遊行吟遊

短詩型作品等

四季

2011-03-22 16:50:16 | 俳句・短歌
    春夕焼

白壁の 少年になる春夕焼
   
竹群の 障子に揺るる春夕焼
 
背抱きして 河眺めゐる春夕焼

まだ机に 残されたままバレンタインチョコ

芽柳より 春忍び寄る河原かな

    
    夏ドライブ

炎天下 雲の速さでドライブす

対向車 入道雲を映しけり

車過ぐ くるめき騒ぐ夏の草

夏草や かつては城のありし山

幾たびも 噴水の空に翔ばんとす


    秋 月

落ちそうで 満月の位置確かなり

鉄塔に 月入るまで近寄りぬ

秋一日 句碑に身寄りの集ひけり

 
    冬景色

山の木で 冬日の速さ知りにけり

この駅に 雪を冠りて汽車の入る

班雪山 川では水菜洗ひをり
 
雪の原 烏おのれを怖れざり









       

憧れ

2011-03-09 20:20:39 | 詩・短詩
届かぬものへの憧れは
すぐに捨ててしまわずに
心の中の奥深く
そっとしまって置きなさい

届かぬものへの憧れは
心の中の奥深く
そっと収めて待ちなさい
思いを凝らして待ちなさい

届かぬことは辛いけど
届いてしまうことよりは
ずっとはるかに美しい
それが一番大事だと
そのうちいつかわかるでしょう

憧れる魂だけは
諦めず
そっと沈めて置きなさい
思いを凝らして待ちなさい

                  (1966)

大晦日の蛾

2011-03-09 16:23:02 | 詩・短詩
久しぶりに帰省した生家の部屋で
大晦日の夜
寝室の電気スタンドの薄暗いルームライトの元
一匹の蛾が 羽ばたいていた。

時もあろうに 冬の師走のこの日まで
どこで どうやって生き延びて来れたのか
しかも 雨戸も締め切られたこの家の
一体どこから侵入して来たのか。

それにしても 
光を求めて あの夏の暑い陽射しから
光の衰えていく季節の中を生き永らえ
その末にやっと ありつけたのが
この 僅か15燭光の灯かりだったとは。

かかった時の長さに比較したら
薄倖としか言いようのない
ささやかな
あまりにもささやかな光にも
蛾は 無邪気にも 
ほら こんなに 喜びに翅を震わせている。

蛾よ 慎ましい蛾よ。さあ、死んでいくがよい
それが お前に定められた本来の姿なのだから
歓びにに満ちて 死んでいくがよい
そんなお前を 私は讃えよう。

明日は 新年。

                       (1965)