便と効率の追求には限界があることを。
翼をつけたイカロスは 傲慢にも
太陽にまで近づこうとして
おのれの命まで落としてしまったではないか。

今夜も 妻に捨てられた男が
カラオケと酒に酔い、
妻は妻で家庭を守る役目は引き合わないと
夫を捨て
息子は息子でディスコで踊り
ドライヴウェイを暴走し
家族はみんな 一様に
ネアカ志向の走光動物。

ひとり ひとり 心の中は
こんなに深く 病んでいるというのに。
                        (1989)





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