びたみん

なんじゃ もんどの すけ びたみん

クリムゾンの珈琲を飲む

2008-06-11 01:23:54 | Weblog
少し薄暗い喫茶店で珈琲を飲む。クラシックの音楽が骨董品の蓄音機から聞こえる。ラッパの形をしたスピーカーは現在の電子機器ほどの増幅率は持たないが、この部屋の隅まで音を行き渡らせるほどの力はあるらしい。

一曲が終わり、近くの常連の大学生風の女性が、LPレコードを立てかけた古めかしい書棚から、次の演奏のための一曲を選びセットした。どのレコードのジャケットも縁の部分がすこしくたびれたように押しつぶされ丸くなっており、飲み物をこぼした後のようなシミがついてあった。70年代というのは遙かな昔である。

喫茶店は集合テナントの二階にあり、少し前まで隣接して麻雀荘があったのだが、いつの間にか麻雀荘は店じまいしてしまったようだ。この喫茶店がつぶれずにいるのは、きっと一杯が1500円という高額な珈琲代と、一方でいつまでも居座ることのできる隠れ家的側面がリピータに愛されているからなのだろう。

この喫茶店での俺の座る位置は決まっていて、大きな葉っぱの観葉植物が入り口からの視線を遮り、少し奥まったところにある窓際の席である。この席からは唯一喫茶店の窓から外のスクランブル交差点の様子がみえ、餌を探す蟻のように人々がせわしなく歩いているのがみえる。これが全く意味もないのに非常に暇つぶしにはもってこいである。

いつもは、なんの変哲もないスクランブル交差点をなにげなく見ているだけなのだが、今日はいつもと様子が違い、どうやら映画撮影が行われているようだ。照明用のラフ板を両手で重そうに持ち上げている人や音響マイクを持った人、カメラマンなどが演者を小さく囲み、その外側を見物人が三重円の陣をなして囲んでいた。何の撮影をしているのかは、ここからは分からないが、パトカーや救急車なども用意されていたので、きっとアクションものかもしれない。

そういえば、喫茶店に入る前に妙なイラストのティッシュペーパーを配っていたが、表には小学生が理科の実験でつかう電熱器のイラストが描かれていた。まるで、酔っ払ったサナダムシがクダをまいているような・・・

蓄音機から流れてくる音楽が先ほどから同じところを辿っている。

シベリウスの楽曲を選んだ先ほどの彼女は喫茶店の奥で分厚い本を読んでいたが、蓄音機のところまでやってきて永劫回帰しているレコードを書棚にしまうと、こちらに向かって小さな声で「どうぞ・・・」といった。何度も見かけたことのある彼女だが、声を聞くのは初めてだった。いつも喫茶店の奥にすわって何某かの本を読んでいる。俺は「なんでもいいですよ、お好きなのをどうぞ」。そう返事すると、彼女はこくりと頷いて別のシベリウスの一枚を蓄音機にセットした。

スクランブル交差点では撮影に熱がこもってきたようで、随分とエキサイトしているようだ。そのうちテレビのコマーシャル枠やチョッとした今日の出来事として報道番組ででも紹介されるかもしれない。

そんな窓の外側と内側の対比をみるにつけて、やはり俺は喫茶店で音楽を聞きいているほうが、性分にあっているなと感じるのであった。


しかし、問題は七夕である・・・もうすぐやってくる・・・

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