デンエイ日記。

日々色々
カトさんの出現率は、トキワの森のピカチュウ並。

鎖争(チェーンソー)4 

2008年10月11日 | カト
土壇場は誰かが救うのだろう。
でも、誰が?
超絶技工士はたくさんいる。
イノシシの突進もかわせる。熊ともやり合えんではない。
一人のバーサーカーくらい数人でかかれば簡単に止められるだろう。
でも、誰が?
誰が、止められるんだろう。
辰巳さんの涙を。
彼の怒りを。彼の焦りを。
そのエネルギーは決して、人を殺すためにでも、脅すためにでもある訳ではない。
彼の情熱は。彼の激情を、どこに向けさせればいい?
それが分からない人間には、ぼくにはきっと、彼は止められない。
林業は、低迷に低迷を重ねている。
誰も、確かな未来など、提示できはしない。そんな現在を生きているのだ。
ドバルンンンン!!!!
っと!うわあ!突然にばかでかい音がした。山が鳴った!?反射的に身をすくめる。
火山が噴火するのかというような。
続いて、ドカンドカンドカンドカン!!!、、、
すごい重低音。腹の底が揺れる。
ちょっとまて!これはまさか?おい!そうだ!これは!
『山鳴りだ!』
思わず笑いがこぼれてしまう。少しだけ期待はしていた。
この状況、もしかしたら拝めるのではないかと。
全日本木こり連盟、最高責任者は”覇王”と呼ばれる。
その昔、圧倒的なまでの技術、知力、情熱、経営力で、日本中の木こりに道を示した男
覇王、森喜朗(73)!
現役は退いて久しい70すぎの爺様だがエンジンが入れば、初めて見た。迫力が違う。
身長は180オーバー。なぜか桃色の作業服に、白髪の適当ロング。
顔は、節だのウロだのこぶだのの、、いや、、きっとあれだ!若い頃は熊も惚れ込む美声年だ。
どぶとい腕が二本。その肌がシワシワであることが
逆に木の肌のような固さというか、静けさというか、何やら迫力を増させているように思える。
そしてその老木の根っこのような腕に、がっしりととらえられているそのマシーンが
『山鳴り』
銘を山鳴り。
チェーンソーは鋸(のこぎり)に対して、とにかくパワーがある。作業の効率を圧倒的に上げた。
だがその代わりに、なかなか繊細な作業は得意ではないという弱みを持つ。
刃の部分は鋸、特に大鋸(アサリのない鋸)に比べると遥かに太くなってしまっていて
最高級クラスの木材を切るには、欠損が大きくなるだけに、向かない。
そこに、この『山鳴り』
先ずでかい。と言うか長い。刃の部分が長い。大抵は50センチくらいなのだが
山鳴り、2メートル近くあるんじゃなかろうか。めちゃめちゃ長い。
銘木だろうがなんだろうが、一刀両断できようというもの。
そして薄い。恐ろしく薄い。切り口は2ミリくらいしか無いと言われる。チェーンソーでは、ない。
しかしだからこそ、とんでもない高級木材も切ってゆける。
しかし、それゆえ、引くのに抵抗があまりに大きい。あさりの無い鋸をひくのがとても難しいように。
まっすぐひかなければ、引けない。そしてまっすぐ引こうが引くまいが凄まじいパワーがいる。
そう、だからそのチェーンソーは『山鳴り』なのだ。
暴力的なまでの大出力エンジンの脈動が、山鳴りのようだから。
動いているのは、初めて見た。覇王も年老い、もはや始動させることもできなくなっていると聴いていた。
スターターが、信じられないくらい重いのだとか。
だが、『山鳴り』が鳴っている。
もう、何も心配はいらない。