every word is just a cliche

聴いた音とか観た映画についての雑文です。
全部決まりきった常套句。

R.I.P. KAGAMI

2010-05-28 | TECHNO
「西城秀樹のヤングマンをサンプリングした凄いデモが届いた」とFrogman Records事務所が大騒ぎになったという最初のエピソードはつとに有名だ。

まるでその場に居たかのように、情景が目に浮かぶ。


Ken IshiiやSusumu Yokotaがヨーロッパ・デビューを果たし、大阪、福岡、東京にインデペンデントなテクノ・レーベルが同時多発的に設立され、日本にテクノ・シーンと呼ばれるものが形作られ始めた。
YMOに影響を受けた世代がセカンド・サマー・オブ・ラブの衝撃を受けて、爆発させたのが1994年の日本のテクノの喧騒の真相だった。


KAGAMIはその喧騒の中で育ったはじめてのアーティストがKAGAMIだ。

ダンスマニアやリリーフといったシカゴのトラックスにインスパイアされた「Y EP
」や1stアルバム『The Broken Sequencer』などには当時の東京に於けるテクノ・フロアのスタンダードが詰まっている。
何故ならフロアを埋め尽くすお客さんに年齢も視線も一番近いアーティストがKAGAMIだったからだ。



そして「Tokyo Disco Music All Night Long」だ。
電気Grooveとのコラボレーションでの経験から一気に作ったというこの曲はフロア・チューンとして世界的な大ヒットをおさめた。




"日本発の"という副詞を抜かしても、あれだけフロアを熱狂させた曲はそうはない。
確かCISCO TECHNO店での売上げ枚数の記録を持っていた筈。

個人的な話をすれば「テクノは大音量じゃないと分からない」という台詞にはうなずけないのだけれど、「Tokyo Disco Music All Night Long」だけはクラブの大音量で聴いて初めて分かった。

タイトルをコールするヴォコーダーのキャッチーさ、前半シーケンスのファンキーさはいいなと思ったけれど、全体の構成が甘く練れて居ないなと思ってしまったのだ。
4小節のループをただ並べている感じに聴こえた。
ところがDJによってプレイされる流れの上で聴くとそれは全くの誤りであったことが分かったのだ。
ブレイク後に出てくるアルペジオ・パートなど唐突に思えるループの切り替わりが、然るべき位置に置かれると抜群の機能を発揮するのだ。

それまでも、例えば「Spastik」のようなMIXされることが前提のツール的作品はあったし、それらの使い方、効能は分かった。

それらを例えるならばプラモデルの新しいパーツだ。ガンダムに日本刀を持たせることで武者ガンダムになるし、主要な部品を間引けばア・バオバクーの最後のガンダムのモデルになる。
それに対して「Tokyo Disco Music All Night Long」は他のプラモデルと一緒に置くことで世界観が変わったり、奥行きがでるジオラマのような作品だった。

むしろDJのプレイするレコードというのはそちらの使い方が主流なのだが、何と言うかそれはDJの力量だった。
ツールとしてジオラマの機能に特化した(いわばジオラマ・ツール)の使い方をはじめて知ったのが「Tokyo Disco Music All Night Long」だったということかもしれない。





閑話休題。

東京のテクノシーンで育ち、自分のすぐ隣にいたような同い年の人間がこういう形で倒れるというのは無念でならない。

スペインの諺に『幸福な人生を暮らすことが一番の復讐』だというのがあるのだけれど、それに倣って言えばトウキョウでディスコを夜通し楽しむことが、一番の弔いになるのかもしれない。


過労死と報じられているけれど、その言葉はマネジャー・サイドを責めるようで使いたくない。
もしかしたら自責の念をこめて、そう発表しているのかもしれないけれど。
これは不幸な事故だったとしか言いようがない。

アルファベット三文字に思いを託すのは、こめた気持ちが軽くなるような気がして、いつもなら釈然とはしなのだけれど、今回ばかりは、事情が事情だし、どうか安らかに休んでくださいという思いとまだどこか信じられないという思いをこめて、記します。

R.I.P. KAGAMI


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