every word is just a cliche

聴いた音とか観た映画についての雑文です。
全部決まりきった常套句。

第9地区

2010-05-31 | 映画
オイラの部屋にゴキブリが出る。
引越し初日、まだ寝具くらいしか荷解きしていない段階で現れた気もするから"侵略者"はこちらなのかもしれない。

オイラはゴキブリを駆逐する。
南無三と(仏教徒でもないのに)合掌するが、殺生は殺生だ。




『第9地区』を観てからはクリストファーのことを思い出すようになった。


ただそこに居るだけなのに何故殺めなければならないのか。
これが猫だったら、自部屋から出すか飼うかだろう。
蜘蛛だったら。アシダカ蜘蛛だったら、どうかな~ 益虫だけど、狭い部屋をあの大きさが。
『第9地区』に収容されたエイリアンはその形状がエビに似ているのでプローンという蔑称で呼ばれている。
プローンというのは南アフリカに生息するエビの一種で、日本でいうゴキブリのような存在らしい。


多くの人が鑑賞後にいうように『第9地区』を観終わろうという頃には、クリストファー側の視点で見てしまう。鑑賞者たちはクリストファーに感情移入する。

『第9地区』主人公のヴィカスは小役人的な普通の男だ。
何かがあるわけでもないが、何かが欠けているわけでもない。

映画前半部ではドキュメンタリー・タッチでエイリアンが南アフリカ・ヨハネスブルグ上空に突如現れてからの様を描く。

20年上空に漂い続けている宇宙船の衝撃は薄れ、差別意識だけが残った。
南アフリカという舞台設定はこれがアパルトヘイトの暗喩であることをはっきりと示しているけれど、劇中で黒人青年が語る台詞が象徴的だ。
「同じ人間ならまだしも、宇宙人ってなると、もうどうしていいかわからないし…」
我々と共通する所が何一つ無いように思える、つまりは全く理解できない相手。
差別とは無理解から来るのだろう。

逆に我々と同じ心情をクリストファーに垣間見た後半部で観賞の感情移入のベクトルがガラッと変わるのだ。

リアリティが生まれたという言い方が出来ると思うが、差別をなくす手立てはこのリアリティの持ち方なのだ。

ヴィカスはアクシンデントによってクリストファーと同じリアリティを得る。
彼らプローンがどうやって暮らしているのか、どのように扱われるのか、それらをそれこそ皮膚感覚でも分かるようになる。

それは強烈なリアリティだ。
だからこそ、何者でもなかったヴィカスがクリストファーを命がけで守るようになる。

差別とはなんだ、分かり合えない他者とのコミュニケーションとは? と考えさせられる映画だった。

お奨めです。


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