遊行吟遊

短詩型作品等

大晦日の蛾

2011-03-09 16:23:02 | 詩・短詩
久しぶりに帰省した生家の部屋で
大晦日の夜
寝室の電気スタンドの薄暗いルームライトの元
一匹の蛾が 羽ばたいていた。

時もあろうに 冬の師走のこの日まで
どこで どうやって生き延びて来れたのか
しかも 雨戸も締め切られたこの家の
一体どこから侵入して来たのか。

それにしても 
光を求めて あの夏の暑い陽射しから
光の衰えていく季節の中を生き永らえ
その末にやっと ありつけたのが
この 僅か15燭光の灯かりだったとは。

かかった時の長さに比較したら
薄倖としか言いようのない
ささやかな
あまりにもささやかな光にも
蛾は 無邪気にも 
ほら こんなに 喜びに翅を震わせている。

蛾よ 慎ましい蛾よ。さあ、死んでいくがよい
それが お前に定められた本来の姿なのだから
歓びにに満ちて 死んでいくがよい
そんなお前を 私は讃えよう。

明日は 新年。

                       (1965)



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