遊行吟遊

短詩型作品等

病臥六首

2011-05-15 21:14:53 | 俳句・短歌
医師の手に
わが身をゆだね 見つめをり
己が心電の 動きゆく図を

点滴を
終ゆればあとは静臥のみ
長き時間よ 夜から朝へ

寝ねがての
夜の長きを めぐりをり
古き近しき人のことども

病室の 
寝ねがての夜のイヤフォンに
囁くごとき「敦盛の笛」

亡き父の
切り抜きくれし歌壇なり
五年経し今 病床に読む  

時いつか 夏とぞなりぬ
退院を 光眩しき
外面に向かふ

冬の旅七首

2011-05-15 21:14:53 | 俳句・短歌
波頭 砕けゆく筋 夕闇に
白き線なし
走りて 消ゆる

雨ならず
川音なりと 気づきたり
ひとり寝し 湯の宿の目覚めに

木枯らしは
寒き月夜を すさぶらし
湯に身を沈め 目閉じてそを聞く

テーブルを囲むひとなく
ただひとり
鍋焼き頼む 店の片隅

別れ来て 
今またわれに友はなし
星の凍れる夜道を歩む

夜の汽車は
見知らぬ街を突き抜ける
愛 意識せぬ 若者に似て

海沿いの
街突き抜ける夜行列車
走れ 走れ 愛など要らぬ   

              (1965)