いのちの煌めき

誰にだって唯一無二の物語がある。私の心に残る人々と猫の覚え書き。

毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記

2023-06-06 14:34:00 | 日記
先のブログに、高齢男性入居者が親切にしてくれる女性介護者に、老いらくの恋をする事があるという記事を書いて、思い出した。

以前、北原みのり著「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」という本を読んだ。

首都圏連続殺人犯で 死刑囚の木嶋佳苗は、3度目の獄中結婚をしている。

逮捕された時や裁判中は、彼女のその風貌と婚活詐欺及び殺人という事件に、世間が騒いでいたことを覚えている。
でも当時、その事件への私の関心は薄かった。
ところが、木嶋は3度目の獄中結婚をしているということを知って、少し興味が湧いた。

この世には一所懸命、婚活しても 一度も結婚出来ない男女が 沢山いるのに、どうして? 指一本触れられない、ガラス越しの死刑囚相手に、 恋が出来るのだろうか?

3度目の結婚相手は、週刊誌の編集者とのこと。
木嶋の言葉を記事なり、手記なりにしたいという欲望があるのかもしれない。
例えば、そういうビジネスライクな気持ちを考慮したとしても、それでも、結婚までの決断をしたことに、私の想像力は大いに刺激される。
少なくとも、3度目の結婚相手は、木嶋と結婚するために子までなした前妻と離婚している。

木嶋佳苗って、どういう女なのだろう。
裁判傍聴記の他、数冊、本を読んでみたけれど、全く 捉えどころがない。

ものすごい自己愛性人格障害者だということはわかった。と同時に、被害者に対する自責の念も、反省も、もちろん謝罪も全く示さないサイコパスだろうということも感じた。
事件当時の出会い系サイトや婚活サイトの利用者の中には、名乗り出なかった木嶋佳苗の詐欺被害者が、まだまだ 多くいるんだろうなとも感じた。

あの事件がセンセーショナルに明るみに出た時、世の男性陣は口を揃えて、「デブで ブス。あんな女の どこがいいんだ。俺は 絶対、騙されない」と嘲笑った。でも、私はそうは思わなかった。

実際に裁判傍聴をし、生身の木嶋佳苗を見た人々は、彼女の言葉には言い表せないような魅力に、少なからず引き付けられたという。特に「鈴を転がすような、可愛らしい声」と著者は書き記している。

木嶋佳苗のような女に目を付けられた、財産持ちの男性達が次々と被害者になってしまったことは痛ましい事実だか、彼らがどうしても逃れられなかったことも、私には少しわかる気がする。








昭二さん

2023-06-06 02:05:00 | 日記
昭二さんは90歳代、男性。心疾患の既往歴はあるが、体調は概ね良好。認知症もない。
体格は小柄だけれど長年、港湾関係の仕事に従事していたそうで、しっかりした身体付きをしている。

勤めていた会社では、責任のある立場だったということが昭二さんのプライド。「わしは人を動かすのが、上手かったんや」とよく話す。「動かん部下を動かすには、どうしたらいいと思う?」「口で言うてもアカンぞ。何よりもまず、自分が動くことや」と胸を張って、教えてくれる。

昭二さんは、奥さんを早くに亡くしていた。加えて、結婚して二児をもうけていた息子さんも亡くした。そして、その子どもさん達を引き取って、昭二さんが育て上げた。今は成人したお孫さん達への負担にはなりたくないと、自ら施設への入所を決められた。

家事全般をこなして来た昭二さんは、とてもマメだ。私達が家事援助のヘルプに入っても、細かく指図される。買い物には自分で行かれるが、特売品や値引き商品を選ぶ倹約家でもあった。

そんな昭二さんは、私達の同僚のある介護者に思いを寄せるようになる。

彼女は40歳代後半で、ポッチャリとした体と優しい面差しを持ち、また情のある話し言葉を使い、他の入居者様からも人気があった。ただ何かのことで、彼女がシングルマザーであるという事情を聞き、昭二さんの心にスイッチが入った。

昭二さんから彼女へのアプローチは、日ごとにヒートアップしていく。もちろん、彼女にそんな気は更々なく、いくらお断りしても「結婚してくれ」と迫られると困っていた。職場の上司からも再三、昭二さんに注意は入ったが、昭二さんはその時は「わしはそんな事、言ってない」と、とぼける。

ある日、昭二さんの部屋の窓の下に、いろんな食料品が、投げつけられたように遺棄されていた。よく見ると、半額シールの貼られたパンやお菓子やお惣菜だった。私は昭二さんの部屋へ行って、「買ってきた食べ物、捨てたん?」と聞いた。「わしはそんな事、してない」とまた昭二さんは、とぼけた。

それらの食料品は、昭二さんが意中の彼女にあげようとしたものだった。
彼女がそれを固辞したので、腹を立てて、ぶちまけたのだ。

彼女はそれから、まもなく退職して去った。

人気者の彼女がいなくなって、他の入居者様も、私達職員も寂しかった。