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車止めピロー:旧館

  理阿弥の 題詠blog投稿 および 選歌・鑑賞など

香-キョウ- さんのうた

2009年12月11日 | 八首選 - 題詠2009
香-キョウ-さんの歌から8首。


095:卓
溜息を吐きつつ電卓たたく母 
思い浮かべて 今の私 と

083:憂鬱
雨の日が憂鬱だと誰が決めた?雨なら中止のマラソン大会

074:肩
腰までの髪をバッサリ 肩までの長さにしたら 空も飛べそう

054:首
透き通る白き肌に一粒の流れ落つる汗首筋麗し

037:藤
艶やかな黒髪映える藤色の花びら連なる 簪揺れる

035:ロンドン
この心 キミを好きだと想うたび 
     ドロンドンロに汚れていくんだ

025:氷
カップの底 覗いて笑顔 子供たち 残った氷頬張る ガリゴリ

001:笑
最後まで笑っていたのは何となく 泣き顔 キミが 嫌だと思って



ストレートな作風の香-キョウ-さん。
お気に入りは37番。

水風抱月さんのうた

2009年12月10日 | 八首選 - 題詠2009
水風抱月さんの歌から8首。


091:冬
冬枯れる舗道の木立人気無く都会の肋からからと鳴る

088:編
艶かなる黒髪編める母の指 耳朶を擽るかさつき愛し

077:屑
夜の内に氷雨は月の子らを射て ほら芝生にも星屑が散る

053:妊娠
照れつつの妊娠を聞く また一人船出を見送る心地にて居る

041:越
虹向こう彼方にぞある父の背の 越えてもみたし 越えるも哀し

026:コンビニ
夜を侵し彷徨う子らを捕食するコンビニエンスストアの白闇

010:街
街路樹の影だけ君の形して、溢れた其の名を殺す 「さよなら」

009:ふわふわ
胸の内融けゆく君の声はして一人溺れる ふわふわふ、わ



88番。
母の足裏をマッサージしたとき、
こんなに踵がカサカサしてるのか、と驚いたのを思い出しました。
愛し、の気持ち、わかります。

26番。
コンビニを漁礁に喩えた方がいましたが、
こちらは闇に怪しく光る食虫花か。
捕食の語が効いています。

9番。
一字開けと字足らずが、みごとに歌意にマッチしていると思います。
わ、で溺れちゃったのね。

柚木 良さんのうた

2009年12月10日 | 八首選 - 題詠2009
柚木 良さんの歌から8首。


100:好
好きなのは貧乳じゃなく貧乳を悩むあなたの悩める貧乳

064:宮
神宮に行けば土橋が見れたころ僕は野球も君も嫌いで

043:係
係など決めるころにはほとんどの女子はカーストごとに固まる

032:世界
世界からこぼれていったものとして話題にのぼる退学者たち

024:天ぷら
天ぷらと叫んで課長走り出す高く上がった打球の下を

016:Uターン
UターンしていくひとのUの字の弧が重なって学位授与式

005:調
エンジンの調子も音でなんとなくわかる厚木に育ったぼくは

001:笑
笑わせちゃいけないのだと怒られるとくに悲しくない人たちに



1番。
シカツメ顔で意見するのは、いつだってとりまきや部外者。

16番。
この難しいお題にあって、最もしっくりきてる詠み方だと思います。
とてもいい。
こういう壁にあたると、すぐに変化球に逃げた詠み方をする
自分の作歌を反省させられます。

お題の取り込み方や、最終的な着地点など、とてもセンスがあって、
羨ましくなってしまった柚木さんの百首でした。
う~ん、私もこういう風に詠みたい。

星川郁乃さんのうた

2009年12月09日 | 八首選 - 題詠2009
星川郁乃さんの歌から8首。


086:符
はらってもはらっても降る疑問符に濡れたまんまの夜よ 長いよ

084:河
越え難い河のようなる食卓を挟んで父母の短い夕餉

079:恥
躊躇いと羞恥心とを育てすぎ母よわたしは歪な林檎

076:住
ため息を竪穴住居の炉の前で弥生の女(ひと)も殺したろうか

074:肩
肩書きを持たないこととひきかえの自由 架空の国を治めて

021:くちばし
くちばしのない生きものであることの愉悦 わたしはやわらかな水

015:型
どこを縫えばいいのだろうか(まだ)愛は(まだ)白い(まだ)型紙のまま

006:水玉
悲運とはときに豪華で プリンセス・ダイアナの赤い水玉模様



76番。
目の前には姑がいたりしてね・・・
  調べたら、室町時代まで使われてたんですね、
  竪穴式住居って。びっくり。


74番。
誰しも自己という名の王国の王。
そしてそれこそが、この世で唯一逃れようの無いもの。

ME1さんのうた

2009年12月08日 | 八首選 - 題詠2009
ME1さんの歌から8首。


092:夕焼け
夕焼ける水の鏡に映る陽は満たされていた春の残像

081:早
生い立ちも早生まれだとも歳さえも知らぬあなたの癖だけを知る

073:マスク
ご機嫌の日だからきっとマスクメロン彼岸うつむく母の墓前で

055:式
儀式とは 哀れむ藍に 染む薔薇を 湖の底 沈め行くこと

040:すみれ
戯れに赤らめた過去価値もなく道端に咲くたちつぼすみれ

037:藤
朝焼けの藤色を知る呼吸する不眠不休の街に生きれば

026:コンビニ
即席なコンビニ仕様の原色に慣れて孤独は都会を照らす

010:街
街灯は聳え しばれる夜を灯す ほの白く闇溶かしてしじま



37番。
明け方の空の、微妙な移り変わりを思い出させてくれる、
そんな一首。
緑色に光るような時間帯もありますねぇ。

26番。
即席、原色、孤独。
シンプルにシンプルに、単純化された都会の生活。

月原真幸さんのうた

2009年12月08日 | 八首選 - 題詠2009
月原真幸さんの歌から8首。


094:彼方
彼方から声が聞こえる)))(((わるいゆめ)))(((37度2分の発熱

090:長
ゲシュタルト崩壊は不可抗力だ 長く見すぎた夢だったから

071:痩
いつのまに痩せてしまった左手の小指に今も揺れる約束

050:災
災いを引き寄せているような気がしてならなくて埋める臍の緒

041:越
引っ越しの荷物の中にもう二度と開けない箱を用意しておく

034:序
キッチンの床にちらばる無秩序なガラスの破片に触れたがる指

027:既
既視感が押し寄せてくる夜だからイヤホンをする 点滴がわり

014:煮
煮詰まったキャベツスープの鍋底をさらう どこにも行けない4月



94番。
括弧をこんな使い方しているの、はじめて見た(笑)
夢が閉じられてて、朦朧とした現実は解放されてるところが
とてもいい。

71番。
果たされなかったのか、まだ希望があるのか。
最後のゆびきりの感触。

ろくもじさんのうた

2009年12月07日 | 八首選 - 題詠2009
ろくもじさんの歌から8首。


010:街
ユーミンの歌を真似して書置きはルージュで書いた。街よ、さよなら。

011:嫉妬
ごはんには梅干が必要だからあなたにも嫉妬してあげている

047:警
警報をかき鳴らせギター、これからもやっぱりひとりで生きるのだから

052:縄
縄抜けを練習してて良かったね こわくて気恥ずかしくてわらう

071:痩
痩せ我慢するほどならぶ初売りのように愛して欲しかったのに

080:午後
午後ティーに癒されるほど落ち込んでいないのでとりあえずビールで

092:夕焼け
全身を使って彼がふりかぶる、投げる 夕焼けは彼の血潮

095:卓
食卓がひっくり返せないような耐震構造 父さんごめん



口語短歌という大きな分類の中でも、
ろくもじさんのような作風を現代口語短歌、というのだろう。
この文体には、活き活きとした現代の肉体という裏づけがある。
自分もこういう文体を獲得してみたいけど・・・無理かなー。

95番。
怒鳴りつけたいのをこらえて、娘の前でぷるぷると震えている、
そんなお父さんの姿が見える(笑)。
とくに、起こられている側が悪いと自覚しているときって、
時間は果たしなくゆっくりと流れるんだよねぇ。

みぎわさんのうた

2009年12月07日 | 八首選 - 題詠2009
みぎわさんの歌から8首。


098:電気
頭頂に煙立つみゆ電気椅子ゆ火花散るみゆ 人はかく死ぬ

091:冬
Womanのおゐどにも似てオオミヤシ冬の日本に種蒔きにくる

086:符
民族の違ひ見分ける符丁なる母国(くに)の名前を名乗れ 在日

041:越
若さゆゑの自惚れつらつら浮き上がり腰越状は哀しき手紙

025:氷
氷襲(こほりがさね)色目の枕くぼみをり若き患者の朝つつがなし

017:解
解毒剤もたずに恋は堕ちるべし泥濘ふかく身は汚すべし

012:達
裏木戸を開けて手招く日まで《死よ!》どうか達者でゐてください

002:一日
脛長媛にあらねど一日(ひとひ)の仕舞ひ湯に静脈瘤の下肢を踊らす



「わたくし」を詠った作品が多い(殊に今のネットの)短歌界において、
政治、社会などの「公」についても、多く詠まれるみぎわさん。
その直截な作風は、題詠blogの中では異彩を放っているように思う。

86番。
この一首は、採りあげるかどうか、とても迷った。
しかし、心を揺らされた(いろんな意味で)歌を黙殺してしまっては、
ごまかしになってしまうな、と思って、やはり選ばせていただいた。

この歌の主張はシンプルで明快。
「在日は通名ではなく、本名を名乗りなさい」
しかし、その本意はなんだろう。
「そうしたところで、我々は差別無くあなた方を受け入れる。だから誇りを持て」なのか、
「そうしてくれれば、日本人ヅラした朝鮮人を苦も無くあぶりだせるから」なのか。
あるいはまた別のこころがあるのか。

(「在日」という語は広くは在日外国人全般を指しますが、一般的には
 在日韓国および朝鮮人を指すことが多く、ここではそちらの
 意味で使われていると考えます。でなければ意味が通らないので。)

歌意をひとつに限定するのは、とても難しいし、最終的には不可能かもしれない。
最後に一字明けでぽつんと置かれた在日の二文字が、
冷たく叩きつけられているようにも見える。

そもそも、自分のように国や言語を選ぶ必要の無い立場で
生まれたものが安易に語れるのか、という疑問もある。
在日と一括りにしても、在日朝鮮人と在日韓国人では立場が異なるし、
また、三世、四世と世代が下ればこれまた違う。
ハングルすら読めない人も多いだろう。

そして、本来的にはこの主張をしている主体の来歴が分からないと、
じつは決定的なことは何もいえないのだ。
たとえば名乗れ、と言っている人自身が在日であった場合、
この一首は同胞へ向けての応援歌となり、あるいは一種のアジテーションともなる。

このように、主張者の立場はもとより、問題の背景まで描写するには、
短歌はあまりに言葉少なく、心もとない。
それこそが「社会問題を扱うには向かない」詩形だといわれるゆえんであり、
多くの歌人(プロもアマも)が、そのようなサブジェクトに関しては評論や
ブログなどに譲って、「わたくし事」を詠うに専念する大きな理由の一つであろう。

私がこの一首を読んですぐに思い出したのが、斉藤斎藤氏の次の歌だ。

 アメリカのイラク攻撃に賛成です。こころのじゅんびが今、できました

この歌に出くわした当時(そんなに大昔ではないけれど)、
正直いって面食らった。
「なんだろう、この歌は。一体何が言いたいんだ?」
憤慨し、混乱した。眩暈を覚えるほどに。
その頃の私は、
作者=作中主体 かつ 作者の主張=作中主体の主張
そう思い込んでいたから。
というより、そうでない考え方がある、ということ自体を、
ほとんど短歌バージンであった自分は、恥ずかしながら知らなかった。

私を含め日本人の大方を占めるであろう、「反戦」「非戦」の思想をもった、
多くの日本人は、この一首を読むとガツンとやられる。
「反対です」と漠然と思ってはいても、
そのための「こころのじゅんび」なんかしたことはないからだ。
この歌の作中主体は、
「俺はイラク攻撃に賛成するぜ。よくよく考えて覚悟したんだぜ。
 あんたはどうだい?なんとなく反対って言ってるけど、
 そうやってテレビの前で座ってるだけなんだろ?
 戦争の事なんか、ほんとは熟考したこともなく、
 時間が来ればテレビのスイッチを切って忘れるんだろ?」
そうアジってるのだ。

アジられて、憤慨した時点で、読み手はもう斉藤斎藤の術中にはまっている。
斉藤斎藤氏は、読者の心をざわめかせることが優れた短歌の使命であることを、
よく知っているわけだ。
もともと短歌という小さなメディアでは、正論を吐き、その背景を理解させ、
そして最終的に人を説き伏せる、そのようなことに関しては限界があるわけだ。
だったら、まず読者の脳味噌を一気にワシ掴みにしておいて、
あとは各々に考えさせたほうがよっぽどいい、というロジックだ。
もしこの歌が「イラク攻撃に反対です」という一首だったら?
多くの人が「うんうん、そうだよねぇ」と言いながら、
軽く読み流していたのではないだろうか。
そして歌集を閉じるのだ。テレビのスイッチを切るように。

みぎわさんが、歌作時に同じようなことを考えておられるかは、私には分からない。
しかし、次のようなことは言えると思う。
この一首を読んで、
「主義主張が自分と違う!」
と、作者本人に対して異議を表明したり、抗議したりする必要は無い、ということだ。
あるいは黙殺する必要もない。
短歌は評論ではなく、あるいは論文でもエッセイでも、新聞への投書でもないのだから。
(逆に言えば、政治的あるいは社会的な主張がしたければ、
 短歌以外の場所でやるほうがよっぽど効率がいいということでもあるが。)

もしこの歌を読んで、心がざわついたのなら、
じゃあ自分の立場はどうなんだろう、と胸に手を当てて
考えてみるのが、一番いいのではないだろうか。
少なくとも、ある種の社会問題・政治問題に対して、
自分がどういう立場で、これからどういう態度で接するべきなのか、
それを考えさせるだけの力が、この一首にはある。

短歌には、短い詩形であるからこそ備わっている、
入り口をこじ開けて、読み手の世界を大きく広げる力がある。
みぎわさんの歌は、そのことを改めて考えさせてくれた。

keiさんのうた

2009年12月06日 | 八首選 - 題詠2009
keiさんの歌から8首。


011:嫉妬
一心にパン生地を捏ねているうちに嫉妬している私が見えた

013:カタカナ
ロボットはロボットのままでいたいから喋る言葉はいつもカタカナ

014:煮
ぐすぐすと小豆が煮えるあと一歩踏み出せぬ私を責めている

037:藤
特急は何本通過する気だろう どんどん遠くなる遠藤さん

064:宮
団欒をしいんと聞いている守宮(やもり)深まってゆく秋のベランダ

071:痩
路線図は複雑すぎる夏痩せの人差し指に負担がかかる

076:住
真昼間の住宅街に忍び込むすうっと足の伸びゆく日差し

097:断
真夏日の横断歩道ゆがみだす左右前後を過ぎるロボット



71番。
うまいなぁ。確かに路線図はゴチャゴチャしてる(特に首都圏)。
こういう誰もが感じていることを、言語化できるのが才能ってもの。
効いているのが「夏痩せの」。こういう作者本人への引き寄せが、
一首をたんなる「あるある短歌」以上のものにする力を秘めているんだと思う。

11番。
これも好きな一首。
生地をこねる力の入れ具合に、いつもと違う自分を感じたんでしょう。
無意識のうちに、肉体そのものが教えてくれる自分の精神状態。

はせがわゆづさんのうた

2009年12月05日 | 八首選 - 題詠2009
はせがわゆづさんの歌から8首。


003:助
くつずれをかくして笑う小春日の坂道いつも助けられてた

005:調
ラムネ色した君の目にキスすれば調和していくスペクトルまで

014:煮
冷静に繰り返すくちづけの間に確かに煮くずれていくものたち

052:縄
縄跳びはグラウンドに残されたまま最後のひとりが放課後を終える

053:妊娠
欠片からこぼれた命を受け止めて夜毎繰り返す獏の妊娠

062:坂
口笛と一緒にあなたは坂のない町へ流れた何ももたずに

074:肩
触れていた指先ばかり思い出す 肩口に残ったいつかの微熱

079:恥
暮れる空に今だけ許しを願ってる花恥ずかしく染まった指先



53番。
獏の妊娠!こういうフレーズが
どうやって生まれてくるのか知りたい。
このお題では、人間の妊娠以外で詠まれた歌自体、
ほとんどなかったと思う。
詠める世界の幅が広いというのは、
歌人にとってすごい強みだろうなぁ。

小林ちいさんのうた

2009年12月05日 | 八首選 - 題詠2009
小林ちいさんの歌から8首。


020:貧
なぜこんな愛しいのだろ トランプをすれば貧民続きの君が

029:くしゃくしゃ
目を閉じてしゃくしゃくしゃくと噛み砕く林檎はいつも懐かしく鳴る

053:妊娠
髪質も爪の形も綺麗だしあなたの子なら妊娠も良い

072:瀬戸
きみのこと忘れるために歩く街ひらり手に取る瀬戸物ふたつ

074:肩
肩越しに見る天井は揺れていて声にならない夜をのみこむ

096:マイナス
マイナスを持ち寄り二人寄り添えばゆっくりゼロになってく不思議

099:戻
戻るなら恋の始まり 傷付いて何度泣いても会えるならいい

100:好
日曜日まで待てなくて家を出る生まれたばかりの「好き」を届けに



53番。
シビアな見定め。これが現実・・・

72番。
自分で突っ込んじゃうんですよね。
忘れてないじゃーん。

千坂麻緒さんのうた

2009年12月04日 | 八首選 - 題詠2009
千坂麻緒さんの歌から8首。


012:達      
せんせいの熱伝達の解説が愛のことばと響いて五月

017:解      
モノクロの解剖学図にんげんの中身に全部名前をつける

023:シャツ    
夏色のシャツのサイズを間違えた昨日より今日全力疾走

028:透明     
すくったら透明でした膨大な青を湛えた夏だったのに

033:冠      
長い長い手紙を書いて手を汚す あなたに似合う雨冠に
      
037:藤      
いいやつを演じることに疲れたら藤井くんもう銃は捨てろよ
  
077:屑      
早朝の花屑踏んでついてゆくついておいでと言わないひとに

086:符      
足音が音符のように走りぬけ散歩の犬と競争の子ら    



37番。
「演じ疲れ」は、そこここに蔓延っているように思う。
タテマエじゃなく生きられる現実があったら、
レンタカーで秋葉原に向かうことも無いのだ。
銃をとるまえに、エンジンをかける前に、
短歌でも詠んでみりゃいいんだよね。

17番。
人間は名前をつけることで踏破できる領域を広げ、
同時に限界という名の壁を築いている。
付けられたラベルを組み合わせて世界を把握して、
いつもその世界を壊してくれる天才の出現を待つ。
まあ現れたら現れたで、その天才はひとまず
石を投げられるんだけど・・・

村本希理子さんのうた

2009年12月04日 | 八首選 - 題詠2009
村本希理子さんの歌から8首。


092:夕焼け 
つぎつぎと発火する窓 夕焼けの空を巨きな船底がゆく

078:アンコール 
アンコールには応へえず 老指揮者ふかく頭(ず)を下げ舞台を去りぬ

057:縁 
縁日のざわめき遠き路地に来てひかり放たぬ硬貨取り出す

052:縄 
沖縄のひかりを買ひしと思ひたるビアグラス闇ふかく抱けり

048:逢 
みみたぶをぬらす雨粒ふたつみつ逢ひたいひとのゐないしあはせ

020:貧 
本来の姿はこれか 二年目は貧(とぼ)しらに咲く青ヒヤシンス

016:Uターン 
Uターン始めるときの飛行機の音を知ってゐるやうな気がする

011:嫉妬 
嫉妬深き男のやうな藪椿いちりん裁りてしばらくを愛づ



57番。
祭の中心の喧騒に近づくすこし前の瞬間、
あるいは喧騒から逃れた暗がり、
あるいは喧騒が終わったあとの静寂。
祭の醍醐味とは、実際のところそういう「周縁」にあるのだと思う。
華やぎは没我を、孤独は自己確認を導く。

48番。
これは立ち止まって何度も読み返してしまう一首。
逢いたい人が居ない、それが幸せだという。
皮肉なのか、強がりなのか。
いずれにしろ、心のギリギリのところから出たであろう呟きが、
きちりと定型に納まってるところに、なにか清しい寂しさを感じます。
逢いたい人が居ない、それは幸せだ。そんなはずないのに。
それを表明するのは、とても悲しい。

ひぐらしひなつさんのうた

2009年12月03日 | 八首選 - 題詠2009
ひぐらしひなつさんの歌から8首。


097:断
断頭台かがやく朝はあたらしき挨拶をして人が行き交う

095:卓
卓球台ひらかれたまま廃村の公民館閉ざされる霜月

079:恥
しまうまのように恥じらうあたらしい日々のはじめの陽射しをくぐり

066:角
龍角散の銀の容器をあたためてゆっくり閉じる冬の西陽は

053:妊娠
妊娠を告げておんなは花鋏へと手を伸ばす春の陽のなか

033:冠
選ばれて赤い鶏冠を持つ者が喉ふるわせて解体を待つ

012:達
陽射しごと連れ去りながら配達を終えて路地へと消える自転車

010:街
花街に花なくかつて花たりしひとの曲がった影ゆくばかり



ひぐらしひなつさんの百首を読んで、浮かんだのは「陰影」という言葉。
それぞれに固有な時間を伴った光と影が切り取られています。

95番。
廃村にならないまでも、小さな村の出身としては、
なんだか胸がぎゅっとくる一首。
あの寒い午前中に、窓からさした陽の中に舞う埃とか、
片隅に転がったバスケットボールとか。

10番。
かつて花たりしひと、か。
いまは存在しない花の、そのかつての美麗さも思わせる、
長い長い時間がこの一首の中にありますね。
ぼくにとっては完璧だな、この一首は。

HYさんのうた

2009年12月02日 | 八首選 - 題詠2009
HYさんの歌から8首。


090:長
長からむ黒髪さえも絡みあう貴方を想う一人寝の夜は

069:隅
眠たげな春のうららの隅田川ビル郡の影水面に映す

064:宮
もう使う事なき子宮と思えども月に一度の主張忘れじ

058:魔法
その腹にカラフルな花咲かせてる魔法瓶居た昭和懐かし

037:藤
満開の藤棚仰ぎ観て思う仙女の天蓋この如くかと

027:既
既婚では恋する事が罪ならば心殺して生きよと言うのか

024:天ぷら
天ぷらの衣そばつゆ吸い取って襤褸となりし晩秋の宵

006:水玉
ふわふわと水玉模様の傘ゆれて記憶の母はいつも愛(かな)しく



締め切り前、わずか二日間で百題を走りぬけたHYさん。
真似の出来ないスピードです。