デンエイ日記。

日々色々
カトさんの出現率は、トキワの森のピカチュウ並。

チェーンソー5(鎖争)

2008年11月04日 | カト
爆音が世界を支配している。もう、僕の知っている世界ではなくなってしまったような。
危機感は遠のいてしまった。観客のように見つめている。居合わせた全員がそうだったろう。
もしかしたら、腰の抜けた侍も、今となっては観客の一人だ。
世界に存在しているのは
二人。バラシ屋の異名を持つバーサーカー、そして爆音の主。一気に空間を支配し切った老翁。
上空から枝が落ちてくる。ドサリ。またドサリ。ドサリ。
何が起きているのかは分からない。長身の老兵が、その手の巨大なチェーンソー『山鳴り』をすいすいと振っている
その度に遥か上空から枝が落ちるようだった。
と、彼があご越しに目線を落とし、何か言った。
声は聞こえないが、おそらく、
『おろせ。』
もちろん、辰巳さんに。チェーンソーをおろせということだ。
だが、狂人はおろさない。覇王をにらむ目線はビタリと動かない。
『山鳴り』がまた、すいと動いた。
そこまで。
全く無責任に、全く人事のように、僕たちが事態を悠々と見ていられたのは、そこまで。
ドサリ。
何かが落ちた。枝、ではない。何かが落ちた。とても嫌な予感がする。何かが落ちた!!
『ああああああ!』
声は聞こえない。だが辰巳さんが悲鳴をあげているのが見える。いや、悲鳴を上げたのは僕だったか
よくわからない。耳をつんざく声はない。エンジンの爆音に最早麻痺してさえいるようだ。
だが、とても嫌なものが、強烈な悪寒が、心臓を貫く。
辰巳さんの体がくしゃくしゃに縮り、
そしてすぐに跳ねた。作業服が一気に真っ赤に染まる。
いやだ、勘弁してくれ!落ちた”何か”は、辰巳さんの、手首っ。

事態は最悪だ。覇王はそうか、常人ではなかった。こんな解決方法、誰も望んではいない。
辰巳さんを止めなきゃ。そして覇王を鎮めなきゃ。なんとかしないと!しかし、周りのきこり同士、声が通らない。
『おろせ』
背筋が凍る。覇王の2度目の命令だけが、なぜか爆音の隙間を通って聞こえてくる。
辰巳さんは手首を失った右腕を左の脇に押さえ込んで、まだ、凶器を持ったままだ。
顔には、、、笑みが浮かんでいる。、、あれ、なんだろう。違和感が。