夏きにけらし
女の子は幼稚園でひらがなの勉強でもしたのだろうか
得意げに目に入ってくる文字を読む。
『ちんげ』
スーパーマーケットの野菜売り場
ちんげん菜の
涙がキラリ。
白露山。
ロシア出身の幕内力士。
角界には昔から実力ではなく
まげが結えなくなって引退するんじゃないかというドキドキ感を
ファンに与えてくれる力士がわりと常にいた。
琴稲妻とか、大至とかね。
だが結局彼等はなんだかんだいって、それよりも年齢による力の衰えで引退をしていったので
『まげが結えなくなったら引退なのか？』という、
僕らのちょっといじわるな疑問は未だ晴れないままでいる。
わけだが、
近年ホープが現れた。
白露山だ。
これでまだ２４！（涙）
ああ、白露山。なぜ君はその歳でこんなにも！
不憫にと思う一方で、彼こそが積年の疑問を晴らしてくれるやも知れぬ
ハレルヤ！ハレルヤ白露山！と
相撲ファンは沸き立っていた。ひっそりと、声には出さず、しかし確実に
沸き立っていた。沸き立っていたはずだ！この張りつめたような緊張感に。
だが、私たちはことの真相を知る。
事件は昨日の、名古屋場所７日目で起きた。
チンピラ大関の千代大海の態度にぶち切れた白露山の兄、露鵬が
取り組み後、ふろ場のガラスを割り、新聞記者を２人ほど殴り飛ばすという
暴れん坊将軍に変形してしまったのだ。
朝日新聞がそれに対し『自制の効かない力士はただの乱暴な大男』
と、警鐘なのか、『本ともうやめて下さい、死んじゃうんで』お願いなのか分からない
切迫した感じの記事を載せている。すごみが伝わってくるというものだ。
そしてその、報道陣を阿鼻叫喚の渦に巻き込んだ、ただの乱暴な大男を
とめたのが彼だったらしい。そうわれらの、
白露山。
『兄ちゃん、やめて！』
白露山も力士とはいえ、相手は今やただの乱暴な大男。
新聞記者など１０人掛かりでもぶっ飛ばされそうなフルアーマー基地☆ガイに、
必死にしがみつく弟の姿が目に浮かぶ。
そして新聞に載っていた彼のコメントだ
『兄（露鵬）の目の色を見てヤバいと思った。昔からそう。１３歳から、僕がとめている』
『１３歳から、僕がとめている』
ちょっ、、おま、、うっ
ぶわぁああ！涙がぶわぁああ、って！も、オレ、涙が！
ごめん！ほんとにごめん、白露山！君のまげ事情、もう、なんか
全部分かった。すっごい分かった！
ホープとか言ってごめん！変な興味で注目しててごめん！
なんだこの兄弟愛。弟を持つならロシア人だ。決定だ。
がぜん応援していくことに決めた。
白露山！
白露山キラリ！
白露山キラリだ！
