吉倉オルガン工房物語

お山のパイプオルガン職人の物語

コンサート調律(中編)

2007年11月30日 | 自分のこと
あわやズボンが穿けないかも!という予期せぬピンチをかろうじてクリアし、東京に向かいます。
最近は、車で高尾まで行って、そこから京王線で都心に出ます。パーク&ライドってやつですね。
僕の、西東京エリアでの仕事は不思議と京王線沿線なので好都合なのです。

さて、少し早めに現場に入って、まずやることは、オルガンを会場の空気に慣らすことです。
実際の演奏で置かれる位置で、同じ温度設定、同じ照明という条件を極力整えてもらいます。
たいていは、舞台の設備を用意する作業とぶつかるので、すべての条件が満たされることはなかなかないのですが、温度については慎重にチェックします。
オペラシティの温度管理はとても優れていて助かりました。
空気に慣らすため、オルガン各部のパネルを外したり、開口部を開けたりします。
このとき、扇風機で風を送ることもあります。冷えているオルガンを暖めるために、熱くなる照明器具で照らしたという話も聞いたことがありますが、製作者的にはそれは避けて欲しいところです。
ピアノであれば、別の部屋で調律してもOKなのですが、パイプオルガンは「笛」の集合体なので、気温につれて変化する音速の影響を非常に受けるのです。
なので、コンサート本番の時の環境に極力近付けた状態で調律しないと精度が出ないのです。

今回使うような、移動できる小型パイプオルガンをポジティフ・オルガンといいます。
本来は「位置の定まったもの」つまり動かせないものを意味したのですが、その辺のお話はまた。

事前の予定では、午後1時から2時半までが調律の時間に割り当てられていました。
このうち、1時間程を「慣らし」のために使い(つまりは何も出来ない)残り30分程で調律するつもりでした。
ところが、合唱の人たちが入ってみえて、どうもリハーサル前のウォーミングアップに入りそうな雰囲気になって来ました。
そこで急いで調律の許容度を少し甘くして全体のバランスをとりました。
案の定、時間を取られてしまいました。
こういう「聞いてないヨー」ということは普通に起こります。
ステージマネージャーの方と、タイムスケジュールを見ながら、別に時間を確保しますが、それさえも流動的な可能性があるのです。

こちらも仕事ですので、必要な時間は確保しなければなりませんが、他の演奏者との摩擦は最大限避けなければなりません。
演奏前で、皆ナーバスになっていますし、僕が摩擦を起こすと、その反感は僕にではなくオルガニストに向かうことになりかねませんから。
演奏者すべてが気分よく全力で演奏に臨めるようにするのが「裏方」の努めです。
だから、オルガニストに限らず他の楽器の演奏家のおねいさん達とも楽しくお話したりします。
ええ、仕事ですってば。

到着したオルガニストに、楽器の特徴、使用上の注意を伝えます。
この種の楽器は、ほとんどハンドメイドなので、同型のものでもちょっとした違いがあったりするのです。

リハーサルが始まります。さあもう手の出しようがありません。開き直るだけです。

さらに続きです。

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2 コメント

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監督と同じ (tosi)
2007-12-01 17:20:37
 監督と同じですね。選手が気持ちよくプレーできるように舞台を整える、その為の雑用一切を引き受ける。そしてイザ始まれば注目されるのプレーヤー・・・。でもそんな裏方仕事が好きなんです。 
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裏方は楽し (ひろなん@風琴屋)
2007-12-02 17:57:11
tosiさん、ようこそ!

舞台関係の裏方さんと接するする機会はわりとあって、これは楽しいです。
皆さんいろいろな分野のスペシャリストで、興味深いお話を伺えます。

経費削減などで、そういった方々の立場も苦しくなってきているようですが、貴重なワザやノウハウは失われてしまうとなかなか取り戻せないものですよね。
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