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吉倉オルガン工房物語

お山のパイプオルガン職人の物語

子犬の死

2007年04月25日 | 自分のこと
小学校3年だったと思います、もう30年以上前のことです。

校庭に秋田犬らしい犬が侵入したのです。
首輪は無かったのですが、おとなしく、良く躾けられた犬のようでした。
数日間はそのまま放っておかれたのですが、校庭から出て行く様子も無く、さすがに先生方もまずいと思われたようで、ある日、担任の先生から相談を受けたのです。
そして、保健所を呼んだら、犬は殺されてしまうから、学校から遠くへ連れて行く、ということになったのです。
子供にこんなことを頼むなんて大らかな時代でしたね。

同じ方向に帰る友達二人と一緒に、その犬を連れて僕らが「沼」と呼んでいる大きな溜め池の周囲の芦原と雑木林を目指したのです。
その周辺は、あまり人が立ち入ることもなく、野犬がいるといわれる場所で、犬を放すには良い場所に思えたのです。
あの頃は、まだ結構野犬もいたし、僕らはそいつらを当たり前の自然の存在として、あるときはエサをやったり、あるときは敵として警戒していました。
今では考えられないことです。

その犬はとても素直に僕らについて来たので、紐で繋ぐこともなく、僕らは「沼」を目指したのです。
全く問題なく連行作戦は進んだのですが、同級生の女の子の家の脇を通る時、惨劇は起きたのでした。

彼女の家には犬がいて、キャンキャンとヒステリックに吠えるので、僕らは「バカ犬」と呼んでいたのですが、その犬には最近生まれた子犬が一匹いました。
その家の脇に来たとたん、ずっとおとなしかった秋田犬が狂ったように吠え、バカ犬に飛びかかったのです。
僕らはすっかり度肝を抜かれながらも、なんとか秋田犬を抑えようとしました。
が、そんなことが出来ようはずもなく、なんと秋田犬のターゲットは子犬に移ったのです。
友達二人が盾になり、僕がその子犬を門扉の向こうに投げようとしたのですが、ダメでした。
子犬は僕の手からもぎ取られるように秋田犬にくわえられ、絶命したのです。
母犬は相変わらずキャンキャン吠えていましたが、子犬が死んだとたん、秋田犬は我に返ったようにまたおとなしくなったのでした。

ショックで放心しながらも、子供の限界に直面した僕らは、その飼い主、同級生の女の子の母親に事情を話して謝り、保健所を呼んでもらったのです。
事件直後は、その秋田犬なぞ殺されてしまえば良いくらいの気持ちだったのですが、段々冷静になって来て、犬同士を近付ける危険を判っていなかった僕らが一番悪いという結論に達したのです。

そして、僕は一人、保健所が来る前にと当初の計画通り、秋田犬を「沼」へ連れていったのです。逃げられてしまったことにするつもりでした。
そこで、棒でたたいたり、石を投げたりしたのですが、秋田犬は僕らから離れることはなく、僕は結局、犬とともに現場に戻ったのでした。

保健所のおじさんは、いや~、もったいない虎斑の秋田だね、といいながら、僕らの誰かが引き取れないかと訊いて来ました。彼自身も自分の職務に気が進まなかったのでしょう。
僕らは皆アパート暮らしで、室内犬ならともかく、秋田犬では無理な相談です。
そして、秋田犬は連れて行かれたのです。

僕達は皆、興奮やいろいろの感情で震えながら、言葉少なに、死んだ子犬の体を洗いました。
恐怖に失禁、脱糞して汚れた、ついさっきまで生きていた体を。
自分たちのせいで失われた命のことを思い、悔やみ、自分たちがいかに子供で無知で無力なのかを思い知ったのです。

子犬は僕らの寄り道ルートの近くの木の根もとに埋めました。

ことの顛末を親や先生に報告したのですが、皆、意外な程優しかったのを憶えています。
子犬の飼い主の同級生の子も、直後は僕らを罵倒しましたが、打ちひしがれている僕らを見て、やがて赦してくれました。あの年頃は、女の子の方がずっと大人です。
まわりの大人たちは、仕方のなかったことと慰めてくれましたが、それは、まぎれもなく僕らが子供、愚かで弱くて責任能力のない保護されるべき存在だったからで、そのことがまた悔しくもありました。
その夜は、布団の中で泣きました、悲しさよりは、後悔と、無力な自分への悔しさで。
知恵と強い心と体が欲しいと心底望んだのは、あれが初めてかもしれません。

学校帰りに、寄り道をする度に、僕らはその子犬のお墓参りをしました。
そして、自分たちの無知、無力を子犬に詫びたのです。

この事件自体を思い返すのは久しぶりなのですが、あの時に感じた様々な思いは、今の僕の底に確かに流れています。

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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なんとも複雑な・・・ (ムスタファ)
2007-04-25 21:03:47
私も何とも複雑な気分になりました。
私の実家にもパクという犬がいますがね。
犬の世界も複雑なものだな、と思いました。
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子供の終わり (ひろなん@風琴屋)
2007-04-25 23:15:54
ムスタファさん、ようこそ!

あの時、僕が思い知らされた無力感は、子供であることへの決別のきっかけだったと思います。
まあ、その後も(今も?)ずっとガキなんですけどね。
でも、子供でいたいとか、大人になりたくないとか思ったことはありません。

いや~、まだまだですね。
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